オルランド
「お、眺めがいいな、ここは」
家の庭だった場所からオルランドが村を見下ろしていた。
教会の屋根が見えた。
「うん。ここからは教会も見えるし、村の入り口の方も見えるんだ。それから家の2階からは広丘の森も見えたんだよ」
お母さんとお父さんの顔が目に浮かぶ。
それと、小さくして亡くなった妹の顔。
森は魔物が棲む場所だったけれど、イブレアは平和な村だった。
ほんの半年前までは。
「サーラの故郷はいいところだな」
オルランドの言葉に、私は何故だか救われた気がした。
多くは語らないけれど、オルランドと一緒にいると安心する。
オルランドが歩き出し、私は後を追う。
坂を戻り、別の小道へ進む。
街道に向かって降りていく途中にそれはあった。
「これは?」
オルランドが私の肩へ手を置いた。
「村人の塚だ。事件の時の犠牲者達の、な」
目の奥が熱くなる。
私は何人かの知り合いの顔を思い浮かべ、冥福を祈った。
「ここにコラード卿は埋葬されていないそうだが、奥さんは一緒に葬られたそうだ」
「お母さん・・・」
私は手を合わせた。
オルランドは静かに待っていてくれた。
塚は一抱えほどの石だった。盛り土の上に置かれているが、そこには何も書かれていない。村人たちの名前も、村の名前さえも。
言われなければ見過ごしてしまうほどの。
静かに祈りをささげ、私は立ちあがった。
「もう、いいのか?」
オルランドが聞いたけれど、私は頷く。
いつか、ここへ再び。塚に名前を刻むために。
村の人や、お母さんが生きた証を刻むために。
田舎で過ごした、ありふれた一生だったかもしれない。
けれど、かけがえのない人たちだったのだ。
無名の石だけが、その証だなんて寂しすぎる。
「また、戻ってくる」
オルランドがうなずく。
私は塚を離れた。
それから村を回ってオルランドに時々説明をした。
小川が流れているところで立ち止まり、水辺に降りた。
「水、冷たくて気持ちいいね」
「ああ、そうだな」
オルランドは隣に腰をおろした。
「なあ、サーラ。お前は・・・たぶん王都の貴族出身だ」
「うん、そうかもね」
特に感慨は無かった。私の出自が何であれ、私の思い出の中の母はここに眠っている。
「気に障ることも言うかもしれねえが、許せ。昨夜の件といい、これは俺たち一介の冒険者がなんとか出来る問題じゃねえ。この国のでかい問題がいくつも関係している。お前はな、これから知りたくないことも知らなくちゃならねえし、やりたくないこともたくさん出てくるだろう」
「うん、なんとなくわかる」
「俺は一介の冒険者にすぎんからな。これからうまく話を進められるのはベアやノルベルト達だろう。使える人脈は全部使うんだ。これからのお前の人生、窮屈な王宮のどこかに閉じ込められることだって有り得る。逆に国中のドラゴン退治にこき使われる可能性もある」
「オルランドは?私と一緒にいてくれないの?」
「俺は、お前を仲間だと思っている。いつでも頼ってくれていい」
「本当?」
「ああ。本当だ」
私はオルランドに寄り掛かった。
この人といると安心する。
このまま身を寄せていたい。他のみんなもいい人だけど、オルランドは特別だ。
「サーラ?」
「少しだけ。このままでいたい」
オルランドの腕が私をそっと抱き寄せた。
オルランドにもたれたまま、私は目を閉じた。




