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第1話「魔王の首と、復讐の玉座」


「これで終戦だ――」


名もなき勇者、カイ・アシュラは、全身に纏う聖なる光を弾けさせたまま、光の剣を眼前の巨躯に叩きつけた。


血と炎が舞う玉座の間。魔王ルキウス・クロノスの巨躯は、砕けた床石に倒れ伏す。


「なぜだ、勇者! なぜ……平和を拒む!」


魔王の瞳に宿る、自分と同じ絶望と諦観。その真意を知る術はなかったが、カイは迷わない。答えを拒み、ただ剣を振り下ろした。


ガキン、と鈍い音が響き、ルキウスの首が絨毯を転がる。これで、俺の表向きの役割は終わった。


光が弾け、ステータスウィンドウが音もなく浮かぶ。


名前 カイ・アシュラ

職業 異世界の勇者

レベル 269 → 278

スキル 全能改変イージス・ゼロ


「レベルが上がるのは、四天王を倒して以来か……」


カイは呟き、血に濡れた剣を鞘に収めた。元社畜、現・異世界召喚された復讐者。この世界のテロリスト――クソ王国の道具として三年間を費やした結果が、この力だ。


ルキウスの最後の言葉は「世界を平和にしたかった」だったという。チッ。平和とは、俺を拉致・監禁し、元の世界への帰還を餌に暗殺を強要したお前たちが語っていい言葉ではない。


「――お前の願いは、俺が違った形で叶えてやる」


「勝ったぞー!」「終戦だ!」


外で叫び声を上げる王国の兵士たちの喧騒を無視し、カイは魔王城の玉座の間を見渡した。王国の使者が駆けつけるまで、残された時間は少ない。


玉座の脇の血糊の中に、魔王が最期まで握りしめていた古びた金属製のペンダントが落ちていた。弱く光るそれに触れた瞬間、頭を殴られたような激しい衝撃と共に、ルキウス・クロノスの断片的な記憶が、濁流のようにカイの脳裏に流れ込んできた。


「俺は……お前と同じ、クソッタレな王国に召喚された『光の勇者』だった」


「この世界の真の悪は、平和を拒み、常に外敵を必要とする人間どもの醜い欲望だ」


「魔族の絶滅による終戦は、次の戦争への準備期間にすぎない。だから俺は、魔族を統一し、『絶対的な抑止力』としての魔王となることを選んだ。魔王という強大な敵が存在することで、人間は戦争を始められなくなる……」


なんだと……この魔王、元・勇者だと!?


カイは愕然とした。ルキウスは、戦争を終わらせるために“魔王”という「抑圧的な平和」の象徴となった、もう一人の異世界からの被害者だった。


「ルキウス・クロノス。アンタのやったことは、間違っちゃいねぇ。だが、アンタのやり方じゃ、いずれこの抑止力は破綻する。平和は、支配だけでは続かない」


カイは血濡れの剣を抜き、魔王の遺体を玉座に座らせた。そして、【全能改変イージス・ゼロ】を発動する。


このスキルは戦闘には全く役に立たない、糞みてぇなチート能力だ。その効能はただ一つ、完全な偽造書類を作ること。筆跡、印影はもちろん、指導者の死後に後継者を指名するために刻まれる「魂の刻印」すらも、最高位の魔力鑑定を欺き、正当なものとして偽造できる。


【全能改変】発動。


対象:魔王ルキウス・クロノスの『正当な遺言書』


内容:“魔王ルキウス・クロノスは、次代の指導者として、異界の勇者カイ・アシュラを認める。彼は我が意志を継ぎ、魔王国を真の平和へと導く者である”


遺言書の偽造は、この世界では死罪。魔王国でも同じだ。だが、これがなければ魔王国は政治的な空白により内乱に陥る。そうなれば、俺の目的――異世界召喚システムの撲滅と、王国への報復は果たせない。


--- 3年前の記憶 ---


召喚されたとき、俺はただの会社員だった。王は言った。「勇者よ。魔王を討てば元の世界に戻してやろう」


三年の戦いの中で、俺は知った。召喚術は一方通行。帰還の術など、最初から存在しない。王は嘘をつき、俺を“殺しの道具”として使い捨てた。


これは救済ではない、拉致だ。そして俺は、そのテロリストどもを討つ暗殺者となった。


魔王の遺体が荼毘に付されてから三日。


灰の舞う空の下、玉座の間には、張り詰めた沈黙が支配していた。


カイの前に跪くのは、魔王の側近たち。炎の将軍ガルド、氷の魔女セレナ、影の参謀クロウ、そして黒衣の神官リリス。彼らは人間でいえば一国を滅ぼせる怪物たちだ。


「……勇者殿。この遺言には、確かに王の魂の刻印が記されております。しかし、これは本当に、魔王様の御心に沿ったもの--」


カイは冷たく言い放った。

「魔王の遺言書に、偽りはない。異議があるのなら、この場で俺を討てばいい」


沈黙。炎の将軍ガルドの拳が、殺意を込めて僅かに震える。


やがて、氷の魔女セレナが立ち上がった。


「……ならば、我らは従いましょう。“魔王の意志”に。そして、新しい王に」


次々に、他の幹部たちも恭順の意を示す。


――人間も魔族も、形だけの“意志”を信じて動く。だからこそ、俺は**“形”**を操る。


夜更け。【血の公爵】ヴァレンが、音もなく玉座の間へ現れた。


ヴァレンは偽造された遺言書を一瞥し、玉座のカイを見た。その瞳には、疑惑と計算、そして「勇者の皮を被った魔王」を見るような、ゾッとするほどの洞察力が宿っていた。


「勇者カイ・アシュラ……。これは、どういうことですかな? 魔王様が、異界の勇者ごときに、この国と、ルキウス様の遺志を託すなど……」


「見ての通りだ、公爵」


カイは玉座から、ヴァレンに向けて、獰猛に笑ってみせた。


「勇者殿……いえ、“新たな王”。私は信じております。魔王様の遺志を継ぐのは、あなたしかいないと」


「……そう言って、俺を監視するつもりか?」


「監視? いいえ、陛下。共犯ですよ」


その言葉に、カイは初めて警戒を緩める。


「共犯、ね。面白い言葉だ」


公爵は静かに微笑んだ。


「この国は、信仰で成り立っています。あなたがその象徴であるなら、我らはそれを信じるだけ」


彼は去り際に、耳打ちした。


「……ただし、“神”は嘘を嫌います。偽りの意志は、いつかこの玉座を焼き尽くす。お気をつけて」


扉が閉まった後、カイは深く息を吐いた。遺言の偽造が露見すれば、即座に処刑。だが、恐れていては復讐は果たせない。


窓の外、赤黒い月が浮かんでいた。


遠く、白いローブの女――聖女エリスが、使者の一団と共に魔王城を監視していた。


「エリス……お前から、必ず裁いてやる」


勇者として戦い、“魔王”として裁く。それが、俺の報復の王道だ。

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