6 運動会の買い出し
[結斗視点)
今日は、学校が休みの日だ。まだ4月で新学期が始まったばかりだ。だがゴールデンウィークが終わり、6月の上旬になると運動会が行われる。今日は、その買い出しに来た。浅見主任から秋海棠先生と行くようにと言われて、秋海棠先生と近くのショッピングモールに来た。俺は、リストを手に持ち見つめる。
「えっと、福寿草主任が買えるものだけでいいと言っていたので、取り敢えずホイッスルやテープを買いに行きましょうか」
俺がそう言いリストから秋海棠先生に視線を向ける。秋海棠先生は、何かを考えていた。
「そ、そうですね。東雲先生。取り敢えず、スポーツ用品店に行きましょうか」
「秋海棠先生、先に行かないでください」
彼女は、俺を置いていくように先に歩いて行ってしまう。俺は、リストを片手で握り秋海棠先生の後を追うように早歩きをする。スポーツ用品店の前につく。秋海棠先生は、あることを思い出したようだ。秋海棠先生は、バッグからメモを取り出す。
「あ、そう言えば、薊主任から八巻もここで予約するようにって頼まれたんです。なんかいつも発注している業者が他の学校からの大量発注ありまして無理みたいで。鉢巻は各クラス予備も含め30本ずつだそうです。去年は破れてないのも半分くらいあったそうで、それは使い回しみたいで」
毎年俺の学校では、1組が赤色、2組が黄色、3組が青色の鉢巻を頭につけることになっている。1学年2組だけしかないとか、4組とかある場合だったら、適当に色を分け与えられるのだ。鉢巻も毎年、汚れが目立っているものや、破損しているものがあり、衛生面を考慮して新しいものを買う。毎年それが恒例になっている。鉢巻はかなりの数を買わなければならない。在庫を確保する為に事前に発注してもらえるように店に頼まなければならないのだ。
「今年も新しい鉢巻買わないといけないんですね」
「毎年、運動会は熱いですし。私の2組は東雲先生の1組に勝ちますから、覚悟しておいてください」
「まあ、脳筋教師の飛竜先生のクラスの3組には勝てる気がしませんが...いい勝負になりそうですね、秋海棠先生」
「ふふ、楽しみですね。東雲先生」
彼女は、少し笑みを浮かべる。俺はもう一度リストを見る。買わなければならないものはまだある。俺は秋海棠先生にある提案をした。
「まだ買わなければならないものがたくさんあるので、ここから別行動ということで」
秋海棠先生がすこし驚いたような顔をする。だが、すぐに納得したように彼女は頷く。
「じゃあ、俺は下の階で必要なもの見てきます。えっと、1階のリストは、1枚目なので、2枚目を秋海棠先生に託します」
俺は、2枚目のリストを秋海棠先生に渡す。どうやら福寿草主任は、1階で買えるものは1枚目に。2階で買えるものは2枚目に分けてくれたらしい。気が効く。
「承知しました。東雲先生。じゃあ、買い終わったら連絡入れますので、また、合流しましょ」
「よろしくお願いします。秋海棠先生」
彼女は、軽く俺に手を振る。俺も軽く手を振りかえし、一階に行く為にエスカレーターに乗り一階へと向かった。運動会の全校に配るプログラム用の紙を、500枚パックを8個。刷ミスや予備も見積もりに入れ約4000枚くらいという計算だ。全生徒には勿論、配布するが来賓者、保護者達にも配布されるため、毎年、プログラムを多めに作る。その為に、紙は多めに買うのだ。それ以外にも1年生のそれぞれのクラスのポスターに使う画用紙。毎年、念の為2、3枚ずつ1クラスに分けられている。そして、借り物競走の時に使用する封筒。プログラム用に買った紙の数枚は、借り物競走の封筒の中に使用される。
教師になりたての頃は、副担任として担任とクラスを盛り上げていた。行事の買い物をしていた時に、数を間違えることはよくあった。そして、当時の学年主任や担任に注意をされていた。だが、今こうして担任として買い出しをしている。少しは成長している気がする。
***
買い物が終わり、合流した後、俺と秋海棠先生は、カフェにてパフェを食べていた。俺が秋海棠先生を車で連れてきたお礼で奢ってくれていた。
「どうでしたか、秋海棠先生」
「取り敢えず鉢巻は、予約しておきました。5月の上旬には納品されるみたいで、その時にまた取りに来てくださいとのことでした」
「僕の方は、紙の在庫が4000枚のあったみたいなので、先、車へ積んできました。大量購入のサービスも受けれて、数人の店員さんにも手伝ってもらいトランクに詰め込みました。かなりの量ありましたが明後日の月曜日の時に飛竜先生と福寿草主任と秋海棠先生と俺で車から紙を下ろしましょう」
「そんな大量に予備も含めて買うなんて、真面目ですね。東雲先生。なんかこうやって同じ学年の先生達と共同で作業できるって楽しいですね」
秋海棠先生の右側に袋が置かれていた。
「そうですね。秋海棠先生は鉢巻以外だと何を買ったんですか」
「ホイッスルとかテープとか、あとは競技用の記録ノートとか、飾り用のガーランドとか、来賓席用の紙コップとか」
「流石です。飾りとかももう作り始めなければなりませんからね」
俺はパフェをスプーンで口に運びながら、秋海棠先生を感心する。秋海棠先生は、かなり人に気を配れるタイプで、細かい事にも気がつく。福寿草主任も秋海棠先生みたいなタイプで、人に気を配れる。だから、福寿草主任は、秋海棠先生の事を本当の妹のように可愛がっているのだろう。入学式の後に行われた、1年の先生だけでの飲み会の事を思い出した。あの時も、福寿草主任は、呆れながらも秋海棠先生の頭を撫でていたのだ。
「まあ、今日は休日ですし、たまには仕事の用事で来てこうやって美味しいものを食べるのも大切ですね。車出してくださったお礼なので、美味しく食べてください」
彼女の顔を見ていると、学年集会の時の彼女の手に俺の手が触れてしまった事を思い出す。あれはわざとではなかった。だが、完全に春斗くんに見られてしまっていた。来週から始まる三者面談の時に桜庭さんに何も言われなければ良いが。