冒険者ギルド
馬車は北上し、しばらくすると大きな壁が見えてきた。街を取り囲むその壁は白塗りで硬い守りを想起させるものである。
堀が壁の周りにしかれ、有事の際は敵襲をここでくい止められる、まるで城のような構造となっている。
領民を守るための配慮がそれだけで感じられる。
馬車は門の前に並ぶ行列に並ぶ。
「結構人いますね。」
「そりゃ、都市だから人は集まるさ。」
「ああ、村とかは人の流出の方が多いのでしょうか。」
「どちらかと言うと出稼ぎに近いかもしれないな。夜は村に帰る人が多いだろう。宿代が馬鹿にならないから。」
「高い…と。」
「一日の稼ぎよりは。」
「なるほど…」
(僕の想定では身分証なしで金貨1枚、ありで銀貨5枚でしたが、それより高いですか?)
(あぁ、いや、それは適正くらいだと思う。しかし金貨1枚や銀貨5枚以上を一日で稼げるほどの強さや運を持っている人は少ない。)
(…なるほど、世知辛い。)
(仕方ない。それに年々、特段何かある訳でもないのに物価が上がっているように見える。ここはそうでもないが、他の領は特に。)
(領…。もしかして、年貢ですか?)
(年貢?…あぁ、そういうことだな。しかし税がなければ国の維持や整備、保護ができないのは事実だ。)
ここでは年貢ではなく税と呼ぶようだ。僕のいた国でも…確かいつの間にか税金になっていた気が…?うむむ、思い出せそうで思い出せない。あまりにも断片的な記憶である。
(そうですね。税はきちんと使えば国の繁栄に繋がります。国防がしっかりしていれば攻められ、国を落とされる心配も少ない。医療費の補填があるのなら、高い医療費も全額支払う必要は無い。公務員にも適正なお金が支払われ、重要な人材の他国への流出も防げるでしょう。税金は国のお金、その他の自分で稼いだお金は自分のお金という区切りを付けていて国民がそれを理解しているのなら国は維持されるでしょう。)
(…ベル、それ口に出したら怒られるからな)
(つまり適切に行われてないということですね)
(…今は…特に…ね。)
シャルは苦し紛れにそういった。
…今はとは、好転するきっかけが無ければそんなもの、変わらないだろうに。
(そうですか。)
(ベルはどうしてそんなこと知っているんだ。学がなければそのような事は分からない。)
(んー、僕もよく思い出せないな、でも僕の心はそう言っているんです。)
(そうか…)
シャルは思った。
もしかしなくても、どこかの貴族なのではと。
ベルはあの時下の名前しか言わなかった。もちろん、平民は下の名前しかないが。しかし平民にしてはしっかりとした教養がある。
そうこうしているうちに自分たちの番がやってきた。
「ありがとうございました。」
「いやいや、間違ってすまなかったね。」
ぺこりとお辞儀をして馬車をおりる。
「シャルさん!!!!」
「やぁカイくん。」
「やぁじゃないですよ〜!依頼も受けてないって言われるし、心配してたんですからね!」
「ごめんごめん、ちょっとね。はい、身分証」
「はーい、確認できました〜」
軽い返事に不貞腐れたのかカイと呼ばれた門番さんはちょっと低い声で拗ねたように返事をした。
そしてこっちを見て言った。
「え、シャルさん、この子は?」
「あぁ、連れだ。」
「なんと!」
「ベル、身分証を」
「はい。」
「ベルーナさんですね。だ、…」
カイさんはあんぐりと口を開けたままこっちを見て身分証をみてを繰り返す。
「ど、どうかされました?」
「い、いえ。確認出来ました。どうぞ。」
「ふっ」
(あいつ、女だと思ってたな)
(えぇ?失礼な)
ベルとシャルは歩いて門の中へ入っていった。
「さぁ、着いたぞー!ここがこの大陸の最南端の都市フィンリーだ!まずは、冒険者ギルドにいこう!」
冒険者ギルドへ行く道中めちゃくちゃ視線を感じた。
「ここが冒険者ギルドだ」
看板には盾と剣があしらわれ、レンガ造りの立派な建物である。
「失礼しまーす。」
ベルはそう言って冒険者ギルドの中に入る。
「あれ、シャル?え、女…連れ…だと…」
「…」
(男って言うのも疲れてきたのだが。)
(…だって男には見えないよ…)
(…えぇ、)
「えっと…冒険者登録をしに来ました。」
「は、はい!」
受付嬢の方にそういうと奥へ引っ込んで行った。
「??」
「…」
「あ、あの、奥へお越しください!」
「え、あ、はい。」
登録は奥の部屋で行うらしい。
受付嬢の入った部屋にベルとシャルはついて行く。
中には灰色の髪の男の人がソファーに座り受付嬢の人は立っていた。
「こちらにどうぞ」
灰髪の男の人はこちらへと手招きをしてシャルとベルは対面のソファーへ座る。
そして受付嬢に受付へ戻るように指示をする。
「まぁ、まずは、おかえりシャル。何処にいるか分からず心配した。」
「すみません。マスター。」
「いや、いいんだ、無事でいてくれるならそれで。」
「はい。」
「俺はエイブリーという。フィンリーのギルドマスターだ。シャル、こちらの方は」
「俺のパーティーメンバー候補です。スカウトはまだですが、冒険者登録をしに来ました。」
パーティーメンバー候補…。…??
「え!?なにそれ!?」
「ほう、ソロだったシャルの?そこまで信用に足る人物とは」
「まって!?」
「ベル、俺と契約してパーティーメンバーになって?」
「え!?!?」
シャルはうるうるとこちらを見つめてくる。
「え???いや、でも、え?」
にこっと強い顔面でにこりと微笑まれ、くらくらする。
「い、いや、なんで僕?」
「チッ、やっぱ効かないか」
「え?舌打ち?」
「ほう。」
ギルドマスターは何故か感心している。
「?」
「いやな、シャルはかなり耐性がない人でない限り魅了しようと思えばしてしまうから。」
「なるほど…?僕、魅了耐性ありますから。」
するとシャルからげんこつが飛んでくる。
「そうやって軽々と人に言うなとあれほどいいつけただろ。」
「だって、シャルが信用してそうだったし…」
「まぁ、そうではあるけど…」
「どうして急に??」
「誘惑に負けてしまうような人をパーティーに入れる訳にはいかない。全く信用出来ないから。そうやってマスターには説明してきた。その分ベルは効かないから。それを伝えようと思って」
「わぁ、怖い怖い。」
顔が綺麗すぎてあのまま行くとまずかったなんて話すとシャルは離れていきそうなので黙っておく。
「まぁ、仕方ない。あれに比べ、お前さんはかなりの耐性持ち。いい人を見つけたな。ああ、それと、本題は登録だったな。」
「あれって…?」
「いや、こっちの話だ。」
ギルドマスターはソファーから立ち上がり、机の引き出しを開けて身分証程のサイズの鉄板を取り出す。
「こっちの魔道具に手を触れて」
「マスター、他言無用でお願いします。」
「シャル…、元々守秘義務はあるぞ。大丈夫だ。信用しろ。」
「はい。」
「これですか?」
それは透明な板のようなものだった。それにそっと手を触れる。
すると、色んな色の光が溢れてくる。やがてそれは4つに分かれる。
白い枠の中に紫と、赤、緑、透明?
「なるほど。これは。かなりの逸材。シャルとの相性も良い。」
「ベル、これはね、正確に鑑定できる魔道具だ。これほど正確に測れるのはこの国では4箇所の冒険者ギルドしかないが。他で測るのはやめておけ。」
つまりそれは、捕えられて奴隷にされる可能性のある月属性を持っていることが知られるということだ。
「わかった。」
「いつもは何属性で通してる?」
「火と無です。」
「了解した。」
すると今度は文字が浮び上がる。
ベルーナ・クラーク(男)19歳
人間
犯罪歴
なし
「…クラーク…。」
シャルの呟いた声はベルには聞こえなかった。
シャルはベルが苗字持ち、しかも記憶が正しければ隣国の亡命した貴族のものだと分かって動揺していた。
隣国の元貴族が亡命してきたのがこの国で、子孫は記憶を無くしている。そのことをシャルは今まで知る由もなかったのである。
しかし、ベルはこの国の危険分子に繋がってしまう。亡命した国がこの国であるなら、隣国がベルを狙ってやってくる。その可能性も十分にありうるためめある。
たしか代々クラーク家の長男にだけ引き継がれる月神の祝福を当時の王が独占しようと無理矢理……
シャルはそれを思い出し顔を歪める。
「人間…ふむ、よし、ではこれにサインを。」
ギルドマスターは紙を出し、サインを求める。
契約書のようなものだった。
なんで人間に反応したんだ??
いままで驚かれていた性別ではなく人間に反応したのがベルは理解が出来なかった。
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一、罪を犯さず、誠実であれ。
二、武力は誰かを守るために。
三、自分の行動に責任を。
四、険しくも自由な冒険を。
五、有事の際は手助けを。
以上を守り、冒険者としての使命を全うすることを誓う。
署名 ベルーナ・クラーク
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シャルはそれを見て息を呑む。
「ベル、だめだ。それは。」
ベルは本名をまるごと書いていた。シャルはその紙をぐちゃぐちゃにして水魔法で濡らし、名前が読めないくらいにインクを滲ませた。
「ど、どうしたの!?シャル…?」
「本名を書くな。名前だけにしろ。」
シャルのやけに苛立っている声にベルは驚く。これまでの期間、シャルがこんなに感情を出したことはなかったような気がしたからだ。
「…あ。うん、わかった。」
ベルははたと思い出す。あの時苗字を隠そうと思ったのについ署名欄にフルネームを書いてしまったのだ。
シャルは何かに気づいたらしい。クラークとは隠さなければいけないような家系だった…。ということだ。
ギルドマスターは一瞬眉をひそめたが、何かを思い出したように納得したようで、「ベルーナ、こちらで証拠は滅しておこう。」そう言って机に着いた。
「よし、これで隠蔽も出来たぞ。」
ギルドマスターは先程使用した魔道具の履歴を指で操作して消すと、先程の鉄板をベルに渡す。
鉄板にはチェーンかついていて、そこには名前と性別、そしてその横にFと赤く記入されていた。
「これはFランク冒険者という意味だ。」
「なるほど。いいですね。これを首にかけておくわけですか。」
「そうだな。ちょうど胸の位置に来るように調節した。万が一守ってくれる。」
「なるほど。よくできています。」
「まぁ、邪魔だからポケットに入れる人が多いんだ。」
そう言ってギルドマスターは苦笑した。




