83 お披露目式の終わりに
お披露目式が終わり、お父様たちには先に帰って貰った。
私とエイドは残り、ランゲ侯爵とお話することになった。
「シャルロッテ嬢の仕事ぶりが非常に評価させていたおかげで、どの方々も、シャルロッテ嬢がこの仕事をすることを支持して下さるそうだ。よかった。
だが……すまない。仕分けの報酬の割合を変えた方がいいかもしれないと思えたのだ」
「私もそのことをお願いしようと思っていました」
「そうか……配慮不足ですまない」
「いえ……」
私が返事をすると、ランゲ侯爵がゲオルグによく似た笑顔で言った。
「来たるべき時に、あなたにお返ししよう。数年もあれば実現するのではないですかな?」
私は、その言葉に胸が詰まりそうになった。
「ランゲ侯爵は……このような恩知らずなことに賛成して下さるのですか?」
すると、ランゲ侯爵は片眉を上げて、困ったように笑った。
「はは、恩知らず? シャルロッテ嬢のおかげで、様々な事業が加速する。感謝こそすれ、恩知らずなどと言って下さるな。それに……私も親ですのね。いつまでも息子が戦いの土俵に上がれないのは不憫ですので」
「戦いの土俵?」
「いえ、こちらの話です。とにかく、もう顔繋ぎも出来ましたので、安心して下さい」
「ランゲ侯爵、この度は、大変お世話になりました」
私は深々と頭を下げたのだった。
それから、ランゲ侯爵との話を終えると、エカテリーナがやってきた。
「シャルロッテ!! とても綺麗ね!! お互い今日は忙しくて、全く話が出来なかったわね」
エカテリーナも今日は、とても美しいドレスを着ていた。
「ええ。仕方ないわ、エカテリーナは、サフィール王子殿下の御婚約者として参加していたのだもの。エカテリーナもとっても綺麗よ!!」
エカテリーナはとても楽しそうに口を開いた。
「ふふふ、ありがとう。それにしても、エマの人気は凄かったわ。エマの顔って、とっても綺麗だものねぇ。まぁ、エイドもだけど……2人とも着飾るとより輝きが増すわ。まるで、舞台俳優のようですもの」
「……え?」
舞台俳優。
その言葉に思わず声を上げてしまって、エカテリーナが首を傾けた。
「シャルロッテ、どうしたの?」
「いえ、なんでもないの」
私が動揺していると、エカテリーナが申し訳なさそうに言った。
「ハンス殿のことね……ごめんなさいね。嫌な気持ちだったわよね……もう、大丈夫よ、騎士団の方はもういないわ!!」
「え?」
そういえば、ハンスが騎士になって警備をしてくれているとゲオルグから聞いたことを思い出した。
エイドのことに夢中で、すっかり頭から抜け落ちていた。
「シャルロッテ……よく耐えたわね。本当にごめんさいね、今後は気をつけるわ」
「耐え……た?」
私が思わず呟くと、ゲオルグが声を上げた。
「姉上、シャルロッテも今日は、疲れていますので、お話はまた後日」
「ああ、そうよね。ごめんね、シャルロッテ、エイド、またね」
私は、エカテリーナにあいさつをした。
「ええ、またね」
「はい、失礼致します。エカテリーナ様」
エカテリーナはハンスのことをとても心配していたが、私は、エカテリーナに言われるまでハンスのことは特に思い出すこともなかったのだった。
それから私は、エイドとゲオルグと一緒に馬車に乗った。
私は、馬車に乗ってすぐに、エイドを見ながら必死に言った。
「エイド、近いうちにハワード様にお会いしましょう!! エイ―マという女優さんのことを調べて頂きましょう? もしかしたら、エイドとエマの……いえ、とにかく調べていただきましょう……」
「ですが……」
エイドは、眉を下げて、とても困った顔をしていた。
するとゲオルグが口を開いた。
「エイド、明日にでもハワード殿に会って来い」
「ゲオルグ様?」
「お前がそんな顔をしていると、シャルロッテはずっと、お前のことを心配しなければならない。……仕事の邪魔だ」
ゲオルグの言葉に、エイドが少しだけ笑いながら言った。
「はは、仕事の? ……そうですね。行ってきます」
「エイド、私も一緒に行くわ」
言葉にエイドが呟くように言った。
「いえ、そこまでお嬢に手間をかけさせるわけには……」
「そんな悲しいことを言わないで!! お願い、エイド、私に出来ることは手伝わせて!
エイド……何かあっても、一人で抱える気でしょ? そんなの嫌よ……」
「……お嬢、わかりました。お願いします」
「ええ!!」
エイドは、先程の迷いのある瞳ではなく、決意のある瞳に変わっていた。
私はそんなエイドの瞳が、心の底から美しいと思ったのだった。
その後、無事に屋敷に着いた。
「おかえりなさい、お嬢様」
すでにドレスから普段の服に着替えたエマが出迎えてくれた。
エマを見て、ミーヌ侯爵から聞いた話を伝えかったが……エイドに相談してから伝えることにした。
私は、エマに向かって微笑みながら言った。
「ただいま、エマ」
そうして、エマと共に屋敷に入ったのだった。
☆==☆==
シャルロッテが屋敷に入るの確認すると、ゲオルグが、エイドに話しかけた。
「今のお前にこんなことを言うのは、どうかと思うが……。
シャルロッテは……まだハンス殿のことを想っているのだろうか?」
「……なぜです?」
エイドが、不思議そうに尋ねた。
「……シャルロッテは、あの男のことを『応援したい』と……言っていただろ?」
ゲオルグの言葉を聞いたエイドが、目を細めながら言った。
「あ~、ゲオルグ様は、そう思われたのですね」
「エイドはそうは、思わなかったのか?」
「はい。むしろ、もうお嬢にとって、ハンス殿は完全に過去の人間になったのだと思いました」
「……どういうことだ?」
ゲオルグは眉を寄せて尋ねた。
「お嬢はまだ婚約破棄から、あまり時間も経っていないのに、もう『応援したい』なんて言えるほど、ハンス殿に強い感情を持っていないということなんですよ」
「強い感情?」
エイドは、思い出すように言った。
「お嬢……婚約破棄された後、理由も聞かずに婚約破棄を受け入れたんです。
普通考えられますか? 理由も聞かずに、すんなり婚約破棄を受け入れるなんて……。
俺は頭に血が上って、怒りを見せてしまったのですが……お嬢はただ悲しむだけでした。
理由も、俺が聞いたから知ったという感じで……あまり興味がないように感じました」
「……」
ゲオルグはそれを聞いて何も言えなかった。
「お嬢は、婚約破棄された時、悲しみしか見せなかったんです。怒りとか、焦りとか、憎悪とかそういう強い感情は一切見せなかった。ただ、悲しんでいた。――でも、その悲しみもハンス殿と別れたというより、亡きホフマン伯爵との約束を守れなかったということに深い悲しみを感じていたんです」
「そう……なのか?」
エイドは、ゲオルグを見て困ったように言った。
「ええ。むしろ、お嬢は、昔、ゲオルグ様とケンカした時、すごく悩んで、悩んで、焦っていたんです。
それこそ、俺が馬を飛ばして、すぐにでも会いに行かなければ、お嬢の心があなたでいっぱいになってしまうと、焦るくらい強い感情を持っていました」
「え……?」
ゲオルグの様子に、エイドも片眉を上げて言った。
「お嬢は、さっき俺に対しても、かなり強い感情を見せてくれましたけど……だからゲオルグ様も焦って、早くハワードに会いに行けと言ったのでしょう? お嬢の心の中を俺に占拠されないように」
「……」
エイドは、ゲオルグを見て口角を上げた。
「つまり、お嬢が口にした『応援したい』は、自分と完全に道を違えたハンス殿への、お嬢からの別れの言葉なんですよ。俺は……今日のお嬢を見て……もしかしたら……お嬢は、婚約破棄をされて、ほっとしたのかもしれないとさえ、思いました」
ゲオルグは、真っすぐにエイドの顔を見ながら言った。
「そうか……別れの言葉……シャルロッテは、もう前を向いているのだな」
「そうだと思います。今のお嬢は、ハンス殿に……心が動かされるような感情は、持ってないと思います」
ゲオルグは、ほっとした顔をすると、エイドに鋭い瞳を向けた。
「エイド……私の助けも必要か?」
エイドは驚いた後に、泣きそうな顔で笑った。
「……ありがとうございます。では何かありましたら、お願いいたします」
「ああ。任せておけ、困ったら、助けるから……何があってもな」
「ゲオルグ様って、かっこいいですよね」
「……お前もな」
ゲオルグは、小さく笑いながらエイドを見ると、馬車に乗り込んだ。
そんなゲオルグをエイドは目を細めて見送ったのだった。




