4 お茶会の結果
「おかえり、シャル!! お茶会はどうだった?」
「ただいま~~!! すごく楽しかったわ!!」
屋敷に戻ると、お父様とお母様とエマが出迎えてくれた。
「お嬢。男性には会わずに、友達ができたそうですよ?」
エイドが嬉しそうに言った。
「そうなのかい?」
お父様が嬉しそうに尋ねてきた。
「うん!!」
「まぁ、よかったわ~~それで、その方のお名前は?」
お母様も両手を合わせて声を弾ませていた。
やはり、私にお友達ができるかどうか心配してくれていたのだろう。
私は、一番仲良くなったエカテリーナの名前を口にした。
「エカテリーナよ。エカテリーナ・ランゲ」
「え?」
私がエカテリーナの名前を口にした途端に、お父様とお母様が固まった。
「どうしたの? お父様、お母様?」
お父様が、震えるように言った。
「ランゲって……もしかして、ランゲ侯爵家のご令嬢かい?」
「わからない。エカテリーナの名前しか聞いていないから……」
私が首を傾けると、お父様が青い顔で言った。
「そうか……。ホフマン伯爵家ともなれば、侯爵令嬢もお茶会にいらっしゃるのか!! 盲点だった!!」
「ど、ど、どうしましょう!! 旦那様!! シャルが、侯爵令嬢様とお近づきに!!! 高位貴族の方々と接するマナーなど私は、教えられませんよ?!」
お母様はオロオロしながら、お父様を見上げた。
「お、お、お、落ち着いて。まぁ、お茶会だから、その場だけということも多いだろう?」
お父様が、お母様をなだめながら言った。
すでに、エカテリーナの家に誘われているのだが……。伝えにくい。
だが、伝えなくても、後で困りそうなので、伝えることにした。
「エカテリーナに……今度、家に遊びに来てって誘われた……けど……」
「ええええ~~~~~!!」
「ええええええ~~~!!」
お父様と、お母様が、驚き大きな声を上げた。
エカテリーナの侯爵家は、いわゆる高位貴族だ。
この国には、5つの爵位がある。
一番トップが公爵家。そして、侯爵家。その次が、伯爵家。次が私の家である子爵家。そして、男爵家。
その中でも、公爵家と侯爵家は高位貴族と呼ばれ、国を代表する貴族なのだ。
普通に生活していて、高位貴族方々とお知り合いになる機会はほとんどない。
やはり、この国でも有数の財を持つホフマン伯爵家のお茶会ともなると、高位貴族令嬢もお見えになるらしい。
リンリーン!!
お父様と、お母様がエントランスのソファーに座り込んだ時、屋敷の呼び鈴がなった。
「失礼します」
エマがすぐに扉に向かうと、配達人が立っていた。
「こちら、ランゲ様からの手紙です。返事を貰って来るように申し使っております」
「はい!! 少々お待ちください!!」
お父様は、エマから急いで手紙を受け取ると、手を震わせた。
「ランゲ様が、明日、シャルと屋敷に招きたいと……」
「え? エカテリーナに明日も会えるの?? 嬉しい!! 会いたい」
明日もエカテリーナに会えるらしい。
私が嬉しく思っていると、配達人がにっこりと微笑んだ。
「エカテリーナお嬢様も楽しみにしておいでです。では、そのようにお伝えしてもよろしいですか?」
私は、チラリとお父様を見た。お父様は「うん、うん」と素早く首を縦に振っていた。
「はい。お願いします」
「では、明日。お迎えに上がります」
「お迎え?! いいのですか?」
「はい。もちろんです。あと、お嬢様が、楽な服装で構わないとのことです。くれぐれも、屋敷に来るために新しい服を買わないように、とのことです」
もしかして、エカテリーナはドレスのエピソードを覚えていてくれて配慮してくれたのだろうか?
私は、エカテリーナの気遣いがとても嬉しかった。
「エカテリーナ……。ありがとうございます」
「エカテリーナお嬢様にお伝えいたしますね。では、また明日」
「はい」
配達人を見送った後に、お父様が私の顔を見ながら言った。
「他に何か話をしておくことはないかい? シャル」
「他……」
私は、帰り際にホフマン伯爵家の執事から、石を貰ったことを思い出した。
「あ、そうだ。お父様」
「な、なんだい?」
お父様がビッと肩を震わせた。
「お茶会が終わった後に、ホフマン伯爵家の執事から、この石を頂いたの」
私はポケットから、白い石を取り出して、お父様に手渡した。
お父様は、石を見ながら首を傾けた。
「白い石だね」
「白い石だわ」
お母様も石を見ながら呟いた。
「白い石ですね」
エマも石を見て言った。
「そうですね……庭に落ちていそうですけど……」
エイドが、顎に手を当てながら、お父様の手の上に乗せられている石を見ながら言った。
「ん~~~~」
皆、この石をどうしたらいいのかわからないようだった。
「もしかしたら、ホフマン伯爵家の執事が、石を使ってシャルを和ませてくれたんじゃないかな?」
お父様が、いいことを思いついたような顔で言った。
「ああ、そうかもしれないわ。随分と子供の扱いに慣れた方だったのかもしれないわ」
お母様もお父様の意見に頷いた。
すると、お父様が石を私の手の平に乗せて優しく微笑んだ。
「初めてのお茶会の記念に、シャルが持っていたらどうかな?」
ただの白い石だが、私は黄色に変わるところが気に入っていたので、それほど高価なものでないのなら、自分で持っておきたかったので嬉しくなった。
「はい。そうですね。そうします」
私は、再びポケットに石を入れた。
そして、驚いた顔をした後に、嬉しそうに笑った執事の顔を思い出した。
(私が小さい子だったから、楽しませようとしてくれたんだ……)
私は、執事の気遣いがとても嬉しかった。
確かに、どちらの石がいいかを選ぶ時は、胸が踊った。
名前を覚えるだけではなく、子供を楽しませてくれるなんて、本当に伯爵家の執事は一流だ。
私がお茶会でのことを思い出していると、エマが真剣な顔をしながら言った。
「お嬢様、着替えましょうか。汚さないうちに」
「そうね。着替えましょう。汚さないうちに」
私も真剣な顔で頷くと、エマと一緒に着替えに向かったのだった。




