最終日 午前6時32分
「何なの、これ…でっか…えぇー?道の真ん中にこんなもん…作った奴なに考えてんの…」
ぐるぐると円筒の周囲を回りながら見上げるが、入口らしき物や、階段も無い。
「駅じゃないでしょ、これは…もうあと5分も無いのに、どうするか…ん〜む…あ、ちょっと水売りのおばさん!」
いいトコで会えてラッキー!、と道の北側からやって来た、水色の、屋根が鮮やかな屋台を引く、麻のローブを纏った白髪の女性に駆け寄って行く。
「はい、らっしゃ…何だ、またあんたか。冷やかしなら帰った帰った、どうせ今日も買わないんだろ」
「そんな、知らない仲でも無いじゃない、水くさい…ちょっとだけ教えて欲しいの!あのでっかい石の塔なんだけど、あれ何か知ってる?教えてくれたら買うから、お願い!」
「何って、駅の入口だろ?改装したらしいよ。祝祭神様の勧請に合わせてね。何で石を積んだかなんてあたしは知らない。初めて来る人には分かり難いだろうけど、ほら、あそこに一つだけ赤い、色の違う石が有るだろ?あれを押すと入口が開くらしい。何でもここら辺の子供達を掻き集めて、石積させて作ったらしいよ、一つ積んでは神のため、だとさ。全く、教会ときたら」
水売りが説明をしながら、屋台の棚から何か取り出そうとしている隙に、女はサッサと赤い石を探し当て、開いた石扉の中に入って行く。
「…とこんな訳でね、今日、あたしに会えたあんたはついてるよ!見てご覧、この美しい水の色を!これを飲めばあら不思議!辛いことも悲しいこともみ〜んな忘れて新しい人生が始められる!生まれ変われる忘却の水!その名もシンセカイ!是非、あんたにも」
誰もいない空間に、女性はコップを差し出した。仕事へと急ぐ視界は、そちらを見る事は無い。人々が避けてゆく、ぽっかり空いた場所…コップは仕舞われ、水売りが屋台を引いて行く…最後までコレかい…と言う呟きを残して。




