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最終日 使徒と代理人
「痛ててて…急に止めるなんて、危ないじゃない!」
石畳に両手を突き、ゆっくりと起き上がる女。腕や腹を叩き、砂ぼこりを払っている。
「いつも通りなら、《水》を使って、止まるだろ。それが、出来ないのは、頭に血が、昇ってるからで、僕の所為じゃ、無い。」
呼吸を整えながら、ふらつく前脚と後脚を動かして、女へ近づく狐。
「遅れたけど、せめて列移動には間に合わせなきゃ!7時前に着くには、この時間でギリギリよ、仕方無いじゃ無い!」
「いや、駄目だ。一般人に見られたらクレームになる。君は冒険者だが使徒でもある、仮でもね。祝祭都市内なら、冒険者組合も多目に見てくれるが、町中なら話は別だ。調査されて、使徒だと判明すれば、組合から教会に抗議される。教会は、面倒を嫌う。最悪の場合、帰れなくなるかも知れない。半年の努力が無駄になるんだ。最後の日だからこそ、慎重にすべきじゃないか」
眉根を寄せて狐を見下ろす視線と、目を眇めて女を見上げる視線がぶつかる。
「あのね」先程までの苛立つ様子が消え、無機質な声が女の口から漏れる。
「何だよ」狐が牙を剥き出しにして見せる。
「前から言いたかったんだけど……」目を閉じて、溜息をつき
「ダイリニンってなに?」
「そこじゃ無いだろ!?」




