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舞い降りる桜①




いちごside




膝まである紺色のスカート。

真っ赤なリボンに真っ白な生地のセーラー服。

そして最後は紺色の靴下。

私はその全てを身にまとって、スタンドミラーの前に立ってみました。




私にはもったいないほど、かわいい制服ですっ。




そしてふと窓の外に目線を移すと、お庭の木に小鳥さんが止まってチュンチュンと鳴いていたので、私はつい話しかけてしまいました。




「小鳥さん、ついに今日からですねっ」




今日から、私の高校生活が始まります。







私は髪を整え顔を洗い、リビングへと向かいました。




「おじいちゃん、おばあちゃん、おはようございますっ」

「いちごちゃん、おはよう。あらまぁ!制服似合ってるわよ〜」

「今日からいちごちゃんも高校生か、大きくなったねぇ」

「そう、でしょうか?」

「そうよお」




自分ではまだまだ子供だと思いますが……




自分と自分の身近な人とでは感じ方が違うのでしょうか、と不思議に思いながらも、食卓にお箸を並べていきます。




私・片倉いちごは、今日から高校1年生になるどこにでもいるような平凡な15歳です。

そんな私は1週間ほど前から、山に囲まれた田舎の方から住宅街のこちらへ引っ越して参りました。

理由は、一か月ほど前、季節外れの大雨でお家の後ろの山が崩れ、お家の中に土砂が流れ込んで来てしまったからです。

それだけでなく、お家の一部が崩れてしまい……

私はご近所さんや以前住んでいた場所が好きだったので、引っ越しはせずなんとかお家を元通りにしたかったのですが、一緒に住んでいる母方の祖父母が……




『いちごちゃん、この家ももう古いからね。元通りに出来たとしても、崩れてしまわないか心配だよ。だから、隣町にでも行って空き家を買おう』

『そうね。それに隣町だったら、いちごちゃんが入学する予定の高校も近いでしょう?ここからの通学は不安だったから、丁度良かったのよ』

『っ……』

『いちごちゃんがこの家やご近所さんと離れたくないのは分かる。でも、おじいちゃん達はいちごちゃんのことが心配だなんだ。それに隣町だから、滅多に会えない距離でもないだろう?また、畑のお手伝いに行こう』




……と、優しい眼差しで仰ったもので、私は頷くことしか出来ませんでした。

しかしこの隣町に越してきたことを、後悔しているわけではありません。

なぜなら、以前住んでいた町に負けないほど良い場所だからです。

引っ越してきたその日のうちに、ご近所さんにご挨拶をして回ったのですが、口下手でうまく話せない私にも嫌な顔一つしない、とても温かい方たちが出迎えて下さりました。

まだ寂しくないと言えば嘘になってしまいますが、これからはご近所さんも増え、以前より賑やかになるのではないでしょうか。




そんな期待を胸に、いただきますと手を合わせ、お味噌汁を一口……

そこで私は、忘れてしまっていたある事を思い出しました。




「あ〜っ!」

「あらっ、いちごちゃん、どうかしたの?」

「私、新入生は登校時間が早いのを忘れてしまっていました!」




今から家を出ればまだ間に合いますが、朝食を食べている時間はなさそうです。




「おばあちゃん、せっかく作っていただいたのにごめんなさいっ。帰ってきてからいただきますので、えっと、歯磨きをして参ります!」

「え、ええ」




そして、私は急ぎながらもきちんと歯を磨き、玄関へ向かう途中、リビングに一瞬だけ顔を出して「行ってきます!」とご挨拶をしました。




「ええ行ってらっしゃい」

「気をつけるんだよ〜っ」

「は〜い!」




私は予め玄関に置いておいたスクールバッグを手に取り、玄関を飛び出しました。




朝食を抜いてしまうなんていつぶりでしょう?

入学式の最中にお腹が鳴ってしまわないか心配です……っ




入学式の日から時間を忘れてしまっているなんて、と自分を叱らずにはいられません。




それにしても……この家々が建ち並ぶ光景には、まだあまり慣れません。




あ……




その時、モダンな雰囲気が漂うそのお家に目が行きました。

カーテンが開けられており、その先に見えるリビングには、小学校低学年ほどに見える男の子とそのご両親らしき方々が、笑みを浮かべて食卓を囲んでいる姿がありました。




それに私は、羨ましいとまではいかない感情を覚えます。




私のお母さんとお父さんは、私がまだ2歳の時に事故で亡くなられたそうです。

まだ私は幼い子供でしたから、どんな顔をされた方だったのかも、覚えていません。

だからあまり寂しいとは思いませんが、それはそれで少し悲しいような気もします。




私が両親について理解したのは、私が小学校3年生の時でした。

両親に変わって私を育ててくれている母方の祖父母が、参観日があった日の夜、教えて下さいました。




『いちごちゃん。いちごちゃんのお母さんとお父さんは、お空の上に行ってしまったんだ。次また会えるのは、ずっと先になってしまうだろう。いちごちゃんは、お母さんとお父さんに会いたいと思うかい?』




おじいちゃんのその言葉に、私は静かに言いました。




いいえ、と。




それは嘘ではありませんでしたが、悲しい顔をするおばあちゃんとおじいちゃんに笑って欲しくて、言った言葉でもありました。

しかしお二人は、私の言葉を聞いてもっと悲しそうな顔をされて。

そして遂には、私を抱きしめながら、ごめんね、ごめんねと、何度も謝罪の言葉を口にされてしまい……

当時の私は、どうしてお二人がそんなことを仰っているのか分かりませんでしたが、お二人が謝るべきことでは無いのはなんとなく分かったので、その時出来る精一杯の笑顔を浮かべて言いました。




『おじいちゃん、おばあちゃん、私は大丈夫ですっ』




すると、少しの間を空けておばあちゃんが、




『……そう。いちごちゃん。いちごちゃんの大好きなプリンが冷蔵庫にあるから、食べちゃいましょうかっ。もう夜だけど、今日は特別よ?』




と、冷蔵庫からプリンを手に取り私に差し出して下さり……

私はあっという間にプリンを平らげてしまいました。

そんな私の様子に、お二人は優しい眼差しをされて。

いつものおばあちゃんとおじいちゃんだと、私は一安心しました。




……と、あの日のことをここまで鮮明に覚えているのは、自覚は無いものの、実は両親の死に驚いていたからではないかと、時折思ったりします。

でも、優しいおばあちゃんとおじいちゃんがいる私は、両親がいなくても、溢れるほどの愛をもらっている幸せ者だと、胸を張って言えます。




だから、羨ましくなんて、ありません。




お家から学校までは、徒歩10分ほどです。

あと5分もしない所までやってくると、私と同じ制服を着た女の子がチラホラ見えました。




あの方たちも、私と同じ高校に……

つまりは同じクラスになる可能性があるということで……

しかし、中学校ではお友達が一人も出来なかった私に、友達作りなんて出来るのでしょうか?




そう思うと、急に緊張が増してしまいました。




私は知らない方と話すことが苦手で、そうなった時は声がとてつもなく小さくなってしまうのです。

それに人見知りで、周りの目も気にしがちで……

ああ本当に、私にお友達なんて出来るのでしょうか?

なるべく中学校の時のような学校生活は送りたくないのですが……




そうして自分で不安を大きくさせてしまったところで、私は今日から通うことになる「春咲高校」に到着しました。




学校を囲うように並んでいる桜の木は、大きな桃色の花を咲かせており、私の手元にもはらりと一枚の花びらが舞い降りてきました。




綺麗な桜……

これから3年間、毎年春になるとこの景色を見られるだなんて、楽しみですっ。




なんて風に乗る桜と同じく舞い上がってしまった私は、無数に降ってくる花びらをキャッチしようと、桜の木の下でジャンプをしました。

それはそれは楽しくて、周りから向けられる冷たい視線に気が付きもしないほど、夢中になってしまいました。

そんな時の事です。

どこか懐かしさを感じる声が、私の名前を呼んだのは。




「……あれ、もしかしていちご?」

「え……?その声はまさか……こーくん?」



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