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好きでした、婚約破棄を受け入れます  作者: たぬきち25番
第三章 深まる溝と揺らぐ絆

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29 貴族学院入学式(4)



 ようやく長い一日が終わり、ハンスとシャルロッテは、馬車でホフマン伯爵家に向かっていた。


「え? シャル、新入生のダンスパーティーは、俺と出席しないのか?」


 ハンスが、私の予定表を見ながら眉を寄せた。


「う、うん。そうみたい」


 私は、悪いことはしていないが、なぜか居たたまれない思いだった。


「だが……Sクラスとは、こうも時間が違うのか……今からでも、俺と同じBクラスに変更出来ないのか?」


 ハンスは、私の予定表を見ながら深い溜息をついた。

 一度決まったクラスを変更するというのが、果たして出来るかどうかわからないが、私はハンスがそう言うのなら、それも仕方ないと思えた。


「とりあえず、おじい様に相談してみよう。もしかしたら、おじい様なら、シャルのクラスを変更して下さるかもしれない」


「……そうね」


 正直に言うと、Sクラスの授業内容は面白そうだった。ハンスに貰ったBクラスの勉強はすでに、ホフマン伯爵家の家庭教師の方から教わった内容だったので、Sクラスで学びたいという思いがあったが、私はハンスの婚約者だ。ハンスが同じクラスがいいと言うのなら、私が言うことは何もないだろう。


 私は、少しだけ溜息をつきながらホフマン伯爵家に向かったのだった。


☆==☆==



「シャルロッテ嬢!! Sクラスに、代表生徒など!! 大変、素晴らしい!!」


 ホフマン伯爵に、Sクラスになり、代表生徒に選ばれたことを告げると、伯爵はそれはそれは喜んでくれた。


「おじい様、しかし……シャルとは同じクラスの方が……」


 ハンスが伯爵に、伝えようとすると、伯爵が珍しく不機嫌そうにハンスを見た。


「よいか? 私は、シャルロッテ嬢と、ハンスお前には、同様の教師を付けて、同じ教育を施したつもりだ。シャルロッテ嬢は、与えられたチャンスを最大限に活かして、学んだ結果、Sクラスになり、代表生徒に選ばれたのだ!! なぜ、怠惰なお前に、優秀な彼女が合わせなければならない!!」


「おじい様……」


 伯爵は、ハンスを無視すると、私の方を見た。


「シャルロッテ嬢。この各自のフィールドワークという項目、私と一緒に隣国の鉱山を見に行くかい? 隣国の宝石のことを研究結果として発表すれば良いだろう」


「はい。ぜひ」


 私がホフマン伯爵に同意すると、ハンスが声を上げた。


「おじい様。私も行きます」


「お前は、入学したばかりだろう? 基礎的なことも知らずにホフマン伯爵領が継げると思うな!!」


 これまでは、どこかハンスに任せていたホフマン伯爵は、常々、『貴族学院に入学までは、何も言わない各自の努力に任せる』とおしゃっていた。


「ハンス。宝石の勉強もこれまで同様続けるように」


「え?」


 ハンスが、目を大きくあけて、伯爵を見ていた。


「ですが、学院の勉強と、宝石の勉強など、乗馬や、剣術の稽古の時間が減ってしまいます!!」


 ハンスは、伯爵に向かって大きな声を上げた。


「自分にとって、何が大切かを見極めよ」


 伯爵は、ハンスにそれだけを言うと、部屋を出て行った。

 ハンスは、頭を押さえて、床に座り込んでいた。私は、ハンスをなぐさめようと近づいて、ハンスに腕に触れようとした。


バシッ!!


 するとハンスに腕をはたかれた。いつも優しいハンスに腕をはたかれるは初めてのことで、私は思わず固まってしまった。


「シャル……ごめん……今日は帰ってくれないか?」


「ハンス……」


 私は、荷物を持つと、部屋を出た。部屋を出ると、執事が心配そうな顔をしていた。


「旦那様もずっと我慢していらしたので」


「そうなのですか……」


「ピエールに送らせます」


「ありがとうございます」


 私は、ピエールに送ってもらい、ホフマン伯爵家を後にした。もう少し、ハンスに勉強しようと言えばよかったのだろうか?

 私が、Sクラスになどなってしまったからだろうか?

 ハンスに、はたかれた腕が痛いと思えた。



☆==☆==



 家に帰ると、お父様やお母様、エイドやエマやシャロンが向かえてくれた。


「ただいま、私、Sクラスになったわ」


「Sクラス~~~?! え? Sクラスって、あの、Sクラス?!」


「シャル~~~!! 凄いわ!!」


 お父様と、お母様は、信じられないと言って喜んでくれた。エイドと、エマとシャロンは、Sクラスと言っても、意味がわからないようだったが、『昼食が無料で食べられる』というと、それはそれは喜んでくれた。


「お嬢!! さすがですね~~。はぁ~~家のお嬢は可愛いだけではなく、賢い♪」


「お嬢様、頑張ってましたもんね!! 凄いです」


「姉様!! 凄いです」


 エイドやエマやシャロンの嬉しそうな声に、私の心は段々と沈んで行った。


「シャル。どうしたんだい? なぜそんなにつらそうなんだい?」


 すると、お父様と、お母様が私の顔を覗き込んで来た。


「私……代表生徒に選ばれたの……ハンス以外の人とダンスや社交のペアを組まなければならなの」


 すると、さほどまで、明るい顔だったお父様や、お母様の顔が曇った。


「それは……ホフマン伯爵はなんと?」


「伯爵は、喜んで下さったわ。栄誉なことだから、頑張りなさいと……」


 お父様が、困った顔をして、私を見た。


「ちなみにハンス様のクラスはなんだい?」


「ハンスはBクラスだと言っていたわ」


 するとお母様も息を飲んだ。


「SクラスとBクラスでは、ほとんど接点がないわ。せめて、シャルがAクラスなら、接点もあったけれど……」


「ああ、もう、Sクラスとその以外のクラスは、別の学校だとも言える」


 お父様も、お母様も貴族学院の出身なので、貴族学院の内部について詳しい。

 やはり、ハンスとの接点はなくなってしまうようだった。

 私が、肩を落としていると、お父様が、私の肩を持った。


「シャル。心配しなくてもいい。貴族学院は、とても厳しい学校だ。お父様は、貴族学院時代に必死で勉強した記憶しかないよ」


 すると、お母様も「うんうん」と頷いた。


「私もハンス様と同じ、Bクラスだったけど、テストの度に、図書室にこもって、必死で勉強したわ」



 私は、2人が何を言っているのかわからずに首を傾けた。


「つまり、ハンス様を信じて、シャルは勉強を頑張ればいいんだよ。将来、ハンス様を助けるためにもね」


 父が片目を閉じて笑うと、私も少しだけ心が軽くなった。

 そうだ、勉強をしに行くのだ。ダンスなどはおまけだ。メインは勉強なのだ。

 私は少しだけ落ち着いて、息を吐いた。


「そうね。私、自分の出来ることをするわ」


「そうよ!!」


 みんなに励まされて、少しだけ心が軽くなった。明日からは、本格的な勉強が始まる。私は、貰った書類を見た。Sクラスはかなり大変そうだ。


 私は明日からに準備をすることにしたのだった。







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