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最終日 午前6時30分
菓子屋も銀行も食堂も土産物屋も、殆どの店は開店前で、立ち止まる者はいない。人も疎らな朝の街道沿いを、他人にも見える程度の速さで、女は走る。狐の忠告は一応、耳に届いていたらしい。女が通った後には、濡れた石畳が残されるが、それを気にする者はいない。早朝の当番で仕方なく仕事場に向かう人びとの中には。
「嘘でしょ、ここも…」
2つ目の交差点の角に有った、地下への入り口も、鉄格子で閉じられている.女は丸鏡を取り出して、鏡面を何度か指でなぞる。
「場所は合ってる…何で入れないの、もう時間が」
まだ距離の有る3つ目の交差点へと、女が視線を向けた時、人影が横切ってゆく。黒い三角帽子に黒いロングコートの、不明瞭な影…人に見え無くもない…が両手でバツ印を作り
「アカンで」
いま、自身が渡って来た、大通りを挟んだ、女が立っている方からは北側を指差して
「アッチやで」
と不明確な声を残し、通り過ぎる。




