舞い降りる桜②
いちごside
「え……?その声はまさか……こーくん?」
その言葉に、彼は太陽のように眩しい笑顔を浮かべて言いました。
「うん!そう、俺!住岡航太!」
「ええええ!」
こーくんこと住岡航太くんは、幼稚園からの幼なじみです。
明るくて優しい人気者のこーくんは、口下手な私とも仲良くしてくれて、私の同年代で唯一のお友達。
中学校はひとつ隣の学校になってしまい、しばらく会えていませんでしたが……
すごく、かっこよくなられています!
声変わりもされて一瞬誰か分かりませんでしたが、あの温かい眼差しと声で、すぐにこーくんだと分かりました。
身長も、私より30センチほど高いでしょうか?
私が150センチだから、こーくんは……
「180センチ!?」
「ん?ああ、身長のこと?182あるよ」
ハッ、声に出てしまっていました……
「すみませんっ」
「え?なんで謝るの?」
「あ……えっと……」
「まっとりあえず、その敬語久しぶりだ!」
「あ……確かにそうですね」
この話し方は確か、私が幼稚園生の時に身についたものです。
当時、祖父母がご近所さんと話す時に敬語を使われていて、それを真似して……
『おおきなだいこん、ありがとうございますっ』
と言ってみたら、皆さんがすごい!と言って褒めて下さったので……
まだ幼かった私はそれがとても嬉しくて、気づけばずっと、敬語で話すようになっていたのです。
所々話し方がおかしいのは分かっていますが、癖というものは一度ついたら直すのが難しく……
今となってはもう、諦めてしまいました。
私としてはこれが普通なのですが、やはり、世間的には変に見られたりするのでしょうか……?
余計にお友達作りは難航しそうです。
私が黙っていると、こーくんは私の顔を覗き込んできました。
「困った顔して、どうしたの?高校生活不安かもだけど、俺もいるし!大丈夫だよ!」
「っこーくん……」
相変わらずの優しさに涙が出そうになっていると、ここから5メートルほど先の校門から、こーくんの名前を呼ぶ声が聞こえました。
「おーい、航太〜」
「おっ、大河!」
大河……さん?
どなたでしょう……って、こちらに向かって来られています!
私、知らない方は……っ
逃げ場がない私があたふたしていると、こーくんが私の前にサッと、立って下さいました。
!こーくん……っ
こーくんはそれが普通のように、お友達の方と会話を続けます。
「お互い入学おめでとう」
「ああ、おめでとう。それで……その子は?」
こーくんが私の前に立って下さっても、私が見えないわけではなく。
お友達の方は、こーくんの後ろから顔を覗かせる私を、じーっと見つめてきました。
「ああ、この子は……」
「か、片倉、いちごと、申します……っ」
「!」
きっと私が黙っていれば、こーくんが私のことを説明して下さったと思います。
しかし、それではいけません。
自分の力でお友達を作るためには、甘えてなんていられないですから!
……やっぱり少し、いいえだいぶ、勇気がいりますが……っ
自分の口で答えた私に、こーくんも驚かれているようで。
こーくん、ありがとうございます。
でも私、一人で頑張ってみます!
お友達の方は、パチリと瞬きをしてから仰りました。
「へぇ、いちごってゆーんだ。名前かわいいね」
「!あ、ありがとう、ございます……っ」
「ははっ、声ちっさ」
うっ……
痛いところをつかれてしまいました……
これも改善しなければ……と思っていると、お友達の方も自己紹介をして下さいました。
「俺は千堂大河。航太とは中学校で部活が一緒だったんだ」
「部活、ですか……?」
何の部活でしょう?とこーくんに目で訴えると。
「ああ、バスケ部だよ」
「バスケットボールですか!?あの、ボールを自由自在に扱って、ゴールへ入れるスポーツですよねっ。こーくんすごいですっ!」
「そんな大袈裟な、普通だよ」
「いいえ、私は極度の運動音痴なもので、スポーツが出来る方がとても輝いて見えるのですっ」
確かにこーくんは、小学校の時も足が速いことで運動会の時は頼りにされていました。
そんなこーくんがバスケットボールをする姿、機会があればいつか拝見させていただきたいですっ。
「あの……ええと、スリーポイントシュート?などもなさるのですか!?」
「うん」
「わっ、すごいです!尊敬です!」
「そんなに言われると照れるなぁ」
高校では体育の授業を今まで以上に頑張って、私もこーくんみたいにバスケットボールが出来るようになるでしょうか?
……って、ハッ!
大河さんもいらっしゃることを忘れてしまっていました!
ずっと2人だけでお話していたので、仲間はずれにされたと思われたでしょうか?
私が恐る恐る大河さんの顔色を窺うと、大河さんは驚かれたような顔で私を見ていました。
どうされたのでしょう……?
「仲良いやつの前では、そんなに可愛く笑うんだな」
「え……え!?かかかかわい……!?」
そんなこと、おばあちゃんやおじいちゃん、ご近所さん以外で初めて言われました!
嬉しいけれど、恥ずかしくてそれどころではありません……っ
顔を赤くして動揺する私を見て、こーくんは真面目なお顔で千堂くんに注意?をされました。
「大河、そんなにいちごのことからかわないで」
「わーかってるよ。そんなことよりさ」
「ちょっ、そんなことよりって……」
「時間、結構ヤバくない?」
「あっ、そうです!このままだと遅れてしまいますね!お二人共行きましょう!」
あまり良くない雰囲気になりかけてしまっていましたが、時間が無いことで助かりました。
遅れてしまいそうになって良かったかも……なんて、いけませんね。
「あっ、うん」
「……」
「……ん、なに?そんなにじーっと見てきて」
「航太お前、意外と分かりやすいな。今まで分かりにくいと思ってたけど、そういうことか」
「なっ、こういうの隠したくても隠せないんだよ〜、仕方ないだろ〜?」
急ぎ足で向かう私の後ろで、お二人がそんな会話をされていたことに、私は気が付きませんでした。
入学式は何事もなく、無事に終えることが出来ました。
保護者席にいらしていたおばあちゃんとおじいちゃんには、少しながらいい姿を見せれたのではと思います。
しかし、私は今、とある問題に直面しています。
私たち新入生は今、入学式が行われた体育館から各教室へ戻り、自由時間となっています。
もう家に帰るなり教室でお友達と話すなり校舎を回るなり、大抵のことが許されているのですが、教室に残られている方が多いようです。
そして私は3組になったので、1年3組の教室に戻ってきたのですが……
お話出来る方がいません!
こーくんや千堂くんは2組で別のクラスになってしまいましたし……
クラスの方々も先程入学したのは私と同じはずなのに、もう既に仲良しグループが出来ており、その方たちと会話を楽しまれています。
それなのに私は何をしているのでしょう……?
体を小さくして机をじーっと見つめて……中学校の時と何も変わりありません。
高校では、あの頃のようにはなりたくないと思っているのに……っ
やっぱり勇気が出なくて、もうお友達は諦めて帰ろうかとバッグを持ち席を立ち上がった時。
教室の出入口から、聞き覚えのある声が私を呼んだのです。
「いちご〜!今から一緒に学校回らない?」
「こーくん!?」