第二章 Lesson1!超疲れたぜ!しょうがねぇな!JUMPだ!!
「……何か疑問はもうないな?」
校長が教壇を踏み鳴らしながら言った。
「全員、カバンとかそういうゴミ、廊下に出しに行け!」
全ての荷物が廊下に並べられた頃、教室内は困惑した顔でいっぱいになっていた。
「よし!行くぞ!本物のレッスン1だ!みんな外に出てランニングしよーぜ――」
突然、教室のドアが何かにぶつかる音がし、人影が走り抜けた。二条校長は言い終わらないうちに、もう駆け出していた。
「おいおいおいおい!冗談でしょ!?このクソ暑い中、バカじゃねーの!?」
クラス中が一気に騒然となった。正義もその場で凍りついた。聞き間違いか!?
陽射しはまるで真っ赤に焼けた鉄塊が、黄赤い巨大な舌で大地を舐め尽くすかのようだった。空気は灼熱し、パチパチと音を立て、吹く風のひとつひとつが熔鉱炉から噴き出した窒息しそうな熱気を纏っていた。
この荒唐無稽な校長、いまからトレーニングだって?正義は呆れ果てながら、周囲の同級生たちの動きを観察した。気持ちを落ち着かせようと水を一口含むと、さっきまで夜生花が座っていた席が空っぽなのに気づいた。
「マジでバカがついて行ってるのかよ……」
そんな時、リ・ジンが机をバン!と叩いて立ち上がった。
「諸君!校長の言う通りに動け!急ぐんだ!」
驚いたことに、左隣の蛇女(あの陰キャ女子)や右隣の金持ち野郎まで立ち上がり、大江万里に続いて外へ出て行く。正義は「バカばっか」と舌打ちし、机に突っ伏して寝る態勢を取った。
「行きたきゃ行けよ。行かなきゃって理由で食われるわけじゃあるめぇし…」
人が次々と出て行くのを見ていると、教室に残っているのはほんの数人だけだった。
「マジで基地外だぜ、アイツら!ハッハッ!」
「クソ暑い中外に出るかよ!」
「バカかこいつら!」
「火事だああ!火事だあああ!」
「うっせえ!バカ!早く逃げろって!」
「な……なに騒いでるんだ…?」
正義が寝ぼけた声で聞いたが、誰も答えはしない。耳に届くのは、焼けている木製の机や椅子のバチバチッという音だけだった。彼がハッと起き上がると、背中には炎の舌が舐めつけるかのような熱気が迫っていた。窓ガラスも炎の熱情に耐えきれず、雪のようにバリバリッと砕け散る。考える間もなく、彼は一目散に飛び出した。教室を二歩で踏み切り、室内履きさえ脱ぎ捨てずに校門へと飛び出し、外にいた生徒たちを追いかけた。
「こいつ……マジでやりやがった……チクショウ!」
「皆さん……何だか教室の中……暑くないですか……?」
隣のクラスの杏田先生が問いかけた。
「ご心配なさらず、麗しきお嬢様!私が解決してみせましょう〜」
向人が優雅に立ち上がり、中央空調のコントロールパネルをチェックに行った。しかし、設定温度は24度。一度の狂いもない。彼は髪をかきあげると、
「仕方ない。じゃあB組を見てきましょうか、困ったお嬢様たちですね〜」と言った。
「わあっ!ムクト殿下、カッコイイ〜!」
「黙れ!私の殿下なの!」
なんと、まだ学校に来て半日しか経っていないのに、松野向人応援団なるものが既に結成されつつあった……しかし……。
「ギャアアア!大変!B組が燃えてるああああ!」
ついさっきまで優雅に振る舞っていた向人殿下が、今や靴さえも飛ばしながら廊下の奥へ全速力で逃げていき、跡形もなく消え去った。杏田先生は生徒たちに
「落ち着いて!」
と指示を出すと、自分は外に出た。外に出た途端、周囲の空気が一瞬で奪われた。まるで温圧弾の直撃を受けたかのように、熱波が津波となって襲いかかるのだった!彼女はすぐに教室に戻り、生徒たちの避難誘導を始めた。そして放送室へ駆け込み、全校生徒に向けて声を限りに叫んだ。
「全校生徒の皆さん!安全な避難経路からすぐに校庭へ避難してください!」
すぐに119番通報もした。なんと消防車が到着する前に、全校生徒ほぼ二千人を校庭へと避難させたのだった……
最後に校庭にたどり着いた杏田は、芝生に足をつけた途端に膝がガクガクと震え、その場にしゃがみ込んだ。側にいた教師や生徒たちがすぐにかけ寄って支えた。一人の女性教師が彼女の肩をポンと叩きながら言った。
「秋葉先生、今日は噛まなかったわね」。
その言葉に周囲は思わず笑い声をあげた。杏田先生自身も、顔は火事の煤で真っ黒だったが、温かい笑みがこぼれていた。
「ねえ……消防車だよ……どこが燃えたんだろう……」
二条校長の直後を走る生徒が、息を切らしながら言った。校長の口元はわずかにピクついている。
「しゃべるな!走れ!」
「は……はいっ……」
最後尾を走る正義たちの部隊は、みんな犬のように舌を出し、肺の中の熱気を吐き出して限界状態だった。正義自身も足を止め、ひざに手をついてうつむき、息を切らしていた。顔を上げると、前方を走る三人の背中が見えた。湿った喉をかき切って叫ぶ。
「待……待てよ……お前ら……疲れねーのかよ……?」
しかし三人は、まるで脳みそを失ったゾンビのように、止まる気配すらなく走り続ける。
どうやら彼らは、教室に残っていたあの生徒ABC三人組だった。
「おい……ってかさ……ABCトリオ!お前ら本当に大丈夫かよ!?」
「うるせえ……走り続けりゃ……疲労は感じねぇ……止まったら余計に死ぬほど疲れるんだよ……」
生徒Cが答える。
「チッ……」正義は彼らに背を向けると、ちょうどコンビニに寄ったヤンキーのバイクに目を止めた。車主が店に入ったすきに、正義はサッとバイクにまたがった!
「おい!バイクちょっと借りる!返すからな!」
ハンドルを握ると、コンビニから飛び出してきたヤンキーが何を叫んでようともお構いなしだった。
「てめぇ!このクソガキ、降りろォオオオ……ドドドドドドドドドーン!!!」
バイクは文字通り弾丸のように発射され、罵詈雑言を浴びせるヤンキーだけを後に残した(←これは違法です)。一気に前方の三人を追い抜いた。ABC三人の目が点になった。
「あッ!?お前、どこからバイクを拝借してきたんだよ!?」
「グダグダ言ってんじゃねぇ!サッと乗れ!後続部隊に追いつかれるぞ!」
しばらくすると、なんと四人が一台のバイクに乗り込んでいた。だが……様子がおかしい。
「右腕は俺が構成するぜ!(俺がハンドル右を持った!)」鈴木仁が叫ぶ。
「な、なら俺が左腕を受け持つぜ!(俺がハンドル左を持った!)」高橋賢人がステップに足をかける。
「フン!お前ら、アクセルを捻るよう命じる!(ハンドルはお前たちが持ってるけど指示は俺が出す!)」佐藤翔一が後部座席の半分に座る。
「ちょっ!構成ってなんだよ!お前ら二人はバイクにインド人みたいにぶら下がったり乗ったりできねぇのかよ!?」
眼前の光景に正義は完全に言葉を失った。
「それよりお前、命じるって何だよ!お前らに脳ミソねぇのか!だったら俺は……『ブレーキをかけろと命令する役』かよ!?」
「ヘヘヘ……追いついたぞ、オレのバイク返しやがれェエ……ブォオオオーン!」
案の定、二度もバイクの排気ガスを浴びせられたヤンキーが追いつけるはずもなく、音をあげた。
そして正義は、なるべくして……バイクのもう半分の座席、すなわち――ブレーキレバーを握る「ブレーキ係」役に座ることになった。ともかく、これで部隊に追いつくことができた。
「なあ、ABCの……」
正義が言いかけると、どうやらリーダー格の佐藤が遮った。
「ABCじゃねぇよ!名前あるんだぞ!」
「大将!佐藤翔一!」(←生徒C)
「子分・壱号!鈴木仁!」(←生徒A)
「軍師!高橋賢人!」(←生徒B)
「全く覚えられねぇよ……」
やがて何人か落伍者が見えてきた。彼らの先では、人影がざわめいていた。近づくと奇妙な光景が目に入った。あの蛇妖女を中心に、一団が固まって走っているのだ。
「ありえねぇ……こんな暑いのに群れになって走るなんて……」
正義が首をかしげていると、周囲の声が聞こえた。
「……なぜかわからんが、彼女と一緒にいると涼しいんだぜ……」
「超涼しい!疲れも吹っ飛ぶ!」
「君、名前は?」
「そうそう!まだ知らないよね!」恵の周りの女子たちが口々に尋ねた。
「右京恵」。
「え、恵ちゃん?覚えたわ!」「お友達になろ〜!」
右京恵はそっと頷いた。
「チッ……こいつ、見てるだけでムカつく……デカい態度……やっぱ蛇女の周囲だと凍りつく……自分すら例外じゃねぇ……」
正義が彼らを一瞥し、小さく呟いた。そして佐藤に加速するよう促す。
「佐藤C!お前の子分たちに加速させろ!」
「オイオイ!テメエ、敬意のかけらもねぇな!佐藤Cってなんだよ!」
佐藤翔一が鈴木の肩をグイッとつかむ。
「子分壱号!加速!フルスロットルだ!」
「大、大将っ!お前も俺の名前覚えてねーじゃねーか!」
鈴木が悔し涙を流した瞬間、力の入れすぎでスロットルが効かなくなり、更にブレーキレバーまで動かなくなってしまったのだ……!
「ヤヴァ!スロ……スロットルが!戻らねぇ!」
鈴木の顔からは汗が止まらず、顔面蒼白だった。
「終わった……終わった……終わった、終わった、終わった!死んじまう!」
「ドカッ!」大将の佐藤が彼の頭を思い切り殴った。
「バカモーン!縁起でもねぇこと言うな!ブレーキならまだあるだろ!?軍師!ブレーキだ!軍師!おい軍師!」
「ドカッ!」
正義も佐藤の頭に同じように強烈な一撃を加えた。
「軍師も軍師もあるかよ!とっくに飛び降りて逃げやがったわ!」
彼自身はブレーキを握るが、たとえ速度を少しでも落とせれば……しかし、ブレーキは固くて利かない。どうりで軍師が逃亡したわけだ。正義も躊躇なく身を投げ出し、バイクから飛び降り、何度か地面を転がってようやく止まった。服の埃を払い、はるか彼方へ去っていくバイクと二人に軽く一礼した。
正義は再び歩道を駆け、彼らを追いかけた。必死に走り、ようやくあの最も目立つ、スーツのままで十数キロ走り抜けた金髪校長・二条永吉の背中が見えた。正義は内心ほっとした。どうやら、もう変なことは起こらなそうだ……だが……本当に?
ラスト5キロを走り抜け、ついに海が見える場所に到着した。柵が一部破損した道端で、ようやく生徒たちは足を止めた。
「はよー!はよーし!」
二条校長が大声で急かす。柵のそばに立っていたのは、あの奇妙な無表情の面女・夜生花だった!こんな所にどうやって来たんだ?その脇には簡易更衣室が並び、夜生花が大きなラックを持っている。なんとラックには水着がびっしり!
正義は怪訝な表情で様子を窺った。彼女が右手を上げ、挨拶のポーズを取り、淡々と言う。
「Yo」。
「……ヨ」正義も反射的に応じた。すると夜生花はラックを差し出して告げた。「水着を選べ。更衣室で着替えろ。そして飛び込め」。
「飛び込めば、入学試験満点。飛び込まなければ、大変なことになる。二条校長がそう言ってた」。
は?何言ってんだこいつ?全く意味がわからん……。
「は……はい……」
正義はここまでの怪事件にすっかり気力を削がれ、断ったら何されるか分からないという恐怖に従うしかなかった……(正義よ、お前って案外従順だったんだな……)。
ドボンッ!
ザブンッ!
ドボッ!
「ほらほらほら!着替えた奴はサッと飛び込め!飛び込まない奴はブン殴るからな(←これは不正です)!」
水着に着替えた二条校長が柵の上に座り、メガホンで大声を張り上げている。もう半分以上の生徒が海へ飛び込んだ。正義は地面と海面の距離を見て、怖気づいた。泳ぎはできるが、こんな高いところから飛び込んだことはないのだ。海で楽しそうにはしゃぐ同級生たちを見て、自分だけが飛び込めないのは……腰抜け野郎だと思われる……。
彼はぼんやりと柵の破損個所を見つめていた。そこへ一人の女子生徒が嬉しそうに小走りに向かう。
「スタイル……まあまあいいな……ってちょっと!西門正義、何見てんだお前は!」
と頭を振り、邪悪な考えを振り払う。
「それにしても高すぎだろ?俺の身長ぐらい?いや、俺より……少し低いか……?」
次の瞬間――彼女が飛び込んだ。そんな簡単に飛び込めるのか!?
二条校長が正義に気づいたようだ。
「おーい!そこの何とかって生徒!」
とメガホンを掲げて言う。
「女子どもはもう飛び込んどるぜ!お前はいつまで待っとんねん!」
「そっ……そこの生徒?俺か?」
正義は自分を見てから、大声で返した。
「飛び込めるかよ!この高さじゃ死んじまうだろ!」
「死んでも知らん!さっさと来い!」
二条校長が正義の腕を引っ張り、破損個所に近づける。正義は高さを見て再びひるんだ。
「この高さ……マジで死ぬぞ……」
「んじゃな、飛び込むか、ブン殴られるか(←これも不正です)、どっちか選べ。オレは行くで」
と背を向けて去るふりをした。正義がまだ放心状態で立っているのを見るや否や、猛然と走り寄った――そしてサッカーのインサイドキックのように一閃!
二条は鼻をほじりながら言った。
「青春とはJUMPだぜバカ野郎!」
「あああああああああああっ!ドボォォォォォーンッッッッ!」
『1』『3』『2』『0』『1』
「ふむ……最高点と最低点をカットして……動作の難易度係数をかけると……『6.4』点!」
「クソが!点数まで付けやがった!」正義が水面から頭を出し、浜辺に座る審判団を睨みつける。「どけ!どけろ!」その時、上空から黒い稲妻が一直線に正義めがけて落ちてきた!
ドッカァーンッッ!
ザパッーーー
ン!!!!!水しぶきが四、五メートルも舞い上がり、アスファルト道路まで濡らした。
西門正義、満身創痍……
『9』『10』『8』『10』『9』
「ふむ……まず最高点と最低点をカット……次に難易度係数を掛け合わせて……『182.4』点!」
「二条校長!見事にB組飛び込み大会初代チャンピオンに輝きました!」
「校長!校長!」
「校長!校長!」
正義は波間に漂い、やがて波打ち際まで流れ着き、なんと裏返しになって上がってきた。いつ降りたのか、夜生花が浜辺に立って、棒切れで彼をツンツンとつついている。
「死んだか。」
「ゲロゲロ……生きてるよ……」正義は砂浜を踏みしめてよろめきながら立ち上がった。さっき校長に直撃された頭が割れそうに痛い。彼は頭を手で押さえる。
「Yo」
「ヨじゃねぇよ!いてて……」
どれほどの時間が流れたか……
「大将……ここ、どこだよ……」
鈴木仁がアスファルトの路上で目を覚ます。バイクの姿はとっくに見えなかった。周囲は賑やかだ。
「知らねぇ……とにかく日本だろ、たぶん……」
佐藤翔一がリーゼントを後ろになでつける。
「まずは聞いてみよう……」
「あの……すみません……ここはどこでしょうか……」
「Hah? Could you speak in English?(英語話せる?)」
……
「おッハッ?お前ら↑Cクン↓と↑Aクン↓か↓?なんで↑こんな→ニューヨーク↓に来たんだよ↑?」
なんとあの金持ち野郎は確かに大江万里と一緒に外に出たが、彼が向かったのは――空港だった!
「聞いてるこっちが聞きたいわ!お前なんでアメリカまで来たんだよ!(←アイヌ系だと思ってたのに)」
「オレは↑アメリカの↓出身だよ↑。エクスチェンジ・スタディープログラム↑で→来た↓。名前は↑ヨーク・レスター↓って↓言うぜ↑(York Leicester)。」
……
「フン、正義ってやつ、来ないなら来ないで、これだけ注目の的である俺が不在を嘆いているってことを思い知らせてやるぜ!」
松野向人が食堂の椅子に座っていた。
「向人様、そろそろいかれませんか?もうすぐ授業ですよ……」
「麗しきお嬢様〜どうぞお先にお戻りくださいませ〜ワタクシは……」
松野向人が意味もなく髪をかきあげ、最後に頭を思いっきり振り、
「ええい、もう!」と花火のように弾けた。
「ええ、信頼を裏切った…友人を……待っているのさ!ハハハ!案外ワタクシは優しいのかもしれん〜」
……
「向人様っ!そろそろ行かれませんかぁ?もう二学期が終わっちゃいますよぉ……」
「さあ……どうするかなぁ……約束を守る男ってのは……ねぇ?」
……
「向人殿下!どこの大学に行かれるんですか!」
「その時は……決めるさ!ふん、西門正義、誰が約束を守る男か思い知らせてやる…」
……
ニュース特報フラッシュ:
かつて「池典高級中学」があったこの地にて、驚異的な保存状態の完形人類遺体が発掘された!考古学界に新たなページを刻む世紀の大発見!さながら時の棺桶に封じられた奇跡!