食の短編 あるラーメン店との出会い
ある味噌ラーメン専門店に巡りあったお話。
店の固有名詞は伏せてあります。まあ、描写を見れば分かる人には1発バレしそうですけど。
ギャグテイストのエッセイです。ノンフィクションですが、フェイクも多々入ってます。
オチは特に無いです。
──好きな料理は何ですか?
と問われたら、何と答えるだろうか。
私の頭に浮かぶのは、カレーに、焼き肉、寿司も捨てがたい。
しかし、日本人なら真っ先に思い浮かべるのは、何と言っても──
「整体師は普段、外食します?」痛たたた…
「ええ、結構行きますよ。」ぐぅ~と押し押し…
今日は週に1回の、仕事で凝り固まった身体を解してもらう日だ。
立ちっぱなしで疲労が溜まった臀部の筋肉を揉んでもらいながら、施術中の先生に質問を投げる。
山羊野は、食べ歩きを趣味にしている。
仕事場や自宅周辺の目ぼしい飲食店は大方制覇したので、最近通い始めた整骨院近くの店を探索しようと思っていた。
「何かお勧めとか有ります? 参考にしたくて。」
「そうですね、ここから少し行った所に有る…──『○○□□』はよく行きます。」
「○○□□…?」
「変わった名前でしょう? 味噌ラーメンの専門店なんですよ。」
「味噌ラーメン…、専門? 変わってますねぇ…?
あ。もしかして、店の外に大きな木の樽のモニュメントが有る所です…?」
「そうそう! そこです。あれ味噌樽なんですってねー。」
あそこ、○○□□なんて個人経営の卸問屋みたいな名前をしてたんだな…。つーか潰れてなかったのか…。
それは、数年前に潰れたコンビニ跡地にいつの間にか出来ていた店だ。
ラーメンと言えば、醤油・豚骨・塩。
味噌も当然有名だが、この王道3種には劣るだろう。私の中では、袋麺の味変に時たま手に取る程度の脇役モブ。それが「味噌ラーメン」である。
それをメインに据えるなど、なかなかのギャンブラーだ。奇をてらった変わり種飲食店過ぎるから、すぐに潰れると思っていたのだが。
「美味しいんですか?」
「僕はかなり好きですね。昼前とか結構並んだりしますし。」
「へー。あの位置で数年、潰れずに居るってことは人気有るってことですもんね。」
「ですです。」
全く以て味噌ラーメンの気分などではないが、せっかくの機会だ。
行ってみるか…。
最低限、日本のラーメンなんだから食えないほど不味いなんてこともないだろう──。
──────────
「ここが、○○□□か…。」
巨大な醸造樽のモニュメントに、竹藪。なかなか雰囲気が有る所だ。流石に田んぼは無いが。
昼前の早い時間だからか待ち客は居らず、すぐに案内された。個室じみた、仕切り板で区切られた1人席に座る。
「メニューはタッチパネルからご注文ください。」
「はい。」
ふむ。
コロナ禍で一気に広まった非対面式オーダーシステム。電子系に慣れないご高齢者には辛いだろうが、煩わしいやり取りが減るのは大歓迎だ。
ポピン… ポピン…
パネルに触れ、メニュー写真の表示を確認していく。
表の看板に有った内容と基本──
「お冷や、お持ちしました。」
「どうも。」
下がる店員から目線を離し、ふと横を見るとレーンが見えた。回転寿司屋でよく見る感じのもの。
ここから商品が提供されるのか?
良し、とりあえずはやはり王道ド真ん中である人気メニューとやらを選んでおくか。
ポチッとな。
(…、遅いな…。)
注文が完了してから10分は経過した。
念のため、パネルから履歴を確認してみたが注文は通っている表示になっている。
昼時だから、立て込んでいるのか?
他のラーメン店よりは確実に提供時間が長い。
「お待たせしました。『北○道味噌ラーメン・炙りチャーシュー3枚』です。」
スマホでニュースを調べていると、ようやく待望の物がやってきた。
レーンではなく店員が直接持っている。何故だろう?
「注文は以上でお揃いですか?」
「はい。」
「ごゆっくりどうぞ。」
(ほ~ん…、良いじゃないの。)
肉厚で脂テラテラなチャーシューが3枚、ラーメン鉢からスープが溢れるのを防ぐかの様に配置されており、麺の上にはこんもりとしたもやし。その周りに散らされた茶色のチップはフライドガーリックか。肉そぼろも居る。
その脇に、半月型のフライドポテトが2つ付いている辺りがなかなか面白い。確かに北海道感が有る。とりあえずスマホで写真をパシャリ、と。
「いただきます…。」
まずは、スープ。
レンゲを手に取り、薄茶色く白濁した濃いスープを一掬い…、
ズゥ~…
「──美味っ。」
思わず声が漏れた。
(流石に袋麺とは別物か。)
なかなかの油っこさも感じるものの、味噌の風味で驚くほどあっさりと飲める。
強い風味に濃厚なコク。これは普通に美味い料理だ。
(さて、お次は麺といこう。)
レンゲを置き、箸で具材とよく混ぜながら摘み上げる。
スープに絡む、縮れた中華麺だ。口へと運び一気に啜る。
ズーッ…ズズーッ! もぐもぐ…
(おお、美味い。)
濃厚味噌スープにもやしのしゃきしゃき、そして中華麺。
もちもち小麦味が舌を楽しませてくれる。
(こりゃ確かに負けてねぇわ。)もぐもぐ… ずずーっ…
醤油ラーメン・豚骨ラーメンに競り合えるポテンシャルを感じた。
(たまの贅沢にはちょうど良いかもしれない。)
手の込んだ品だけあって少々値段は張る。そう頻繁には来れないだろう。
そんなことを考えながら、ここらでチャーシューもと箸をつけ──
ガブリっ…
(──!?!?)
身体を電流が走り抜けた。
美味い。美味過ぎる。美味過ぎる!!
ムチッ、ムグッ! ガツッモグモグッ…!
かぶりついた部分だけでは足りぬとばかりに、そのままの勢いでデカい1切れを口いっぱいに頬張る。
肉厚なこれは、「味噌漬け炙りチャーシュー」。
味噌ダレにしっかり漬け込んだ特製チャーシューを、金網の上で焦げ目が付くまで炙ったもの。パネルに流れる調理画像と解説が教えてくれた。
溢れ出る激美味肉汁がたまらなくジューシー。タレの旨味が染みた肉の弾力も最高。炙られ焦げた味噌の風味が得も言われぬアクセントとなり喉を駆け抜ける。
「美っ味ぁ…。」
この炙りチャーシューが主役、麺とスープは名脇役。おかしな話だがそれくらいに私の好みにドンピシャであった。
(この為だけに再来店確定だな…。)
──────────
お冷やを飲んで人心地つく。それにしても美味かった。
食べ終わって冷静になると小さな欠点が見えてくる。
(服が汚れたな…。)おしぼりでトントン拭き拭き…
味噌の粒子(?)が混ざったスープが服に跳ねると、なかなか落ちない白っぽいシミになる。休日だから帰って洗濯すれば良いが、仕事途中ではそうもいかないだろう。
(待てよ?)
ポピン… ポピン…
あ、タッチパネルの「無料サービス」の所に「紙エプロン」がやはり存在した。これを事前に頼んでおけば服は守れただろう。
ポピン… ポピン…
(まあ、次回からは──何だとっ!?)
タッチパネルを何気なく操作して「デザート」の項目を開いたら、驚愕の品が目に飛び込んできた。
(「味噌アイス」…だと……!?)
これは頼まねばなるまい、遊○ぃーーーっ!!
デザートに食べた味噌アイスは、味噌の塩っ気とコクがバニラアイスの甘さを引き立たせる、不思議味わいの甘味だった。悪くない。なかなかどうして普通に美味い。
大満足の昼食だった。
(次は、下味に味噌を加えてあるらしい「唐揚げ」も食べてみたいところだ…。チャーシューであの美味さならカラアゲも相当──
なっ!? 「味噌コーラ」だと!? 持ち帰り専用…!? コーラ!? コーラに味噌…!? どうする!? 買って帰るべきか…!?)
ここにまた来る日も近い。そんな予感がした昼下がりであった。
結果、月2~3回で通ってます。
皆さんもしっかり食べて、夏を乗りきろう~!