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第四章 覗き?青春のときめき!食堂?出撃だ!

狂風きょうふう巨獣きょじゅうのように怒号どごうし、果てしない黄砂こうさを巻き上げて天をく。砂粒さりゅうやいばのごとく疾走しっそうし、たきのように流れ、遠くの風食柱ふうしょくちゅうかすめ、微細な裂け目をきざむ。辺り一面の黄砂が太陽を飲み込み、天と地はたちまち境界の見えない混沌こんとんへと変貌した。


一人の人影が突然、この黄濁おうだくした世界に立つ。黒い布で頭を包み、黒衣くろごが風にひるがえり旗のようにひるがえる。ただ、背中の武士刀ぶしがたなだけが、黄塵こうじんを裂く冷徹な鋭光えいこうを放っていた。そして、もう一つの影が無言でその前方にそびえる。たくましく牛のような体格、黒い甲冑かっちゅうまとい、身長八尺半はっしゃくはん、巨大なおおがたなたずさえている。


両者は混沌の狭間はざま対峙たいじし、一語もわさない。その刹那、黒衣の刀先かたなさきが砂を軽くはじく――暗闇くらやみを裂く刃光じんこうが!巨影の手にする大剣が死の弧を描き、突如として斬り落とされる!二つの凍てついた光条こうじょうが空中で激突し、砂嵐の奥深くで、一瞬だが凶暴な火花を炸裂さくれつさせた。


長刀なががたなが空間をつんざき、両者は身をおどらせて激突する――砂塵さじんの中で食い合い、死に物狂いできばをむく二頭の猛獣もうじゅうのよう!砂影さえいが舞い、ただただ黒衣の者が刀を引きずり、飛砂混沌の中に再び冷硬れいこうとした孤峰こほうのようにり固まるのだ。


「黑衣人が勝った。彼は敗者の服の中にあった地図の印の場所で、大量の書物を見つけたのだ…」二条校長は重々しい口調で皆に物語を語っているふりをした。


「ウソくさい。こんな本、新しすぎるぜ」正義がそばの本棚に歩み寄り、一冊を取り上げる。「こ、これは!これって!これ…ただのエロ本じゃねーか…」


「ああ、俺が昨夜見たドラマの話をしてたんだ。それとこの本たちは先代の校長が集めたものだ。変態と思われるのを恐れたがゆえに入ることを禁じていたのだ!」


「何がしたいんだお前は…」



B組が「禁断の書庫きんだんのしょこ」に引っ越して早半月はやはんげつ。クラスメイトたちの絆も深まり、いわゆる「叩くのも親しむのも愛ゆえのあかし」モード全開…


「ねえ、この前お前に聞いた…あの…女子なんだけど、B組の子だろ?名前何て言うんだ?」


正義が食事をしながら尋ねた。


「フン!言わざるを得ぬ、わが友よ、君の目は確かだ!」松野向人まつの むくとが自前のフォークでスパゲッティをくるくる巻く。


「だがしかし…彼女には…おそらく…想い人がいるようだ…わが友よ、どう思う〜?」


「マジかよ!?どうやってわかったんだ!?」


「なぜならば…彼女は…」


この時向人は顔を手で覆い、泣き声を装うようにして言った。


「俺のファンクラブに…!興味がないのさ!ウウウウ…」


「うっせーな!バカ!それとこれとは何の関係があるんだよ!」


「この魅力輝くわが身でさえ…彼女をわが…麾下きかに収めることができず…わが友よ…頑張れ…」


間もなくして、彼はファンクラブの女子たちに囲まれてしまった。正義はこの混乱に乗じて脱出した。


ほどなくして校舎の中にたどり着く。


「ダメだ、あいつの言うこと、全く当てにならねぇ…麾下に入らないからって、好きな人がいるとか…」


正義は歩きながらブツブツ呟く。


あきらか…なんていい名前なんだ…」


「こんにちは〜!」


「……こんにちは」


正義と晶がすれ違う。


「くそっ!西門正義、こんにちはって何だよ!?話しかければいいのに!もしかしたら俺の名前すら知らないかもしれねぇ…」


「まぁ…まず自分に少し存在感を持たせる…」


それから数日、正義は毎日双眼鏡を手に、誰にも見つからぬ場所に潜み、矢口晶を覗き見した。時々は自ら出向いて存在感をアピールもした。


「おっす!」


「あ、は、は…」


「そうだ!名前は何て言うんだ?」


「えっ、俺か…西門正義にしかど まさよし…西門正義…」


「私は矢口晶やぐち あきらよ!」


晶が正義に向かって微笑む。


「こ、これは…絶対忘れんぞ…」正義が小声で言う。


「え?何て言ったの?」


「な、なんでもない…」


「ところで、どうしていつも双眼鏡持ってるの?それで星を見るの!?」


「あ…はは…そうだよ、星を見るんだ…星…」


「素敵!私も天文が大好きなの!」


彼女は首をかしげて、正義に心温まる微笑みを見せた。


「じゃあ、私行くね!もうすぐ授業が始まるから!」


正義は彼女に背を向け、空に向かって拳を握りしめ、目を閉じた。しかし、幸福の涙はどうしようもなく溢れ出す。


「可愛すぎるだろ!死んでもいいわ!くそめ!」


もちろん、正義の覗き見も万事順調とは限らなかった…


「さてと…晶ちゃんはどこかな…」


正義が木の陰にうずくまって探していると、背後に人影が現れる。


「こら!お前!誰を覗いてるんだ!」


彼女は正義の右肩を思いっきり蹴り飛ばした。正義はびくともせず、そのまま探し続ける。


「動くなよ!晶ちゃんを探してるんだ!」


「晶ちゃん?矢口晶!?」


正義がうなずく。


「てめぇ、やっぱり覗きだったのかよ!」


彼女は正義を何度も蹴りつけた。正義の手から双眼鏡が床に落ちる。


「てめぇ、何するんだよ!人に干渉するな!」


「見ろよ…俺は誰だか分かるか!」


「お前は…矢口…矢口…」


正義が何かを思い出した…


確かある授業で、虎子やぐち とらこが言っていた。姉もこの学校に通っていると…


正義は一瞬の躊躇ちゅうちょもなく、地べたに土下座した。


「あ、あの…大…姉様あねさま…」


「姉様のことは…何もかも見ていませんでした…何でもしますから…お願いします…」(正義よ、君の節操は…)


「何でもする…?」


虎子の口元が歪んだ。その清秀せいしゅうな面差しとは極めて不釣り合いな、悪戯っぽさを含んだ笑みを浮かべながら、汗をかいて土下座する西門正義を上から見下ろした。


「なら、よろしい。姉様への見苦しい覗き行為のつぐないに、食事をご馳走しなさい!」


「えっ?…食、食事!?」


正義が慌てて顔を上げた。その表情は、呆然ぼうぜん驚愕きょうがくが混ざっている。この要求は…思っていたより大人しい?いや、しかし確実に致命的な罠の匂いがするぞ。


「ええ、食事よ!」


虎子は両手を腰に当て、近くの花壇の縁に片足をガツンと乗せた。その豪快な動作は、可愛らしい女子制服とは全くもって不釣り合いだ。


「場所はね…学食よ。ランチに行くの!ちゃんと並んで、私と姉様の食べたいものを買い揃えなさい!これが貴様の『贖罪しょくざいの儀式』よ!分かったか、覗き魔!」


「晶…姉様も…!?」


正義の声は一瞬でオクターブ跳ね上がり、心臓を無形の手でギュッと締め付けられたかと思うと、血が狂ったように頭に昇った。晶さんと…一緒に…食事!?こ、こんなこと…罰か?それとも褒美か?待て待て、いや、謝罪と言う形で監視つきの…彼の表情は極上の狂喜と極度の恥辱の間で歪みきった。


「そんなバカみたいな顔するな!」


虎子が軽く正義のふくらはぎを蹴る。


「これは罰だ!罰って分かる!?感謝して受け入れろ!姉様の前で貴様の汚らわしい考えを少しでも漏らしたり、彼女をほんの少しでも不快にさせたりしたら…」


彼女が目を細めると、その瞬間放たれた冷気で正義は背筋せすじが凍りつく思いがした。


「…本当の『学園生活の終わり』ってものを思い知らせてやる!」


「は、はいッッッ!!!」


正義はほとんど反射的に90度の深々としたお辞儀をした。頭を膝にぶつけんばかりに。


「懺悔の食事…いや、心からのランチを!わたくし西門正義、全身全霊を込めてお仕えいたします!妹様、この貴重なる機会を賜り、深く御礼申し上げます!!!」


顔を上げた彼の目には、ある種の炎が燃え盛っていた。


「晶さんと一緒にランチができるこの機会を守るために、食堂で全員と戦うことになろうともかまわん!」と言わんばかりの、奇妙な炎だ。


虎子は彼の、へっぴり腰でありながら奇妙なやる気に満ちた悲壮な武士のような表情を一瞥し、口をへの字に曲げた。


「ちっ…訳のわからん闘志とうし…まあいいわ。昼休み、君の命を懸けた美味しいおかずで埋めてくれるのを期待しているわ!」


彼女はポケットから取り出したティッシュペーパーを丸め、地面にポイッと捨て、軽やかなポニーテールを振りながら、勝者の余裕を纏って去っていった。


取り残された西門正義は一人、昼食前の暖かい風の中、長い間お辞儀の姿勢を保ったままだった。心の中では、さっき地面に踏みつけられていた時よりも、一万倍も複雑で激しい、小さな演劇が繰り広げられていた。


昼食のベルが、西門正義にとって、初めて「進軍ラッパ」となった。


彼はほぼ全速力で食堂へ駆け込み、混雑が完全に形成される前の窓口を目指した。


しかし、「学生食堂」という語が象徴する混沌の深淵の恐怖は、恋愛妄想と贖罪のプレッシャーに押しつぶされんとする少年の予想をはるかに超えていた。


揚げ物、カレー、無数の青春の汗の臭いが混ざり合う巨大な空間に足を踏み入れた途端、正義は息が詰まりそうになった。かしましい人声は衝撃波のようにぶつかり、どの窓口の前も突然、無数の腕と頭で構成されたうねる長い蛇のように成長していた。特に、伝説の限定品「特製カツカレー」と「巨人族ビーフシチュー丼」の窓口は既に何重にも人の渦を巻いており、その威容いようは凄まじかった。


「終わった…これが真の食堂戦争か…」


正義は足が少し震えたが、虎子の冷たい刃のような視線、そして晶ちゃんを思うと…歯を食いしばり、眼光がんこう鋭く戦場をくまなく見渡した。


その時、彼は三番窓口付近のごった返す人混みの中で、極めて目立つ焦点を見つけた――松野向人だ。あの特徴的な栗色の髪は手入れが行き届いた羽のように午後の日差しの下でキラキラと輝き、彼の周りを――いや、幾重もの輪になって星を散りばめた目をきらめかせ、応援旗のようなものや手作りの弁当箱(?)らしきものを掲げた女子生徒たち――松野向人応援団が囲んでいる!


「フハハハ!麗しきお嬢様がた!今日はまたもやなんという栄光が我らをこの場に集わせたのかしら〜!」


向人は両手を広げ、まるで食堂全体の喧騒けんそうを抱擁するかのように、声高らかに演劇的な口調で叫ぶ。


「お嬢様がたのこのお熱意に応えて、わが麗しくも高貴なる胃袋も、本日は芸術のために捧げられなければならぬ…グルルルル!」


彼はお腹を押さえ、場違いでかつ非常に大きな腸の鳴動ちょうのめいどうを発した。場は一瞬、凍りついた。


周囲の群衆からは、親しみを込めた爆笑と更なる大げさな悲鳴(「きゃあっ!ムクト殿下かわいすぎ!」、「お腹空いてる姿すらご立派!」)が湧き起こった。


「ちっ…やっぱりこのトラブルメーカーか…」正義が呟く。向人の存在自体が、混雑と混乱を呼び寄せる磁石じしゃくだった。更に致命的なことに、窓口の列の最後尾が、この華麗なる光害源ひかりがいげんと彼の応援団によって、文字通りふさがれてしまっているのだ!


「どけどけ!邪魔だ!人の迷惑考えろよ!」


正義は心を鬼にして、熱心な応援団員たちをかき分けようとした。


「無礼者!ムクト殿下に対するその態度はなんですの!」


すぐに女子がにらみつけてきた。


「わが友よ…なんと美を解さぬ奴よ!公の場で情熱を吐露するという我々の高貴なる行為すら、邪魔しようとは…なぁ〜?」


向人も振り向き、正義を指さし、大げさに言い募った(いいもった)。


正義が包囲網に囚われ、応援団の「熱意」で溶けてしまいそうになったその時、彼の後ろで、聞き覚えのある、まったく感情の揺らぎのない声が響いた。


「ヨ、こっちこっち」


夜生花だ!彼女はいつの間にか幽霊のように正義の後ろ半メートルに出現し、ごく普通のトレイを持っていた。彼女の視線は誰にも焦点を合わせておらず、周囲の喧騒はまるで別世界のことのようだ。


「夜…夜生花!?」


正義は命綱を掴んだ思いだ。


夜生花は答えず、ただその焦点の定まらない目で道を塞ぐ応援団を一瞥いちべつした。そして、ごく自然に、何の前触れもなく、両手を口元に当ててメガホン代わりにし、高くはないが不思議とよく通る、まるで環境音にまぎれ込んだかのような声で一言言った:


「向人様、ズボンに……どこかで転んだ時に付いた小さな、薄暗いシミ?がついているようです――」


応援団全体の雑音が凍りついた。


松野向人が慌ててズボンを見下ろし、顔面蒼白になった。応援団の女子たちも一斉に夜生花が指し示す方向を見た――そこにはおそらく何もなかったが、夜生花の絶対的に確信ありげで、全く破綻の見えない能面顔のうめんづらが、無比の破壊力を持った。


「し、シミ?!どこだ?!」


向人は慌ててその場でクルクル回って確認した。その動作の勢いで隣の応援団員をぶつけてしまった。


「あっ!押さないで!」


「殿下、お気をつけて!」


一陣の人ごみが押し合いへし合いを始めた。


この千載一遇せんざいいちぐうのチャンスに、夜生花はごく自然に一歩横にずれた――押し合う群衆とカウンターの間に、狭いが一人が通れるほどの空間が生まれた。彼女は無表情でそのスペースを見つめ、手首に自分で書いた腕時計(?)を見つめるふりをし、空気に向かって言った:


「早く」


正義は瞬間的にひらめいた!彼女の行動原理はさっぱり分からなかったが、意図は明白だ――今だ!ここから通れ!逃げろ!


「おおおおおおおお!」


正義は意味不明な雄叫おたけびを上げ、全能力を爆発させ、這いずり回るように、文字通り地を這うような見苦しい姿でその束の間の空間へと突進し、見事に三番窓口の列の真ん中に「潜り込んだ」!背後の向人の声が響く。


「あ!騙されただと?!てめぇぇぇぇえええええ!!……よくも騙してくれたな……!!」という悲憤ひふんの叫びと、更に混乱する応援団の声。


彼は息を切らして胸を叩いた。振り返ると、夜生花はすでに物静ものしずかに別の列の最後尾に移動し、木の棒のように待っていた。まるで何も起こらなかったかのように。ただ彼女の無表情の横顔だけが、喧騒と混乱の食堂の背景の中で、畏怖いふの念を抱かせる(あるいは恐怖感を抱かせる)ほどの深遠しんえんさを見せていた。


「Yo(yu)霊…お前…助かったぜ…」


正義は呟き、この奇妙な女への評価は複雑極みないものとなった。その瞬間――


「あ、この場所空いてますか――本当にありがとう、正義くん!」


大江万里が列の一番を放って隊尾の方を見ていた正義に感謝した、「それでは遠慮なく!」 そう言うと、元々一番手前だった正義の前頭に割り込んだ!


「おい――!西門正義!何ボーッとしてんの!あと三分で約束の時間だぞ!姉様が来るってば!早く決めろよ!」


虎子の悪魔の宣告にも似た澄んだ声が人混みを抜け、彼の鼓膜に突き刺さった。


「ちょちょちょ!お前この熱血馬鹿メガネはどこから湧いて出たんだよ!」


正義は我に返り、大江が既に「特製カツカレー」と「巨人族ビーフシチュー丼」のトレイを二枚ずつ持って、にこやかに去っていくのを目にした。


「やべぇ、超やべぇ!っていうことは限定メニューはあと二人分しか残ってないはずなのに…三人だ…」正義、涙再び。


「恋愛って言葉は…なんて不思議なんだ…!」


「おい!前のバカ!買うかどうか決めろ!買わねぇならどっか行けよ!」


「そうだそうだ!待たせんじゃねーぞ!」


正義が顔を上げる。


「限定メニュー二つと、カレーパン一つ!お願いします!」


虎子の方を見ると、彼女は近くに立ち、鋭い眼差しで正義を見据えている。そして彼の視線の先には、待ちわびたけれどもそれ以上に心臓をバクバクさせる、晶の優しい姿が興味津々で、こちらに歩み寄ってくるのが見えた…


正義の胃は、空腹とプレッシャーでますます激しく痛みだした。だが彼の瞳に燃え上がる炎は、より一層激しく輝いた。


なぜならば、真の戦いが今、始まろうとしていたから――地獄の「贖罪ランチ」が、始まる!


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