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好きでした、婚約破棄を受け入れます  作者: たぬきち25番
第一章 幸せが約束された未来

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2 お茶会デビュー(2)





「わぁ~~素敵」


 テーブルの上にはまるで、宝石のように輝くお菓子。キレイなドレスを着たご令嬢。

 まさにここは、絵本でみた夢の国のようだった。


 私がぼんやりと、美しい光景に見とれていると、誰かに話かけられた。


「あなた、見ない顔ね」


 そこには、とてもキレイなドレスを着た私より少し年上の令嬢が立っていた。

 私は急いで頭を下げた。


「はじめまして、私はシャルロッテ・ウェーバーです。先日7歳になったので、今日、初めてお茶会に参加しました」


「へぇ~初めての参加なんだ。通りで。私は、エカテリーナ・ランゲよ。エカテリーナって呼んで。私もシャルロッテって呼ぶわ。年は9。お茶会はもう何度も来ているから、わからないことは教えてあげるわ」


「ありがとうございます!!」


 まさかお茶会に来て、すぐに声をかけてもらえるとは思わなかったので、嬉しくなった。


「ところで、シャルロッテ。どうしてそのドレスを選んだの? もっと豪華なドレスを買って貰えばよかったのに(どうせ、ホフマン伯爵の支払いなんだし)」


「いやいや、これでも、限界です。実はドレスを選ぶ時に……」


 私は、エカテリーナに初めてのドレス選びの話をした。



☆==☆==



 数週間前。


 私は、お母様とエマとエイドと一緒に、ドレスを選びに出掛けた。

 ドレスをプレゼントして貰えることは、事前に聞いていたので、ドレスを選ぶことに罪悪感はなかった。


 初めて入ったドレスのお店のは、シャンデリアが輝き、多くの美しいドレスが並び、大きなソファーが置かれていた。壁には素敵な絵が飾られ、白地が美しい花瓶に、バラの花が飾られている。


(凄い……これがお店?)


 私が普段行くような、お店とは全く違う。

 とても豪華な内装に、私はとても緊張していた。


「シャルどれがいい?? これなんていいんじゃない?」


 お母様が嬉しそうに笑いながら、一着のドレスを手に取った。

 私は、ついくせで、ドレスより先に値札を見てしまった。

 

(ゼロがたくさん?! ええ~~~?! ドレスってこんなに高いの?? ああ、ドレス一着で、ケーキを作る材料がどれだけ買えるの??)


 家では、誕生日にだけ、エイドがケーキを作ってくれるのだ。

 お父様や、お母様のお誕生日の時には作らず、私と、エイドと、エマのお誕生日の時にだけ、食べることが出来る憧れのケーキ。材料が高く、年に3回しか食べられない。

 

 だが、ドレスは、そのケーキの材料費の数十倍の値段なのだ。


「これだけあれば、毎月、ケーキが食べられる。それだけじゃなくて、たまに豪華なご飯も食べられる…毎日着るわけでもないのに……もったいない!!」


 私は、すでにドレスではなく食事のことで、頭が一杯だった。


「シャル。好きなドレスを選んでいいのよ?」


 お母様が慌てて、私の手に握られている値札をそっと離しながら言った。


「そうですよ!! お嬢様の初ドレス!! 好きなの選びましょう! ほら、お嬢様の好きな花の色なんてどうですか。可愛いですよ!!」


 エマがそう言うと、カモミールのような、黄色に白が使われているドレスを手に取ったが、カモミールは美味しいが、ドレスは食べられない!! それなら、ドレスより、カモミールの方がいい。


「無理よ……ドレスがすでに、ご飯にしか見えない!!」


「え……」


 エマがドレスを持って固まった。


「困ったわね」


 お母様が顎に手をあてて息を吐いた。

 私だって、選びたいが、どうしてもご飯に置き換えてしまうと、ご飯の方を選んでしまうのだ!!

 3人で「う~~~ん~~」と悩んでいると、エイドがスタスタと、店の男性に話しかけた。


「このお店で、一番安いドレスはどれですか?」


 男性は、テキパキと答えてくれた。


「安いですか? こちらになります。少し前の型のドレスですが、物はよく、お買い得ですよ」


 見ると、菫色の品の良さそうなドレスだった。


「お嬢。お嬢。このドレスがこのお店で一番、お安いドレスだそうですよ?」


 エイドは、ドレスの値札を自分の手の中に隠すと、私の隣に立ち、耳に口を寄せてきた。


「え?! 安いドレス?」


 私は、食い入るようにドレスを見た。

 すると、エイドがニヤリと笑って、さらに言葉を続けた。


「そう。物はいいのに、安くなったお買い得品だそうですよ、お嬢!! お買い得ですよ、お買い得!!」


「それにするわ!!」


 私は、すぐに購入を決めた。


「え~~~!! そんな理由で決めちゃうんですか?! そんな地味なドレス……ごほごほ。落ち着いた色のドレスなんて……初ドレスなのに」


 エマは、口を尖らせながら残念そうに言った。

 すると、エイドが「まぁ、まぁ」とエマをなだめながら言った。


「幸い、お嬢はめちゃくちゃ可愛いから、ドレスは地味でも、いいんだって。

 お前も、お嬢なら、なんだって似合うと思うだろ?!」


「うっ……そう言われると……確かに、大人っぽくって、それはそれで、いいけど……」


 エイドは、悩んでいる2人にさらにダメ押しをした。


「奥様、エマ。お嬢はきっと、パーティーで、たくさんお菓子を食べると思いますよ?」


「え?」


「え?」


 驚いた2人に、エイドが小声で言い放った。


「染み抜きも、結構高額ですよ。染み抜きは別料金ですよね? このドレスなら少々の染みならわかりませんよ」


 エイドの視線の先には、『ドレスの染み抜き料金』と書かれた紙が置いてある。

 お母様とエマが息を飲んだ。


「シャル!! そのドレス素敵よ!!」


「そうですよ、お嬢様!!」


 2人も賛成してくれて、ようやくこのドレスに決まったのだった。



☆==☆==


「……というわけなの」


 私がドレスを選んだエピソードを話すと、エカテリーナは口を手で押さえながら、肩を震わせていた。


「あの……どうしたの?」


 私が恐る恐るエカテリーナの顔を覗き込むと、エカテリーナと目が合った。


「ぷっふふふ。あはは。ごめん、ごめんなさい。笑うなんて失礼よね。でも、面白くて」


「え? 面白いの?」


「ええ。面白いし、私は、その決め方、いいと思うわ」


 エカテリーナが笑っていると、次々に令嬢が集まってきた。


「どうしたの~? エカテリーナ。楽しそう」


「楽しそう!! なぜ笑っていらっしゃるの?」


 次々とご令嬢が集まってきて、いつの間にか、人だかりが出来ていたのだった。






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