91 【最終話】遠回りした真実
私たちは国境まで馬車を走らせて逃げた。
そして無事に砦に着いた。
するとすぐに他の騎士が、ハンス様たちのところへ応援に向かってくれるとの報告を受けた。
「ハンス……無事よね?」
思わず口から出た言葉にエイドが私を抱きしめた。
「お嬢……」
エイドはそれ以上何も言わなかった。ただ、私をずっと抱きしめてくれていた。
その後、私たちには別の騎士が護衛に着き、王都に戻ることになった。私はエイドの抱き寄せられて、帰り道をほどんど何も話さずに家路に着いた。
辺りが暗くなった頃。
ようやく馬車が屋敷に到着した。すると家の前には馬車が止まっていた。
「ゲオルグ?」
私は思わず呟いていた。
しばらくすると「シャルロッテ~~!!」という私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「ゲオルグ!!」
私も窓を開けて大きな声で呼んだ。
馬車が家の前に着いた途端に、ゲオルグが素早く扉を開けると、大きく腕を広げながら言った。
「無事だったんだな!! 会いたかった、シャルロッテ!!」
「無事よ……」
ゲオルグにの腕の中に抱かれたまま答えると、ゲオルグが怪訝な顔をした。
「どうかしたのか?」
そう聞かれた途端、目から涙が流れた。
「ハンスが……ハンスが……」
私はハンスに生きてほしいと思っていた。
涙が止まらなくて声にならなくて、ゲオルグが心配そうにエイドに尋ねた。
「エイド、一体何があったんだ?」
「実は……」
エイドがこれまでの経緯を説明してくれた。
するとエマが私に声をかけた。
「お嬢様。とにかく食事にしませんか? 今日は私が作りました。ゆっくりお風呂に入りましょうね?」
「ええ」
私は、エマと一緒に家に入ることにした。するとハワード様が「エマの手作りだと? 私も食べる」と言って一緒に入ってきた。
「まだ、あんなにも取り乱すのだな……」
ゲオルグが呟き、エイドが答えた。
「お嬢は……優しいですから……」
「そうだな」
だが、私には二人の会話は聞こえなかった。
☆==☆==
それからすぐに、戦は無事に終結した。
騎士の中には死傷者も出たが、民間人が戦に巻き込まれることはなかった。
ハワード様たちの交渉が功を奏したこともあるが、騎士団長ナーゲル伯爵の鬼神のような活躍で、民は守られたのだった。育成中の綿畑など農作物にもほとんど被害はなかった。
だが騎士団はこの戦いで勇猛だった騎士団長をはじめ、多くの幹部を失い大きな痛手を負った。
終結したらすぐに国外から宝石が集まり、それからは、本当に忙しくなった。
私が試験に合格したことで、宝石の鑑定人の育成ができるようになったのだ。
現在は、ゲオルグとエイドが必死に仕分けを覚えてくれている。
それとは別に、学院に行って宝石を学びたいという人々に教えに行っている。
そんなある日。
「お嬢、これでどうです?」
「エイド、完璧だわ」
「シャルロッテ、陛下からの書類を預かった」
「確認するわ」
エイドとゲオルグの力を借りて、宝石の仕分けを独立させようとランゲ侯爵家で仕事をしていた時。
「シャルロッテ様。お客様です。騎士団のハンス様という方がいらしゃっております」
「え?」
ランゲ侯爵家で仕事をしていると、ハンスが来たという知らせをもらって私は驚いた。
会わないという約束だったが、あの時のことがずっと気になっていた。
エイドとゲオルグを見ると二人とも困った顔をしながら言った。
「お嬢が決めたことなら反対はしません」
「そうだな。シャルロッテの問題だ」
私は、侍女を見ながら答えた。
「お会いするわ。案内をお願いします」
「はい」
そして私はエイドとゲオルグと共にハンスの待つ応接室に向かった。
すると窓の前にはハンスが立っていた。
「シャルロッテ嬢、お会い出来て光栄だ」
ハンスは背筋を伸ばし、凛々しい騎士の姿であいさつをしてくれた。
見たとことケガもなく、元気そうだった。
「お久しぶりですね。以前は護衛をして下さって感謝いたします」
私は安心ながら言った。
「ええ、これのおかげで」
そして、ハンスは内ポケットから小さな宝石を入れる箱を取り出して開いた。
「これは……もしかして星まつりの……腕輪? ハンスが持っていたの?」
そこには砕けた以前作った星まつりの腕輪が入っていた。
ハンスは切なそうに目を細めて答えた。
「これだけはどうしても捨てられなかった。ずっとこれを胸のポケットに入れていたんだ。シャルを護衛した日、俺は敵に刺された」
「え!?」
思わず声を上げると、ハンスが言葉を続けた。
「でも、この腕輪のおかげで無事だった。シャル、言っていただろう? この腕輪は守りの意味もあるから、強固な宝石を使うって、あの時の俺は見た目だけしか考えなかった。だけど、シャルがしっかりと意味を理解して作ったこの守りの腕輪は本当に俺の命を守ってくれた」
そしてハンスは私の前に膝をついた。
「シャルロッテ嬢。本日付けで騎士団副団長に就任しました。本当に感謝しています。これからは騎士団の副団長としてあなたを守りたい。どうぞ、何かありましたら私を呼んで下さい」
そしてハンスが私の手に口づけを落とした。
今後ハンスと結婚するということはない。
だが、これから私のしようとしていることはどうしても騎士団の手助けが必要だ。
凄く凄く遠回りをしたが、今ようやくハンスとも手を取り合えるようになったことを実感した。
「ハンス副団長。どうぞ、よろしくお願いします」
私が頭を下げると、ハンスが目を細めて言った。
「私は弱くて、シャルとの間が広がるのが怖かった。だからこそ、自分の得意なことで認められたくて必死だったのだろうと、思う」
そしてハンスが切なそうな瞳で言った。
「シャル……私は――ずっとあなたが好きだった」
そしてハンスは頭を下げて出て行った。
私は後ろに立って心配そうにしているゲオルグと、エイドを見ながら言った。
「さぁ、戻ろうか。早くこの機関を独立させよう!! よろしくね」
するとゲオルグとエイドが笑いながら答えてくれた。
「ああ、当然だ」
「お嬢の頼みならなんだって聞きちゃいますよ!!」
そして3人で笑った。
私には信頼できる人がいる。一緒に笑ってくれる人がいる。
それはきっとどんな宝石の輝きも敵わないほど最高の人生の輝きだ。
【完】
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。
またどこかで、皆様にお会いできる日が来ることを楽しみにしております。




