グリフォン
(サーラ視点に戻ります)
「正直に言うけど、腰が抜けたんだ」
ベアちゃんが頭を掻きながらステージのほうを見上げた。
創世の神話。
クルタス王国は神の魔力によって作られた。
創世記では、アメデーオとともに天使フラヴィアが現れる。彼女が従えるのがグリフォン。
グリフォンはフラヴィアの夫、ということになっている。
クルタス王国ではよく知られた創世の神話だよ。
どこの教会の集会場にも同じ絵が飾られているし、子供は集会場で同じ話を何度も聞かされて育つ。
ノルベルトが、咳をした。
「一つ、良いですか?」
遠慮がちにベアちゃんに声をかけた。
「ああ、問題ない」
「皆さんのご報告をお聞きし、現場検証を行いたいと思うのです。おおまかに情報は共有できたと思います。まさかクルタス王国の神話まで話が及ぶとは思っておりませんでしたが・・・」
ベアちゃんがばつの悪そうな顔で言った。
「いや、本当だって。本当にグリフォンだったんだ」
オルランドが慌てて「疑っちゃいねえよ」と両腕を振った。
「ベアトリーチェ様、それでは午後から現場の検証へ出かけるということで人選をお願いしてもよろしゅうございますか?」
ノルベルトの目が光っていた。
この人、本当に研究が好きなんだな。わくわくしているのがバレバレだよ。
私のことは、いったん保留になった。
グリフォンが何処から現れたのか?
どうして私は気を失っていたのか。なんとなく、私には理由がわかっていたけれど、それを口にすることも出来なかった。
記憶が無いのも、また本当のことだった。
いずれ、皆の意見がまとまるだろう。
お昼ご飯を済ませ、ベアちゃんは乾いていた騎士服に着替えていた。
グリーンの髪もしっかりと纏め、昨夜と変わらない騎士らしい凛とした姿へ戻っていた。
「サーラ、お留守番しててね」
「はい」
どっちにしても、私は戦闘できるような服が無いし。剣や装備も回収できていない。
「オルランド、サーラの面倒を見てもらえるか?」
ベアちゃんがオルランドの肩をたたく。
「おう。まかせとけ」
アデルモが、え?僕が残るよ、と言いかけてジャンニとノルベルトに引きづられていった。
うん、今アデルモと二人にはなりたくない。
何も無かったとは思うし、そういう意味での体の異変も感じないけど、普通に嫌だ。
4人が出かけていき、オルランドと二人になった。
「サーラ、少し散歩でもするか?」
今日は天気が良かった。
夏の終わり、まだ暑さが残る一日。
懐かしい故郷の景色。
広丘の森、遠くの山の形。
広がる青空。
かつての日本とは違い、なだらかな地形が続くクルタス王国には、高い山はほとんどない。
広丘の森は鬱蒼とした森だけれど、イブレア村は空が広く、開けた土地だ。
自然のままの坂道のあちこちに家があり、畑があった。
オレンジ色の屋根が多い。
透き通るような青空に、手入れのされなくなった畑。草が伸び、少しだけ記憶の故郷とは様変わりをしていた。
「サーラ、お前ん家はどこだったんだ?」
私はオルランドを見上げる。
「向こうだよ」
街道から続く道からいくつか伸びる私道。
広丘の森へ続く小道とは別の一本に入る。
「坂の上にあったんだ」
小道の両側は、草が伸び放題になっており、道幅を狭くしていた。
砂利敷きの小道にも草は生え始めていた。
坂のカーブを曲がる。
「もう、何も無いね」
家は、レンガと石造りだった。
まるで大きな地震でもあったかのように、家は崩れ、面影を残していなかった。




