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好きでした、婚約破棄を受け入れます  作者: たぬきち25番
第三章 深まる溝と揺らぐ絆

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26/92

25 入学式前日




「シャル、明日は入学式だね。家まで迎えに行くからね」


 今日も勉強が終わり、ハンスに馬車で送って貰っていた。


「ふふふ。ありがとうハンス」


 あれから、6年経ち、私もハンスも13歳になった。13歳になると貴族は貴族学院に通うことになる。そして、明日は貴族学院の入学式だ。


 ハンスはあれから随分とたくましくなった。出会った頃は、とてもキレイな男の子だったが、今では、乗馬大会では、向かうところ敵なしの実力で、今年から行われる一般大会に出ても、上位は、確実だと言われている。また、剣術大会でもいつも、上位の成績を修めている。


「一度、制服が出来た時に見てるけど……楽しみだな~~シャルの貴族学院の制服姿♪」


 ハンスはご機嫌に、腰を抱き寄せて来た。


「ハンス……恥ずかしいだけど」


 私が恥ずかしくて俯くと、ハンスは私のおでこにキスをした。


「どうして? 俺たち結婚するのに……」


 最近のハンスのスキンシップは、少し心臓の負担が大きい。ずっと自分のことを『僕』と言っていたハンスも、『俺』と言うようになったりと、私のことを片手で抱き上げられるようになってしまったりと、随分と成長していた。


「ホフマン伯爵も『節度のあるお付き合いをするように』っておっしゃてるでしょ?」


「はぁ~~~。充分に節度あるよ。むしろ、ありすぎるくらいだよ。耐えている俺を褒めるレベルだよ。でも……シャルは、おじい様のお気に入りだもんな~~。この前も、2人で、宝石の買い付けに行ったしさ~」


「そんなこと言って! ハンスが、剣術大会があるから訓練を休めないって言ったんでしょ? ハンス、少しは現地に行った方がいいわよ?」


「ん~~わかってるよ♪」


 ハンスがまたおでこにキスをした。これは、ハンスが話をするのを誤魔化すためにするキスだ。付き合いがそれなりに長いので、ハンスの気持ちがわかってしまう。


「あ、もうすぐ着くね」


「そうね」


 馬車がウェーバー子爵家に到着した。


「じゃあ、明日ね。シャル」


「ええ。明日」


 またおでこにキスをされて、私は馬車を降りた。ハンスの馬車を見送ると、トタトタと可愛い足音が聞こえてきた。


「お姉様~~おかえりなさ~~~い♡ 会いたかった~~♡」


「ただいまシャロン!! 私もよ~~♡♡」


 私は、大きく腕を広げて膝を着くと、弟のシャロンを抱きしめた。

 シャロンは今年で5歳。

 

「お嬢、おかえりなさい!!」


「エイド!! ただいま~~」


 私は、シャロンを抱いたままエイドにあいさつをした。


「お嬢。エマが制服の最終チェックがしたいそうです」


「そうなの? 今から行くわ」


「はい。あ、そうだ。着たら、絶対に見せて下さいね。絶対に、絶対ですよ。エマだけに見せたら、拗ねます」


「え?」


 すると、腕の中にいるシャロンも口を開いた。


「お姉様、僕も見たい。見せてくれなかったら、拗ねます」


 シャロンもエイドのマネをして、頬を膨らませた。兄弟ではないに、最近、シャロンがエイドに似て来た気がして、思わず笑ってしまった。


「ちょっと、エイド~~シャロン様が、マネするでしょ!!」


 すると、扉からエマの声が聞こえた。


「見せて、あげるから、扉の前で待機。それじゃあ、お嬢様。行きましょう」


「ええ」


 私が立ち上がると、シャロンが、エイドの足にすがりついた。


「エイド~~肩車して~~。お姉様のお部屋の前でタイキ? しよ~~~♡」


「了解です!! 一緒に待機して、お嬢の制服、見ましょうね~~♡」


「うん♪」


 エマが、深い溜息をついた。


「お嬢様、行きましょう。旦那様も、奥様も、制服を着たら、『絶対に見せるように』とのことですので」


「え? そうなの? わかったわ」


 これから、毎日着ると思うのだが、初めての制服というは、それほど気になるのだろうか?

 ホフマン伯爵家から、制服は数十着用意して貰っている。他にも、教科書や、鞄、文房具など、その他ハンカチなどの生活必需品や、冬用の制服にコート。


 過剰な程に準備して頂いて、本当に有難い限りだ。

 

 制服を着ると、エマがしみじみと言った。


「お嬢様、大きくなりましたね」


 エマの目には、涙が溜まっていた。


「え? エマ、どうして泣いてるの??」


「どうしててでしょう? さぁ、みんなに見せに行きましょう!!」


「ええ」


 みんなに制服を見せると、なぜか、エイドや、お父様や、お母様も涙ぐんでいた。私は照れくさくなった。



「シャル。後悔のないように、しっかりと学生生活を楽しんでおいで」


 お父様が、ハンカチを濡らしながら言った。


「ええ!! 充分に楽しんでいらっしゃい!!」


 お母様も涙ぐみながら言った。


 なぜ、お父様とお母様が、『勉強』ではなく『楽しめ』ということを、一番に言うのか、その時の私にはよくわからなかった。

 2人の言葉の意味が分かるのは、もっと、ずっと後になるということを、この時の私はまだ知らなかったのだった。







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