53 素晴らしい秘書
学院が終わると、エカテリーナのお屋敷にお邪魔することになっていたので、ランゲ侯爵家の馬車に乗せてもらうことになった。
馬車乗り場に、エカテリーナと、ゲオルグと一緒に向かい、私はエイドを探すことにした。Sクラスは他のクラスより、終わりが早いので、まだ馬車乗り場は空いていた。
朝にエイドに『迎えは必要ない』と伝えることが出来なかったので、エイドはきっと迎えに来ているだろう。
「私、エイドを探してくるわ」
(エイドはどこに……あ!!)
私は、すぐにエイドを見つけて駆け寄った。エイドは、馬の手綱を持ち、馬の隣に立っていた。
「エイド!! 馬で来たの?!」
エイドは馬車ではなく、馬で迎えに来ていたのだ。
「ええ。恐らく、今日はエカテリーナ様のお屋敷に、誘われるのではないかと思いましてね。違ったら、学院から少し離れたところから、お嬢を馬に乗せて、帰ろうと思っていました」
エイドは、困ったように笑いながら言った。エイドは、機転は利くし、先読みの力もあるし、行動力もある。本当に私は、いつもエイドに助けられていた。
「さすが、エイド!! 大正解よ。今日は、このままエカテリーナのお屋敷にお邪魔するわ。帰りは、ランゲ侯爵家の馬車で送って下さるって」
「そうですか、わかりました」
「あら? もしかして……エイドには、私の行動が読まれていたのかしら?」
エイドと話をしていると、エカテリーナが近づいて来て、楽しそうに言った。
「これは、エカテリーナ様。お声をお掛け下さり光栄です。行動を読んだと言いますか……エカテリーナ様とも、それなりに長いお付き合いですしね。勘です」
エイドが片目を閉じながら言うと、エカテリーナが感心したように口を開いた。
「ふふふ、勘なの? いい勘してるわ。ん~~……あなたって、見た目もいいし、頭もいいし、口も上手いし……シャルロッテの家の方でなかったら、秘書や側近として、我が侯爵家に招き入れたいくらいよ」
私は、エカテリーナの言葉を聞いて、慌てて口を開いた。自分でも、なぜこんなに焦っているのか、不思議なくらいだった。
「エカテリーナ、実は、エイドは私の秘書になってくれたの。今後、私のお仕事を手伝ってくれるの」
「何? 秘書? この男が?!」
すると、なぜか、ずっと黙っていたゲオルグが声を上げた。エイドは、姿勢を正すと、ゲオルグを見てすました顔で言った。
「今後は、私が、#常に__・__#シャルロッテ様のお傍に仕えさせて頂きます。若輩者ですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します、ゲオルグ様」
ゲオルグが、眉を寄せると、少し不機嫌そうに言った。
「そうだな……シャルロッテの秘書になるというのなら、私にも関係があるな。私は、シャルロッテの補佐だからな! よろしくな、エイド殿」
「ええ、こちらこそ」
エイドとゲオルグが、にこやかに握手を交わしていた。
2人が仲良くしてくれて、嬉しくなった。
「あら~~~。ふふふ、まぁ、シャルロッテを助けてくれる人が、増えるのはいいことですものね。
さぁ、シャルロッテ、行きましょうか? あの2人もそのうち来るわよ」
「え? ええ」
2人の会話は聞こえなかったが、とても楽しそうに笑顔で話をしているようだったので、私もエカテリーナの言葉に頷いたのだった。
「(ちょっと、ゲオルグ様、痛いですよ)」
「(すまないな。普段から鍛えているからな)」
「(ゲオルグ様……力加減が苦手なのですね。そのお力で、お嬢に触れるのは、禁止ですよ)」
「(シャルロッテに、こんな力を入れるものか!!)」
ランゲ侯爵家の馬車の前で、楽しそうに話をしている2人を見ていると、エイドと目が合った。
「あ!! お嬢~~では、ごゆっくり~~。ゲオルグ様、お嬢がお待ちですよ」
エイドは私に手を振って見送ってくれた。
「いってきま~す」
エイドに手を振ると、なぜかゲオルグは、深いため息をついていたのだった。
「……はぁ」




