2 お茶会デビュー(2)
「わぁ~~素敵」
テーブルの上にはまるで、宝石のように輝くお菓子。キレイなドレスを着たご令嬢。
まさにここは、絵本でみた夢の国のようだった。
私がぼんやりと、美しい光景に見とれていると、誰かに話かけられた。
「あなた、見ない顔ね」
そこには、とてもキレイなドレスを着た私より少し年上の令嬢が立っていた。
私は急いで頭を下げた。
「はじめまして、私はシャルロッテ・ウェーバーです。先日7歳になったので、今日、初めてお茶会に参加しました」
「へぇ~初めての参加なんだ。通りで。私は、エカテリーナ・ランゲよ。エカテリーナって呼んで。私もシャルロッテって呼ぶわ。年は9。お茶会はもう何度も来ているから、わからないことは教えてあげるわ」
「ありがとうございます!!」
まさかお茶会に来て、すぐに声をかけてもらえるとは思わなかったので、嬉しくなった。
「ところで、シャルロッテ。どうしてそのドレスを選んだの? もっと豪華なドレスを買って貰えばよかったのに(どうせ、ホフマン伯爵の支払いなんだし)」
「いやいや、これでも、限界です。実はドレスを選ぶ時に……」
私は、エカテリーナに初めてのドレス選びの話をした。
☆==☆==
数週間前。
私は、お母様とエマとエイドと一緒に、ドレスを選びに出掛けた。
ドレスをプレゼントして貰えることは、事前に聞いていたので、ドレスを選ぶことに罪悪感はなかった。
初めて入ったドレスのお店のは、シャンデリアが輝き、多くの美しいドレスが並び、大きなソファーが置かれていた。壁には素敵な絵が飾られ、白地が美しい花瓶に、バラの花が飾られている。
(凄い……これがお店?)
私が普段行くような、お店とは全く違う。
とても豪華な内装に、私はとても緊張していた。
「シャルどれがいい?? これなんていいんじゃない?」
お母様が嬉しそうに笑いながら、一着のドレスを手に取った。
私は、ついくせで、ドレスより先に値札を見てしまった。
(ゼロがたくさん?! ええ~~~?! ドレスってこんなに高いの?? ああ、ドレス一着で、ケーキを作る材料がどれだけ買えるの??)
家では、誕生日にだけ、エイドがケーキを作ってくれるのだ。
お父様や、お母様のお誕生日の時には作らず、私と、エイドと、エマのお誕生日の時にだけ、食べることが出来る憧れのケーキ。材料が高く、年に3回しか食べられない。
だが、ドレスは、そのケーキの材料費の数十倍の値段なのだ。
「これだけあれば、毎月、ケーキが食べられる。それだけじゃなくて、たまに豪華なご飯も食べられる…毎日着るわけでもないのに……もったいない!!」
私は、すでにドレスではなく食事のことで、頭が一杯だった。
「シャル。好きなドレスを選んでいいのよ?」
お母様が慌てて、私の手に握られている値札をそっと離しながら言った。
「そうですよ!! お嬢様の初ドレス!! 好きなの選びましょう! ほら、お嬢様の好きな花の色なんてどうですか。可愛いですよ!!」
エマがそう言うと、カモミールのような、黄色に白が使われているドレスを手に取ったが、カモミールは美味しいが、ドレスは食べられない!! それなら、ドレスより、カモミールの方がいい。
「無理よ……ドレスがすでに、ご飯にしか見えない!!」
「え……」
エマがドレスを持って固まった。
「困ったわね」
お母様が顎に手をあてて息を吐いた。
私だって、選びたいが、どうしてもご飯に置き換えてしまうと、ご飯の方を選んでしまうのだ!!
3人で「う~~~ん~~」と悩んでいると、エイドがスタスタと、店の男性に話しかけた。
「このお店で、一番安いドレスはどれですか?」
男性は、テキパキと答えてくれた。
「安いですか? こちらになります。少し前の型のドレスですが、物はよく、お買い得ですよ」
見ると、菫色の品の良さそうなドレスだった。
「お嬢。お嬢。このドレスがこのお店で一番、お安いドレスだそうですよ?」
エイドは、ドレスの値札を自分の手の中に隠すと、私の隣に立ち、耳に口を寄せてきた。
「え?! 安いドレス?」
私は、食い入るようにドレスを見た。
すると、エイドがニヤリと笑って、さらに言葉を続けた。
「そう。物はいいのに、安くなったお買い得品だそうですよ、お嬢!! お買い得ですよ、お買い得!!」
「それにするわ!!」
私は、すぐに購入を決めた。
「え~~~!! そんな理由で決めちゃうんですか?! そんな地味なドレス……ごほごほ。落ち着いた色のドレスなんて……初ドレスなのに」
エマは、口を尖らせながら残念そうに言った。
すると、エイドが「まぁ、まぁ」とエマをなだめながら言った。
「幸い、お嬢はめちゃくちゃ可愛いから、ドレスは地味でも、いいんだって。
お前も、お嬢なら、なんだって似合うと思うだろ?!」
「うっ……そう言われると……確かに、大人っぽくって、それはそれで、いいけど……」
エイドは、悩んでいる2人にさらにダメ押しをした。
「奥様、エマ。お嬢はきっと、パーティーで、たくさんお菓子を食べると思いますよ?」
「え?」
「え?」
驚いた2人に、エイドが小声で言い放った。
「染み抜きも、結構高額ですよ。染み抜きは別料金ですよね? このドレスなら少々の染みならわかりませんよ」
エイドの視線の先には、『ドレスの染み抜き料金』と書かれた紙が置いてある。
お母様とエマが息を飲んだ。
「シャル!! そのドレス素敵よ!!」
「そうですよ、お嬢様!!」
2人も賛成してくれて、ようやくこのドレスに決まったのだった。
☆==☆==
「……というわけなの」
私がドレスを選んだエピソードを話すと、エカテリーナは口を手で押さえながら、肩を震わせていた。
「あの……どうしたの?」
私が恐る恐るエカテリーナの顔を覗き込むと、エカテリーナと目が合った。
「ぷっふふふ。あはは。ごめん、ごめんなさい。笑うなんて失礼よね。でも、面白くて」
「え? 面白いの?」
「ええ。面白いし、私は、その決め方、いいと思うわ」
エカテリーナが笑っていると、次々に令嬢が集まってきた。
「どうしたの~? エカテリーナ。楽しそう」
「楽しそう!! なぜ笑っていらっしゃるの?」
次々とご令嬢が集まってきて、いつの間にか、人だかりが出来ていたのだった。




