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第2話「偽りを暴く鏡と、聖女の微笑」


魔王城の玉座の間。カイ・アシュラが「魔王」として君臨してから一週間が過ぎた。


カイの玉座は、薄氷の上にある。四天王の忠誠は揺らぎ、部下たちの視線には疑惑が宿る。遺言書が偽造だとバレれば、玉座は崩れ、カイは即座に処刑される。


「新たな王よ。北の魔族領で反乱の兆しだ」


炎の将軍ガルドが、玉座に座るカイを試すような荒々しい声で報告する。


「反乱だと? 魔王が死に、俺が玉座に就いた途端か。随分とタイミングがいいな」


カイは笑みを浮かべ、内心で舌打ちする。反乱は、遺言の真偽を疑う者たちによる、最初の明確な反抗だろう。


氷の魔女セレナが冷たく付け加える。「反乱軍は、遺言書が偽物だと主張しています。彼らは『人間の勇者に魔王国を渡すはずがない』と」


「ふん。だったら俺が直々に潰してやる。反乱の首謀者は?」


「北の領主、鉄の侯爵バルガス。魔王に最も忠実だった男です」


カイは頷き、思考を巡らせる。バルガスを討てば、四天王の忠誠を一時的に固められる。だが、遺言の偽造を隠し通すには、血と、もっと大胆な**“形”**が必要だ。


二人が退出する中、影の参謀クロウが静かに進み出る。


「王よ。バルガスは魔王の遺物――『真実の鏡』を所持している。あれは、魂の刻印すらをも通し、偽りを暴く宝具です。気をつけなさい」


カイの背筋に冷たいものが走る。真実の鏡――【全能改変イージス・ゼロ】の偽装を暴く、最悪の脅威だ。鏡に映れば、玉座は崩壊する。


その夜、カイは魔王の私室でルキウスのペンダントを握り、再び記憶を呼び起こす。


「俺は…戦争を止めたかった。人間も魔族も、欲望のために戦う。俺が魔王として抑止力になれば、和平は可能だと……」


ルキウスの意志は、戦争を終わらせるという点でカイと一致する。しかし、ルキウスは力を以て抑圧しただけだ。


「俺は、お前の意志を継ぐ。だが、復讐も果たす。そして、偽物の上塗りを完璧にしてみせる」


カイはペンダントを強く握りしめ、決意を新たにする。


翌朝、カイはガルド、セレナを率いて北の魔族領へ向かった。反乱軍の砦、鉄の要塞。


カイは光の剣を手に、先陣を切って敵陣へ突入する。


「バルガス! 俺が新たな魔王だ! 出てこい!」


鉄の侯爵バルガスが現れる。巨漢の魔族は、両手に巨大な戦斧を握っていた。


「人間の勇者が魔王だと? 遺言書は偽物だ! 真実の鏡が、それを暴く!」


バルガスが鏡を掲げる。勇者の偽造が暴かれる瞬間――だが、カイは動じない。


全能改変イージス・ゼロ】発動。


対象:真実の鏡の『魔力特性』。


内容:“鏡は偽りを映さない。勇者カイ・アシュラを魔王と認め、その遺志を継ぐ者として認識する”


鏡が光を放ち、バルガスの表情が凍りつく。鏡は、遺言書を偽造したカイの姿を、あたかも正当な魔王であるかのように映し出したのだ。


「な……なぜ、鏡が勇者を魔王と……!?」


「バルガス、魔王の意志を疑うなら、俺が直々に裁く!」


光の剣が閃き、バルガスの戦斧を弾き飛ばす。ガルドとセレナが援護し、反乱軍は一瞬で混乱に陥った。


バルガスは膝をつき、呻く。「王よ……俺の負けだ。だが、この真実は……」


「真実など、俺が作る」


カイは冷たく言い放ち、バルガスを拘束する。反乱は鎮圧されたが、鏡の効果は一時的なものだ。いつ偽造が露見するか、時間の問題だった。


魔王城に戻ると、血の公爵ヴァレンが待っていた。


「見事な勝利だ、王よ。だが、一つ厄介な来客が。王国の使者が到着しました。聖女エリスが、貴方を『祝う』と」


カイの目が、怒りの炎を宿して細まる。エリス――俺を召喚し、嘘で鎖に繋いだ女。彼女の微笑こそが、俺の復讐の核だ。


玉座の間に、白いローブの聖女が立つ。その背後には、王国の騎士団が控えている。エリスは、三年前と同じ、甘く無垢な微笑を浮かべた。


「新たな魔王様。まずは、和平を結びましょう。貴方が魔王なら、王国は戦争を終える用意があります」


「和平だと? 俺を拉致し、家族との繋がりを断ったお前が、よく言う」


カイの声に、騎士たちが剣に手をかけ、玉座の間の幹部たちが緊張する。


エリスは微笑を崩さない。


「勇者様、貴方は英雄です。過去は水に流し、新たな時代を――」


「過去を水に流す? 冗談ではない。俺の復讐は、ここから始まる」


その瞬間、玉座の間に奇妙な魔力が漂った。遺言書の偽造、そして真実の鏡への上塗り――その根幹を、誰かが探っている。ヴァレンの視線が、鋭くカイを刺す。


「エリス。和平は考える。だが、お前は二度と、俺の玉座に来るな」


カイは立ち上がり、聖女を睨みつけた。彼女の微笑が、わずかに歪んだ。


「……承知いたしました、魔王様」


復讐の王道は、まだ始まったばかりだ。

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