見回り
(サーラ視点に戻ります)
翌日、朝からベアちゃんと見回りに。
ノルベルトさんは一晩中起きていて、いくつかの回収した魔道具のパーツを解析しながら、外の様子を監視していた。外で何かが起きれば、すぐに全員を起こすことになっていた。
けれど、その夜は何も起きなかった。
泥ゾンビも出ないし、人の気配も無かったそうだ。
けれど、間違いなくあの魔道具を設置した奴らがいるはずだ。
私の服は、エリーヌさんの農作業服だ。
袖や裾を糸で調整した。まだダブダブだけど、幾分ましになった。
あと、下はスカートだ。長めのスカートをベアちゃんが探してくれた。けど、少し尻尾が見えることがある。
「サーラ、尻尾かわいい」
ベアちゃんがうれしそうに指さしてきた。
「私には尻尾にいい思い出がないよ。この国、獣人差別だもん」
「まあね。私もクルタス国内で見たことは殆ど無かったよ。海外研修の時に泊まった宿屋の受付は犬耳だったけど」
「え?そうなの?何処の国?」
「ラインラント。ノルベルトの出身国だな」
「ライン、ラント?・・・どっかで聞いたような国だね」
空は曇り。
残暑も和らぎ、過ごしやすい気温。
私は農作業用の麦わら帽子を被っていた。
腰にソード、肩からマジックバッグ。
この二つはベアちゃんが昨日回収してくれたものだ。
特にマジックバッグはお母さんの形見だから回収できてよかった。
服も見つかったけど、引き裂かれたようにボロボロで使えそうになかった。
「サーラ、気づいてなかったのか?この世界の地図は、かなり地球に近い」
「え?そうなの?日本もある?」
「たぶんな。極東のあたりは地図が適当な感じになっているんだが、日本らしい島もあった。いつかサーラと行ってみたいな」
「うん。行こう!ベアちゃん」
「飛行機があるわけじゃないから、気軽にってわけにはいかないぞ?」
「あ、そうか」
「クルタス王国は地中海に浮かぶ島だ。地球ではサルデーニャ島に当たるよ。大きさは大体日本の四国と同じ。東西100km、南北250kmくらいの島だ。リグリア王国やラインラントを知ってしまうと、クルタスが後進国だってことがわかる。私は日本で世界史をしっかり勉強しなかったからさ、あんまりヨーロッパの歴史はわからないんだけど、たぶんその辺は全然違ってそう。イタリアとかフランスとかドイツとかって名前は聞かない」
「たぶん、王国とか公国とかだからかも。イタリアってイタル人の国っていう意味だったはずだし、ドイツは本当はドイッチュラントで民衆の国とかって意味だったはず」
「へえ、そうだったんだ。クルタスは王の名前だし、ラインラントは川の名前からだもんね。あ、でもライン川って地球でも同じ名前だったかも」
「そっか、ベアちゃんはドイツに行ったことがあるってことか」
「ラインラントだけどね。民主国家なんだよ。この世界では珍しいんだ」
「そうなんだ。まだ知らないこといっぱいあるなあ」
まるで中学生の会話みたいなことをしながら村の入り口までやってきた。
「さてと、サーラが知る限り、イブレア村へはここ以外に出入口はないわけだ」
「うん。他に道路はない」
「抜け道みたいな細いのも?」
「無いよ。いつかお父さんが言っていた。余計な小道は盗賊を招くから不要だって」
「なるほど。じゃあ信用出来るな」
そういうとベアちゃんは轍にしゃがみこんだ。
「私たちが来た日、雨で道はぬかるんでいた。その時についた痕がこれだ。確かに、よく見ればその前にも馬車が頻繁に通過している。足跡もいくつか確認できる」
「何処に行ったんだろう、その馬車」
「むしろ、これだけの交通量があるのに、イブレア村の中に人の気配がなかったこと、つまり誰も住んでいた感じがしないことの方が違和感があるな」
「それは夜になるとゾンビが徘徊するからでは?」
「でもあれは、そもそも魔道具で動かされていた泥ゾンビだ。仕掛けたやつらが恐れる理由は無い。というか、無人なのに魔道具が起動されていた?それも違和感の一つだな」
ぶつぶつ言いながらベアちゃんは道の痕跡を辿って歩いていく。
「なんか名探偵みたい」
「ん?見た目は美少女、中身は転生者の名探偵ベアトリーチェだけど?」
「ふふふ」




