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好きでした、婚約破棄を受け入れます  作者: たぬきち25番
第一章 幸せが約束された未来
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9 初恋の人との出会い(1)



 ホフマン伯爵の訪問の次の日。

 私は、お父様と、エイドと一緒にホフマン伯爵の屋敷にお邪魔することになった。

 というのも、ホフマン伯爵から、私が今後、通うことになる屋敷の環境を見るためにも、お父様も一度、屋敷に来てはどうだろうか、との提案を受けたからだ。



「はぁ~~やっぱり、お嬢は可愛いし、素直だし、賢いし、可愛いし……伯爵様に目を付けられてしまいましたねぇ~~~」


 ホフマン伯爵の屋敷に行く途中に、エイドが呟いたのだった。


「エイドったら、まだわからないわよ」


 私はエイドの言葉に、眉を寄せながら答えた。


 侯爵家で、ゲオルグに、初対面で嫌われた過去がある。今日はエカテリーナに貰ったワンピースを着ているので、貴族令嬢のように見えるかもしれないが、それでもやはり不安だ。


「わかりますよ!! お嬢が断られるわけないでしょう?」


 エイドも血は繋がらないが、兄バカなところがあるのだ。


「そんなことないと思うけど……でも、エイドも執事服良く似合うね。髪あげるのカッコイイ」


 普段着のエイドもカッコイイが、今日はもっとカッコイイ。

 これは、兄バカではなく、本当にそうなのだ。


 それが証拠に、エイドの代わりにお使いに行って、花屋のアンや、パン屋のリリから『エイド様に渡して欲しい』と手紙を頼まれたことがある。どうやらエイドは『紙がもったいないから、自分への手紙は控えて欲しい』と言って受け取らないそうだ。


 私は一度エイドに受け取らない理由を聞いてみたが、なんともエイドらしい理由だった。


 どうやらエイドは使い終わった紙を見ると、もう一度溶かして、再利用したくなるらしい。だが、女の子が心を込めて書いてくれた手紙を溶かすのは、申し訳ない。だが、手元にあると、どうしても溶かして使いたくなるから受け取れないとのことだ。


 だがそんな理由で手紙を断っているのに、溶かされても構わないから、エイドへ手紙を渡して欲しいという女の子は多い。

 これはきっと、エイドがカッコよくて、モテるからだ。

 私は真剣にエイドを褒めていると、エイドが片眉を上げて笑いながら言った。


「そうですか? じゃあ、今度、この姿で市場に行けば、たくさんおまけしてくれるかもしれませんね」


 もしエイドが、執事服で買い物に行ったら、女の子に囲まれて、帰れないのではないかと、本気で心配になったが、それは口に出さないことにした。


「エイドは今のままで、充分おまけしてもらっていると思うから、普段の服でいいと思うわ……」


「あはは。俺も普段の服が一番ですけどね。でもまぁ、真面目な話。伯爵様のお屋敷に行くのに、いつもの服ってわけにもいきませんしね。もし、お嬢が俺のせいでなめられたら……俺、立ち直れません!!」


「エイド……ありがとう!」


 エイドと話をしていると、ずっと黙っていたお父様が、胃の辺りを押さえながら言った。


「はぁ~、シャルもエイドも元気で羨ましいな~。私は、緊張で胃が痛い……」


「何を言ってるんです、旦那様。可愛いお嬢を嫁にやる相手と会うなんて、俺だって、胸が痛いですよ~~!!」


 エイドの言葉に、お父様がヨロヨロと今度は、胸を押さえた。


「嫁に出すだと?! いけない、胸まで痛くなってきた」


 私は、今度は胸を押さえる、お父様の背中をさすりながら、言った。


「ええ? お父様、大丈夫ですか? もうすぐですからね。しっかり!!」


「ううう~~娘が優しすぎて、泣きそう」


「俺も泣きそうです」


「お父様、しっかり!! エイド、前見て!! 早く着いて~~~!!」


 私は、お父様の背中をさすりながら、早く目的地に着くことを願ったのだった。



☆==☆==


 ホフマン伯爵の屋敷に着くと、大きな門を開けて貰った。


「何度見ても凄いわ」


「そうですね~門を抜けてもなかなか、お屋敷に、着かないですもんね~。見えますけど……」


 ホフマン伯爵家は門に入ってからも、林があり、その林を抜けると綺麗な庭が見えて、ようやく屋敷の入り口が見える。

 とにかく敷地も大きかったが、屋敷もとても大きい。初めてお茶会にお邪魔した時、エイドと一緒に本当にここで合っているのか不安になって、他の方の馬車を見つけて、2人でほっとしたのだ。


 エントランスの前には、執事が待っていてくれた。


 私たちは、馬車を降りて、家の馬車を伯爵家の御者に預けると、3人でお屋敷のエントランス前に立つ執事の元に向かった。そして、お父様が執事にあいさつをした。


「本日はお招き頂き光栄です。ウェーバー子爵です」


「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」


 実は、高位貴族の屋敷で働く執事は、貴族の出身者がとても多い。だから、本人は爵位を持っていなくても、親や兄弟は爵位を持っていたりする。だから、私たちのような下位貴族は、基本的に執事にも敬語を使うように教育されるのだ。


 ホフマン伯爵家の執事に案内されたのは、入口からして豪華な部屋だった。


「こちらです」


 コンコンコンコン。


「入れ」


 執事は、ゆっくりと扉を開けると、私たちを見て「どうぞ」と言った。

 緊張しながら部屋に入ると、すぐに私の前に、黄金色に輝く髪に、エメラルドグリーンの瞳の私と同じくらいの男の子が走って来た。


「わぁ~~~~♡ まさか君が、おじい様のおっしゃっていた令嬢だったなんて!!

 はじめまして、僕はハンス・ホフマンです」


「わ、私はシャルロッテ・ウェーバーと申します」


 いきなり、天使のようなキレイな男の子に話しかけられて私は、驚いてしまった。


「シャルロッテ。はぁ~~近くで見ると本当に、可愛い~~~♡♡」


 私はあいさつをするために、手を差し出そうとして、戸惑ってしまった。


(もし、また、嫌がられたらどうしよう)


 私は先日、ゲオルグに握手を拒否されたことを思い出して、手を差し出すことを迷っていると、男の子の方から私の手を取って、両手で私の両手を握ってくれた。


(よかった……この子は、手に触れるのを、嫌がらなかった……)


 私は握手をしてくれただけで、嬉しくて胸が熱くなった。


「ねぇ、シャルロッテ。僕のお嫁さんになってくれる?」


 嬉しそうに、私の瞳をまっすぐに見てくれた男の子に、私は無意識に頷いた。


「……はい」


 キレイな瞳でとても幸せそうに微笑む男の子を見て思った。


――この子は私を見て笑ってくれるんだ。……どうせなら、笑ってくれる人と一緒にいたい。


 そう思って、私はハンスとずっと一緒にいることを決めた。


「本当?! やったぁ~~!! ふふふ、僕のことはハンスって呼んでね。ねぇ、シャルロッテ。君のことは、シャルって呼んでもいい?」


「は、はい」


 ハンスは、くるり後ろを向くと「うんうん」と頷いているホフマン伯爵を見ながら言った。


「おじい様、シャルと一緒に、庭に行って来てもいい?」


「ああ」


 ホフマン伯爵が頷くと、ハンスは、手を繋いだまま私を見て笑った。


「シャル、向こうに綺麗な花が咲いているんだよ。一緒に見に行こうよ」


「……はい」


「行こう!! シャル」


 私は何がなんだか、わからないまま、ハンスについて行ったのだった。







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