10 初恋の人との出会い(2)
「凄い……本当にキレイ……」
ハンスに連れて来られた場所は、大きな噴水の隣につるバラのアーチがあり、様々な種類のバラが咲き乱れる美しい場所だった。
噴水の水が常に七色に反射していると思ったら、この噴水は町の広場にあるような、ただの石ではなく、見たこともない石が使われていた。
「気に入った?」
「はい」
ハンスが嬉しそうに笑うと、「僕たち結婚するんだから、普段の言葉でいいよ」と言った。
優しい瞳で見つめらるのたとても嬉しいと思って、私も笑顔で答えた。
「うん、じゃあ、ハンス。よろしくね」
「ああ、そっちの方がシャルに近づけたみたいで嬉しいな。実は、僕、お茶会でシャルを見た時から、ずっと君の事を考えてたんだ」
「お茶会?」
どういうことだろうか?
私は、お茶会ではハンスに会っていないはずだが……。
「本当は君をお茶会で見つけた時にすぐ、君のところに行きたかったんだけど、動けなくて……声をかけなかったことを、後悔したんだ」
そういえば、エカテリーナがずっと、『あいさつがしたいけど、囲まれれて近づけないわね……』と言っていたが、ハンスのことだったのだろうか?
もしかして、私はあの時、のんきにお茶を楽しんでいる場合ではなかったのだろうか?
私は、急いでハンスに謝罪した。
「ごめんなさい、ハンス。私の方こそあいさつに行くべきだったのに」
「いや、僕は君たちが、楽しそうにお茶会を楽しんでくれたことが嬉しかったんだ。
お菓子を食べて、楽しそうに話をしていたシャルはとても可愛かったから」
可愛い……。
両親や、エマやエイドは、よく私のことを可愛いと言ってくれる。
それはとても、嬉しいが、ハンスに言われると、なんだか頬が熱くなってきて自分でも戸惑ってしまった。
「ハンス……そんな風に言ってくれて、ありがとう」
「ふふふ、あの後、すぐにおじい様が『ホフマン伯爵家に相応しい娘を見つけた』って、おっしゃっていたから、もうシャルには会えないかと思っていたんだ」
つまり、ホフマン伯爵が家に来た時、ハンスは私が相手だと知らなかったということだ。
ということは、私がもし、あの時、マッローネダイアの原石を選ばなければ、ハンスとは会っていなかったということだろうか?
私が考えていると、ハンスが嬉しそうに笑った。
「だから、シャルが来てくれた時、夢かと思った!! また、君に会えて嬉しい。しかも僕のお嫁さんになってくれるなんて!! ねぇ。あの時言えなかったことを言ってもいいかな? シャルが着ていた、深い紫水晶のようなドレス、良く似合ってて素敵だったよ」
顔が熱いと思ったが、熱いのは顔だけじゃなかった。
身体中の体温が上がって、心臓の音が大きく聞こえる。それだけじゃなく、普段は聞こえない耳の中まで脈を打つ音が聞こえる。
ハンスと繋いだ手が、とても恥ずかしいのに嬉しくて……。
初めての感情に戸惑いながら答えた。
「……ありがとう」
それから、私たちはハンスに案内されて、庭を見て回った。伯爵家の庭はとても広くて、今日だけでは、回れそうになったので、また今度見ることにした。
ハンスと手を繋いで、お父様たちのサロンに戻った。
すると、心配そうな顔のお父様と、エイドの顔が見えた。
そんな中、ホフマン伯爵が私たちを見て真剣な顔をした。
「2人ともどうかな? 婚約してもいいだろうか?」
すると、ハンスが私を見て頷いたので、私も頷き返した。
「おじい様、僕はシャルと婚約したいです!!」
私も、ホフマン伯爵を見て言った。
「私も、ハンスと婚約したいです」
その瞬間、お父様はなんとも言えない顔をしたが、ホフマン伯爵は、嬉しそうに笑った。
「はっはっは!! そうか、ウェーバー嬢がお相手なら、我がホフマン伯爵家も安泰だな」
そう言った後に、父の前に書類と羽ペンを差し出した。
「よろしいでしょうかな? ウェーバー子爵殿」
お父様は、私を見て、真剣な顔をした。
「シャル。本当にいいんだね」
「はい」
私はお父様をじっと見つめた。視線がぶつかって、数秒。
お父様がフワリと笑って「そうか」と言った後に、ホフマン伯爵と、ハンスの方を見て頭を下げた。
「娘をどうぞ、よろしくお願い致します」
すると伯爵が力強く言った。
「ホフマン伯爵家の誇りにかけて、ウェーバー嬢の幸多い未来に尽力致します」
ハンスも真っすぐにお父様に向かった言った。
「必ず、シャルを幸せにします」
お父様は、少し笑うと迷わず、婚約誓約書にサインした。
こうして、私はハンスの婚約者になったのだった。