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最強魔王、引退したい。でも勇者がだめすぎるので、育成はじめました。  作者: 冬木ゆあ


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第10話 魔王、ダンジョン攻略したい②

 勇者一行は一つの扉の前で止まり、自然と互いの顔を見合わせた。

 息を潜め、中の様子を探る。

 ジャンの視線を受けて、リリトヴェールは頷いた。


「間違いない。ダンジョンの主がいる」


 ジャンがわずかに震える手で剣を抜き、口火を切った。


「よし。みんな、気を引き締めて行くぞ」


 アランは頷き、それに倣って勇者の剣を抜いた。

 リリトヴェールも杖を両手で握り直し、メラニーも短剣に手をかけている。

 先陣を切り、扉を開けたのはアランだった。


「よく来たな。勇者よ」


 心地よい低音の声が室内に響き、空気が張りつめた。

 目の前にはフェンリルが勇ましく立っている。

 それを見上げ、最初に呟いたのはリリトヴェールだった。


「フェンリル……。実在したのか」


 ジャンも同じくフェンリルを見上げながら呟いた。


「フェンリルってまじか……」


 アランが剣を構えながら尋ねた。


「フェンリルってなに?」

「神話の時代の獣だよ。まさかこんなところで眠っていたなんて……」


 リリトヴェールが杖を構えて一歩前に出ると、フェンリルは毛を逆立て、慌てて言った。


「ちょっと待て。用があるのは勇者のみ。他の者は下がっていろ!」


 ジャンとメラニーはその迫力にびくりと肩を揺らし、一歩下がった。

 名指しされたアランはビックリして自分を指差した。


「え? 俺だけ? やだなぁ」

「いざ、尋常に勝負!」


 フェンリルがそう言うと、アランは不安そうにリリトヴェールを振り返った。

 リリトヴェールは拳を握って言った。


「よく分からないけど、フェンリルのご指名だ! やばかったら腕輪を壊せばいい。いけ! アラン!」

「ええ……。他人事だと思って……」


 そう言いながらもアランは剣を構えて、フェンリルと向き合った。

 先に動いたのはアランだった。


「ファイアーボ―ル!」


 剣先から三発の火の玉が放たれ、左右からフェンリルへと飛んだ。

 直撃したフェンリルはにやりと笑った。


「ほう。三発を同時に操るか。なかなかやるではないか。だが、この威力では我を倒すことはできぬぞ。勇者よ、本気を見せてみろ!」


 アランは歯を食いしばり、斬りかかった。

 それをフェンリルの右手足が払い、アランは地面に叩きつけられた。

 リリトヴェールは思わず叫んだ。


「アラン!」


 床に倒れたアランは片膝をつき、情けない顔をしてリリトヴェールを振り返った。


「……もうやめてもいい?」

「何を言っている、もうちょっとがんばれ! アランのすばしっこさを活かすんだよ!」


 アランは渋々と立ち上がり、再度攻撃を仕掛けた。

 フェンリルは前足でまた弾き飛ばそうとしたが、アランはそれを掻い潜った。


「すばしっこい奴め」


 フェンリルの後ろを取ったアランが剣を振り上げ、斬りかかろうとしたが、今度はしっぽで弾かれた。

 また地面に転がったアランを見て、リリトヴェールはフェンリルを睨んだ。

 その視線を受け、フェンリルは思わず肩を揺らした。


 ――あの闇の奴が怖くて、戦いに集中できん……。なんだ、この『お母さんの前で息子をなぶっている』ような気分は……。


 アランとフェンリルが向かい合ったが、お互いから最早やる気は感じられなかった。

 フェンリルは大きなため息とともに、その場に座った。


「……いいだろう。勇者の決意は伝わった」

「え! そうかな? まだ足りないと思うけど……」


 リリトヴェールがびっくりしてそう尋ねると、フェンリルはまた大きなため息をついた。


「よい。もともと勇者が来たら渡そうと思っていたものだ」


 フェンリルが一吠えすると、アランの前に光が浮かんだ。

 光が薄くなると、そこには盾があった。


「勇者の盾だ。持って行け。きっとお前を守ってくれるだろう」


 アランが勇者の盾を手に取ったのを見て、フェンリルはその場に丸くなった。


「もう用はない。さっさと出て行け」


 アランは嬉しそうに勇者の盾を持って、リリトヴェールに見せにきた。


「もらったよ! リリー」

「……よかったな」

 

 リリトヴェールはどこか腑に落ちないところがあったが、浮かれているアランを見て、少し呆れたような笑みを浮かべた。

 リリトヴェールたちが部屋をあとにしようと扉に向かうと、フェンリルはふと顔を上げて尋ねた。


「貴様、何者だ? なぜ勇者と旅をしている」


 リリトヴェールは振り返り、口元に笑みを浮かべた。

 それはどこか威厳に満ちていた。


「内緒だよ。フェンリル」


 フェンリルはその答えにふんと鼻を鳴らした。


「二度と来るなよ。もう会いたくないからな」


 その言葉と同時に扉は閉まった。

 扉の外では、ジャンがアランの頭を撫でていた。


「フェンリル相手によく頑張ったな、アラン」


 へへっとアランは嬉しそうに笑った。

 メラニーが自分の緊急脱出用の腕輪に手をかけた。


「さぁ、外して戻りましょう。地上へ」


 四人が同時に腕輪を外すと光輝き、その場から消えた。

 次の瞬間、四人はダンジョンの入り口に立っていて、ジャンはアランの肩に手を置き、叫んだ。


「勇者一行は、ダンジョンを攻略したぞ!」


 視線がジャンとアランに集まり、わぁと歓声が上がった。


「勇者って、レベル六だったあの?」

「さすが勇者様だな!」


 リリトヴェールはその様子を見ながら思った。


 ――ジャンはアランに花を持たせてくれたのか。冒険者ギルドでは散々なめられていたからな。ありがたい。


 冒険者たちがアランを取り囲み、称賛してくれた。

 それを遠巻きに見ながら、リリトヴェールはジャンとメラニーに話しかけた。


「ジャン、メラニー、ありがとう。これでアランを見くびる奴はこの街にはいないだろう」


 ジャンはにっと笑った。


「いいってことよ。俺たちはダンジョンを初攻略したパーティの一員ってことで箔がつく。お互い様だ」


 リリトヴェールはジャンに尋ねた。


「ジャン、アランと一緒に魔王討伐の旅に出てくれない?」


 ――ジャンにならアランを託せる。


 そう心から思っていた。

 しかし、ジャンからの回答は期待していたものではなかった。


「その申し出は魅力的だが、遠慮しておくよ」


 それを聞いていたアランが冒険者たちの輪を抜けてジャンの元に駆け寄ってきた。


「どうして? 一緒に行こうよ。ジャン、メラニー」


 ジャンはアランの肩に手を置いて、珍しく真剣な面持ちで諭すように言った。


「今はいい。だが、いずれ俺とメラニーはお前のお荷物になる。お前とリリーと一緒にダンジョンに潜ってそう感じたんだ。それだけお前たちは特別なんだよ」


 それからジャンはいつもの調子に戻って、メラニーの肩を抱いた。


「それに、俺たちにはかわいい子供たちもいるからな。長旅はできないんだ」


 それを聞いて、アランは肩を落としていたが、納得したように頷いた。

 ジャンはアランに手を差し出した。


「楽しかったよ、アラン。一緒にダンジョンに潜れてよかった」


 アランは少し寂し気な笑顔を浮かべて、ジャンの手を握った。


「俺も。楽しかった」


 そうして、四人はダンジョンで手に入れたお宝を換金し、冒険者ギルドの酒場で他の冒険者たちとともにダンジョン攻略を祝って盛り上がった。



 それから二日後。

 リリトヴェールとアランが宿屋を出ると、アランの出発を聞きつけた街の人たちが沿道から見送ってくれた。

 その中には、ジャンとメラニーの姿もあった。

 二人の子供たちがこちらに手を振っている。


「アラン、気をつけてな!」

「リリーもね! 応援しているわ」


 リリトヴェールとアランは手を振ってそれに答えた。

 リリトヴェールは笑顔で隣を歩くアランに声をかけた。


「それじゃ、デランジェール王国に向かうとするか」


 アランもリリトヴェールに微笑み、頷いた。

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