表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きでした、婚約破棄を受け入れます  作者: たぬきち25番
第六章 選ばれた新たな未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/92

55 友人との時間(2)


 私は、エカテリーナに見送られて、ゲオルグと一緒に馬車に乗った。馬車が動き出すと、すぐにゲオルグが嬉しそうに微笑んだ。

 その微笑みは夕日を浴びて、とても美しく輝いて、私は思わず目を細めた。


「よかった。シャルロッテの表情が少し明るくなった」


 ゲオルグの優しく響く、少し低めの声に私は少しだけ、頬が熱くなるのを感じた。


「エカテリーナと話をして、すっきりしたわ」


 するとゲオルグがほっとしたように言った。


「もしかして、姉が迷惑をかけたのではないか、と心配していた。………姉は、あのように思ったことは、すぐに口にしてしまう性格だから、キツイ物言いになったのではないか?」


「いえ、エカテリーナの真っすぐな言葉には、いつも助けられているわ」


 私が笑うと、ゲオルグも口角を上げて嬉しそうに言った。


「そうか、姉もここ数日ずっと落ち着かない様子だった。休んでいる間、ウェーバー子爵家に、何度か行こうともしていたのだが………随分と悩んだ末に、学院に来られる心境になるまでは、待とうと決めたようだ。シャルロッテが休んでいる間、毎日、私たちの教室に通っていた」


 私は、今朝、教室からエカテリーナが飛び出して来てくれたことを思い出した。


「それで………エカテリーナは、私の教室にいてくれたのね……」


 私はエカテリーナの想いが嬉しくて、自然と笑顔になった。


「シャルロッテの笑顔……数年ぶりに見た気がするな」


 ゲオルグもそう言うと嬉しそうに笑った。


「ゲオルグも、心配して送ってくれているのでしょう? ありがとう」


「心配していないわけではないが、私はシャルロッテと、少しでも共に居たから、ここにいる。今後も、見送りを許してくれるなら、送りたい。いいだろうか?」


「……うん、ありがとう」


 全身の熱が頬に集まるような感覚がして、ゲオルグを見たが、ゲオルグは普段通りだった。

 ゲオルグにとっては、これは友人に対する礼儀のようなものなのかもしれない。

 それなら、私がおかしな態度を取ると、ゲオルグに気を遣わせてしまう。ここは自然に振舞うべきだろう。だが、どうしても頬に熱を感じて、自然に振舞うことが難しくて、思わず顔を下に向けてしまった。


「どうした? もしかして、馬車の揺れが大きいのだろうか? ……少し失礼する」


 ゲオルグは、前の席から立ち上がると、私の隣に座って、腰を抱き寄せた。


「え?」


 ゲオルグの突然の行動に、私が驚いていると、ゲオルグが私の顔を覗き込みながら言った。


「どうだ? 楽になったか?」


 ゲオルグは、私のことを心配して、抱き寄せてくれたのだ。そういえば、昔は馬車の揺れが酷い時は、エイドに抱っこしてもらっていたが、それと、同じことだろうか?


 もしかして、ゲオルグにとって私は、幼い頃から知っているので、昔のままの感覚なのだろうか?

 エカテリーナに優しく背中を撫でて貰った時も、気持ちがいいと思ったが、ゲオルグに触れられるのも、恥ずかしいが、心地よかった。


 エカテリーナも、ゲオルグも困っている人を放っておけないないのだろう。


「……ありがとう」


「もっと、こちらに身体を預けて、楽にしてくれて構わない」


 そう言えば、エイドも幼い頃、始めは、腰を抱いて支えていてくれたが、「あ~抱っこした方が良さそうですね」と抱っこしてくれたように思う。


「ふふふ」


「どうした?」


 ゲオルグが突然、笑い出した私の顔を不思議そうに覗き込んだ。


「いえ、このままもっとくっついたら、ゲオルグ#も__・__#抱っこしてくれそうだと思ったの」


「ゲオルグ#も__・__#? 他に誰かにされたのか?」


「ええ。とても幼い時に、エイドが馬車の揺れが酷いと、よく抱っこしてくれたな~って」


 ゲオルグが、難しい顔をして考えた後に、口角を上げながら言った。


「シャルロッテが抱き上げてもいいと言ってくれるなら、私も抱き上げるが?」


「そこまでは、大丈夫よ。もう、大人ですもの!!」


「ふっ。そうか、残念だな」


 ゲオルグと笑いあっているうちに、屋敷に到着した。

 今朝、屋敷を出た時は、重かった心が、少し軽くなっていることに気づいた。


「送ってくれて、ありがとう、ゲオルグ」


「いや、明日にでも、ランゲ侯爵家から正式な書類が届くはずだ。シャルロッテの仕事場が完成したからな」


 ゲオルグが馬車から降りた私を見つめながら言った。


「そうなの? ありがとう、では、また書類を確認して連絡するわ」


「ああ、おやすみ、シャルロッテ」


 なぜだろう?

 ゲオルグが瞳が昔より、ずっと熱を帯びているように思えた。


「おやすみ……ゲオルグ」


 馬車の扉が閉められて、馬車が動き出した。

 私は、ゲオルグに手を振って見送っていると、エマが急いだ様子で家から出てきた。


「お嬢様、お迎え遅れてすみません! おかえなさい」


「ただいま!! 遅れるだなんて、エマだって忙しいんだから、無理しなくても、いいのよ」


 エマがじっと私の顔を見て言った。


「お嬢様、何かいいことがあったのですか?」


「ふふふ。さすが、エマ。あったわ、私、いいお友達に恵まれたなぁ~って思っていたの」


 するとエマも嬉しそうに笑った。


「よかったですね! お嬢様」


 私は、エマと一緒に家の扉を開けながら言った。


「ええ。あ~お腹が空いたわ。今日のご飯は何?」


「野菜たっぷり、むしろ野菜のハンバーグ風煮込みだそうですよ」


「野菜なのにハンバーグ風……? ふふふ、それは楽しみね!!」


 私たちは、笑いながら家の扉を閉めたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ