12 友人たちとの時間(1)
「会いたかったわ!! シャルロッテ!!」
「エカテリーナ!! 私も会いたかったわ」
侯爵家の馬車で、エカテリーナの屋敷に向かうと、エカテリーナとゲオルグが迎えてくれた。
「シャルロッテ、久しぶりだな」
エカテリーナに抱きしめられた後に、ゲオルグが手を差し出してくれたので、私も嬉しくなって、ゲオルグの手を握った。
「うん! 本当に久しぶりだね、ゲオルグ」
あれから私たちは、何度も遊ぶうちに仲良くなった。
少し前までは、週に一回くらい一緒に遊んでいたが、今日は半月ぶりくらいの再開だった。
3人でたわいもない話をしながら、サロンに向かった。
「ふふふ、聞いて! ゲオルグったら、あなたにチェスで勝てるようになるためにって、毎日寝る前にチェスの勉強をしてるのよ!!」
エカテリーナが嬉しそうに笑うと、真っ赤な顔をしたゲオルグが大きな声を上げた。
「姉さん!! 余計なこと言わないで下さい!!」
「私も時間のある日は、エマと一緒にチェスをしているわよ。エマには全然勝てないけど……」
毎日ではないが、私もよくエマとチェスをしている。
昔から、かくれんぼや鬼ごっこをしてくれるのは、エイド。
刺繍を教えてくれたり、チェスをしてくれるのがエマなのだ。
「シャルロッテが全然勝てないなんて……エマって何者なの??」
エカテリーナが首を傾けながら言った。
「ちなみにエマには、お母様も、エマにチェスを教えたお父様も、『もう勝てない』っておっしゃっていたわ。だから、私が強いのはエマに色々と教えて貰っているおかげだから、私が強いわけじゃないのよ」
するとゲオルグが顎に手を当てて「ん~」と考えた後、口を開いた。
「では、私と一緒に強くなる方法を考えて、エマに勝てばいい。どうすれば強くなれるか考えよう」
「うん!! 楽しそう!!」
私が同意するとエカテリーナが「くすくす」と笑いながら言った。
「本当に、あなたたち2人と一緒にいると飽きないわ。
いいわ。私も侯爵令嬢よ。将来チェス好きな旦那様が出来た時のために、あなたたちと一緒に強くなるわ」
「姉さん、チェスが強くなるのに侯爵令嬢は関係ないんじゃ……」
ゲオルグが小声で呟くと、エカテリーナがゲオルグに顔を寄せながら言った。
「何を言っているの? 私は、将来、高位貴族の方々に嫁ぐ可能性があるのよ?
皆様、チェスは嗜んでいるでしょう? あまりにも出来ないのでは、恥ずかしいじゃない!!」
「はいはい。じゃあ、姉さんも頑張って」
「もちろんよ」
こうして、私たちはいつのもように楽しい時間を過ごしたのだった。
☆==☆==
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。
楽しい時間が過ぎるのは本当に早い。
もう、帰る時間になってしまった。
「あ、もう帰る時間だわ」
「本当に、時間が過ぎるのが、早いわ……また、遊びに来てね。シャルロッテ!!」
エカテリーナが私の手を握りながら言った。
「うん……あ!!」
私は、ハンスに言われたことを、エカテリーナとゲオルグに伝えることにした。
「あのね。エカテリーナ、ゲオルグ。今度は、ホフマン伯爵家でお茶をしてはどうかって」
「ああ、それは楽しそうね」
エカテリーナは嬉しそうに笑って受け入れてくれたので、ほっとしていると、ゲオルグが眉間にシワを寄せながら尋ねてきた。
「なぜ、ホフマン伯爵家でお茶を?」
すると私の代わりにエカテリーナが答えてくれた。
「それは、シャルロッテが普段お世話になっているお屋敷だからでしょ?」
「まさか、もう奉公に出されているのか?! シャルロッテは、まだ幼いのに!!」
奉公?!
確かに、私たちのような下位貴族は奉公に出ることもあるが、大体は貴族学校を卒業してから奉公に出る。さすがに私たちの年齢で奉公に出ている令嬢はいない。
だから、まさか奉公先と言われるとは思わなくて、私の方が驚いてしまった。
「違うわ。誤解よ、ゲオルグ!!」
私が否定すると、エカテリーナが説明してくれた。
「ちょっと、ゲオルグ。何言っているのよ。ホフマン伯爵家は、シャルロッテの婚約者の家よ。奉公ではなく、勉強に通っているのよ」
「え……婚約? 誰が? 誰と?」
急にゲオルグの顔から表情が抜け落ちて、呆然とエカテリーナを見ながら尋ねた。
「シャルロッテが、ホフマン伯爵子息とに決まってるでしょ?」
エカテリーナがゲオルグの問いかけに答えると、ゲオルグが泣きそう顔でエカテリーナに向かって怒鳴りつけるように言った。
「それ、本当なのか? シャルロッテが婚約って!! 俺、聞いてない!! 嘘だろ?! 婚約だなんて!! 俺たちまだ7歳だぞ?! 早すぎるだろ!! どうせ、婚約者候補ってだけだろ?!」
するとエカテリーナが驚いた顔をした。
「ちょっと、ゲオルグ何をそんなに怒っているの?? それにシャルロッテは、ホフマン伯爵子息の婚約者候補ではなく、正式な婚約者よ。失礼なことを言うのはやめなさい!!」
「嘘だ!! 俺は認めない!! こんな……の……」
ゲオルグは、バタンと扉を大きく開けて、部屋から走り去って行った。
私とエカテリーナは、しばらく呆然として、ゲオルグが開け放って行った扉を見つめたのだった。