最終日 午前6時31分
「おっちゃん、ありがと!」
迷う事なく女は北へ、対岸に歩を進める。
「早朝に、さり気なく道を教えてくれるなんて、異世界人も良い人いるじゃない…でもあのオッサン…かどうかは分からないけど…何か気になる…何処かで…」
と言いながら振り返るは事せず、石畳を滑るように渡り切る。途端、ロークデナシーロークデナシー、と老若男女の声が重なり合った様な歌声が響き出す。女のポケット辺りから。「あいつ…また」と言いながら、ポケットを探り
「この呼び出し音、止めてくれない?今朝はマナーモードにしてたでしょ!そのままにしといてよ…何?…確かに知らない人だけど、騙す理由なんかないじゃない…大体あんたの地図は門の中限定で、役に立たないクセに文句だけ言うなんてどう…今急いでるのわかってるの?こんな朝早くに理由なしにそんな事あーやだやだ人の善意を疑うなんてそんな狐とは話せません!!」
はいブロック、と手をポケットに突っ込み、さて、駅は、と周囲を見回す女の前には、今し方の、対岸の街道沿いと同じ様な商店が立ち並ぶ…ただ1点を除いて。女は、立ち止まって、それを暫し見つめる…がその異様な1点を敢えて避ける様に、歩き出す。閉まっている商店の前をうろついたり、数少ない通行人に、明け方は冷える様になりましたね、などと話し掛けたり、細い路地に何か見落としが無いか覗いてみたり…そして、直ぐに諦めて戻って来る。
「オッサン…騙したりしないわよね…間違っただけよね…私が間違って、狐の言う通りなんて事…でも、これ、ナニ?」
眼前に立つ、自身の倍ほども高さの有る、石積の円筒を見上げて呟く。




