アルバイト村人A、B
ベアちゃんは、村人AとBを立たせるとイブレア村へ連れて行った。
後で聞いたんだけど、名前も何も聞かないまま黙って連行することでプレッシャーをかけていたらしい。
なるほどね。
イブレア村ではオルランドとベアちゃんで二人を尋問。
巧みな誘導尋問で聞き出していた。
二人の名前は、ブルーノとカミッノ。
オルビア出身の冒険者で、外国人風の男に雇われたのが二月前。
「なんだかよ、数か月になる仕事だっちゅうんで、やたら家族だとか身寄りだとかについて聞かれたんだけどよ。俺たち二人とも孤児だったからな。だもんで雇われたっちゅうわけだ」
ベアちゃんに切られたブルーノが言うには、カリアリ商店での直接依頼で募集があったらしい。
それも、長期の仕事だから家族のいない独身者優先、とかそんなことが書いてあったらしい。
切られていない方のカミッノはビクビクしていて、質問にはすぐに返事をしていた。嘘をついているようには見えなかった。
「冒険者ギルド長だとは露知らず・・・いや私は最初から危害を加えようなんて思ってもいなかったんです。ブルーノのやつが先走ってしまったばっかりに・・・」
オルランドが、あとで説明してやるから休んでろ、というので私はお茶でも沸かしに、と教会へ戻った。
ちなみに取り調べは教会前の広場で、二人を半裸にして木に縛り付けてやってた。
ちょっとかわいそうだな、と思ったよ。
お茶を沸かし、アイスミストの魔法でキンキンに冷やした後、オルランドのところへ戻った。
「良かったらお茶にしませんか?」
今日は汗ばむ陽気だった。
縛り付けられた二人にもコップを持って近づく。ベアちゃんは呆れた顔で見ていたけれど、まあいいでしょ。
「手が使えないでしょうから、ゆっくり飲んでくださいね」
そう言いながら、口にコップをつける。
カミッノが涙を流しながら私を見ていた。
「天使様だ。あんたは教会の天使様そっくりだ」
私はそっと目を逸らしブルーノにも冷えたお茶を飲ませた。
ブルーノは何も言わなかったけれど、少し涙ぐんでいた。
なんか本当にかわいそうなんだけど。
けれど、まあ、ベアちゃんもオルランドも大人だし、まさか殺したりしないだろうし・・・
大丈夫だよね?
日が暮れてきたころ、アデルモ達も帰ってきた。
全員が揃ったところで夕食。
ブルーノとカミッノは教会の地下にあった牢へ。
私も知らなかったんだけど、アデルモが地下への入り口を見つけたらしい。
地下牢があることはベアちゃんも報告書で知ってたんだって。
「教会の体はしているが、ここはまるで要塞の作りだな」
とはベアちゃんの感想。
地下牢なんて何のために作ったんだろう?と思ったけれど、お父さんが実は元騎士団長で、私が王女だったとしたら、まあ、そういうことも想定していたのかも、とは思う。
暗殺者を尋問する間に入れておく場所?みたいな。
ブルーノ達には、パンとスープを差し入れてきた。ベアちゃんは、あえて私にそれをさせた。
飴と鞭なんだって。
夕食の席では、ジャンニさんから報告があった。
「洞窟内の魔導具、大型のもの、ですが、破損状況が激しく元通りに組み上げるのは至難の業かと存じます。既存の魔導具であれば設計図もあるかと存じますが、未知のものでもありますし・・・再現は無理かと。しかし王都の研究機関であれば解析も可能かと存じますので、これらは一度分解の上、王都のしかるべき場所へ移送するべきかと存じます。つきましては、その手配、このジャンニにお任せいただいてもよろしいでしょうか?」
ふーん、ジャンニさん優秀な人だねえ。
最近、考えなくちゃいけないことが増えたせいで、私は前世の知識や記憶を出来るだけ思いだすようにしていた。
仕事っていうのは、出来ないことを請け負ってはいけない。もちろん、それがチャレンジすべき類のものなら別だけど、自分の専門外のことを請け負って無駄に時間を浪費してしまうのは誰のためにもならないからだ。
その上で次善の策を提案し、引継ぎを責任もって行う。
と、なんかの仕事の課長が良く言っていた。
ジャンニさんは、ギルド長ベアちゃんの負担を増やさないように、自分が出来ることを提案し、余計な時間を使わせない気配りが出来る人だ。
「ふむ。わかった、ジャンニ。続いて昼間に拘束した二人の件だが・・・」
ベアちゃんがオルランドと顔を見合わせながら続けた。
「どうやらラインラント共和国の企業に雇われているみたいだな。周辺警備の仕事でイブレア村を含めた幹線道路沿いの拠点を見回るのが仕事だということだ」
ジャンニさんが手を挙げた。
「イブレア村を含むということは、あの大型魔導具も、そのラインラントの企業が設置したものということですか?」
オルランドがため息まじりに答えた。
「まだそこまではわからない。彼ら二人の仕事は盗賊や部外者の排除らしくてな。なんというか末端の日雇いで状況を把握していないんだ。なにせラインラントの企業だとかいう会社の名前すら覚えていない始末でな」
つまり、僕らはバイトなので会社が何処で何をやっているのかなんて知りません。言われたことだけやってるんです、という感じなので、イブレア村に何が設置されているのかとか、何処に装置があるのかとかは知らない、みたいな?
私は昼間の出来事を思い出し、ベアちゃんに尋ねた。
「けど、私、普通に切りかかられてましたよね?」
「ああ、本物の冒険者ギルド長が農家の娘とのんびり歩いているなんて信じられなかったから、とりあえず娘の方を人質にして拘束しようとしたんだとさ」
オルランドが頷く。
「やつらは末端の日雇いだからな。警備の仕事っていう大義名分を、権力と勘違いしたんだな。大方、あわよくば近くの茂みにでも押し倒そうとしたんだろうよ」
なにそれ、やばいな。ダメ警備員じゃん。昼間優しくして損した気分になる。
ベアちゃんが疲れた顔で言った。
「ともかく、その企業の責任者と会わないと話にならなそうなんで、明日、ジャンニと私で会ってくるよ。あの二人も返却しといた方がいいだろうし」




