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振り返り

(第三者視点です)


 昨夜の午前一時過ぎ。

 外を監視していたジャンニが蠢くゾンビに気づく。

 すぐにベアに報告。

 冒険者ギルドの機密文書で、魔物化する村人の報告を読んでいた二人は、その様子から盗賊の成れの果てが魔物化したものと判断した。

 魔物化条件の一つに、魔力をもたないことがあることから、小規模の盗賊集団が魔物化したものと結論付けた。

 そもそもだが、クルタス王国は島国で、他国との戦争は起きていなかった。元傭兵というのが少ない。そして弱体化してきているとはいえ王政は地方にまで及んでおり、治安は比較的良かった。そのうえ近年の魔物、ドラゴンの大量発生が冒険者ギルドと騎士団に大量の雇用を生み出していた。

 元傭兵や外国人労働者達にとって、非合法の盗賊になるよりも地方騎士団や、冒険者ギルドへの登録で稼ぐほうが合理的だったこともある。

 そのためクルタス王国の盗賊は、数人から十数人のグループ。この10年ほどで最大の盗賊団でさえ60人程度だったのだ。


 午前2時過ぎ、サーラが起きてきて、代わりにジャンニが休息をとる。

 ジャンニも、ベアが単独出撃するとは思っていなかったし、もしも何かあっても、せいぜい十数人のゾンビなど敵ではないと考えていた。


 午前4時前、起きだしてきたアデルモに戸締りを頼んで、ベアとサーラがゾンビの追跡を始める。山へ向かうゾンビたちに囲まれ、想定よりも人数が多いことに気づくが、それでもせいぜい数十人程度と思っていたベアは、サーラの稚拙な作戦に付き合ってしまう。

 サーラの敵殲滅力を見てみたい、という気持ちもあった。

 ギルド報告書の中のサーラは、騎士団のエリートよりも魔力が大きく、ドラゴン級の敵を雑魚扱いしているように思われた。

 その戦力を実際に目にすることは、今後の作戦行動において重要な意味があった。


 一方アデルモは、いったん戸締りをしたものの、すぐにオルランドを起こし、状況を説明してから、後を頼むと教会を抜け出した。


 オルランドはジャンニとともに教会の防護の確認を行い、ノルベルトを残して村の中を探索、警戒した。そこでゾンビと遭遇、なんなく倒したが、ジャンニの見分で、それが死体ではないことに気づいた。

 ゾンビは、泥のようなもので出来ていた。

 いやな予感がした二人は先行している3人の行方を探しながら村中を探したが、どこにもおらず、すさまじい地響きの音を聞き、森へと向かった。

 森へ向かう途中、何体かのゾンビと交戦、夜明け頃にようやく洞窟前の広場へたどり着くが、そこには焼け焦げたインフェルノの痕跡、強力な魔力の痕跡が残るだけで誰の姿も無かった。


 一方、アデルモは、ベアとサーラの戦闘音を聞いていた。

 迷わず森へと向かったアデルモは、何体ものゾンビに遭遇する。ゾンビの動きが緩慢であるため、適度に殲滅しつつも追いかけることに集中していた。

 その途中、小川の上流から地響きのような戦闘音らしきものを聞き、駆けつけてみればサーラが倒れていた。


 サーラはハダカだった。

 アデルモは暗闇の中で、その背中から尻尾への見事な毛並みに思わず見惚れたが、周囲に服も装備もなく、異常な状況であることは察した。

 気を失っているサーラを抱えた状況で敵に遭遇した場合のことを考えると、サーラの裸身をじっくり観察している余裕はなかった。

 意識のないサーラを抱きかかえ、アデルモは元来た道を駆け戻った。不思議とゾンビには遭遇しなかった。サーラの体からは光のような魔力の残滓が溢れていた。それが辺りを照らし、魔物が近づいてこないのかもしれない、とアデルモは推論を述べた。


 村の外れの一軒を見つけたアデルモは、そこへサーラを運び入れ、ベッドへ寝かした。

 すぐにサーラが苦しみだしたので、自分の装備を外し、暴れるサーラを落ち着かせようとした。

 サーラに怪我がないことは明白だった。

 サーラはハダカだったし、傷がないことは一目でわかったし、打撲のような痕跡も無かった。何故苦しんでいるのか、暴れているのかわからなかったが、とにかく落ち着かせるには抱きしめることが最善だと思った。

 どうしてまず服を着せようとしなかったのか、については誰も何も言わなかった。

 皆がなんとなく察していた。

 同時にアデルモが、間違いを犯す可能性についても同様に察していたが、サーラの前では問いただしたりしなかった。


 サーラだけが、もやもやとしていた。記憶が無いからだ。運ばれたことも、暴れたことも記憶が無かった。アデルモに抱きしめられていた、と聞いて真っ赤になっていた。


 混乱したサーラの説明は言葉足らずで要領を得なかった。

 ほとんどの説明はベアが行い、サーラは頷く。


 ベアは、森へ向かったいきさつを話し、脱出できなくなった状況を分析した。


 ゾンビ、と呼んでいたものは、実際には魔物化した人間ではなく、泥から出来ていたこと。その泥からは魔石は出てこなかったこと。


 そして、話の核心へ迫ろうとしていた。


オルランドが全員を見回してため息をつく。

「それで、サーラ。お前、記憶がないんだな?ベアに下がれと言われてから、アデルモの隣で目を覚ますまで」

「う、うん・・・」

「アデルモ、サーラは倒れていたんだな。その前に何があったかは見ていない、と」

「その通りです」

「じゃあ、洞窟で何があった?ベア、夜明けまで、そこにいたんだろう?」

ベアちゃんは頷いたけれど、黙ったままだった。

教会の集会場。小さなステージに飾られた何枚かの絵。創造神アメデーオ。その右隣に飾られたフラヴィア。グリフォンとともに佇むフラヴィアにベアちゃんの視線は止まっていた。

「ギルドマスター・・・」

はっと我に返ったようにベアちゃんがジャンニの顔を見る。

「すまない。私は・・・洞窟に隠れていた」

皆、次の言葉を待っていた。

「私が見たものは、その、えっと・・・グリフォンだったのだ」


 灼熱魔法インフェルノを最後の魔力で放ち、ベアは洞窟前の広場から脱出するつもりだった。

 誤算だったのは、自分の魔力の残りが予想より少なく、最大出力で魔法を撃てなかったこと。ゾンビたちは、みるみるうちに再生していったこと。

 状況のまずさにベアは脱出をあきらめて立て籠もる作戦に切り替えた。

 洞窟の中には、いくつかの隠れ場所があるはずだ。

 確信は無かったが、ゾンビたちは昼間は活動しない予感があった。夜明けはもうすぐだ。

 いましばらくの時間稼ぎさえ出来れば、助かる可能性はある。

 残った魔力でファイヤーボールを撃ち、剣でゾンビを薙ぎ払う。ゾンビたちの湧き出てくる方向や、隠れ場所になりそうな窪み、支洞を一瞬のうちに判断する。その一つへ飛び込み、襲ってくるゾンビを剣で押し返した。


 ああ、けれどこれは数が多すぎる。

 最後の覚悟を考え始めていた。


 その時だった。

 洞窟の外で何かが起きた。

 何が起きたのか理解が追いつく前に、それは洞窟の中へ飛び込んできた。


「グリフォンだったんだよ」

 ベアちゃんがため息とともにつぶやいた。


 グリフォンはゾンビを前足で数体まとめて薙ぎ払っていた。

 ゾンビは薙ぎ払われた瞬間に塵となった。それどころか、直接触れてもいないのにゾンビどもは溶け出していた。ベアの目の前のゾンビたちも泥になり砕け散った。


 ベアの目の前で、神話の魔獣が暴れていた。

 身動きなど出来るはずがなかった。ただ隠れて様子をうかがうことしか出来なかった。


 グリフォンが去り、辺りに静寂が訪れた。

 けれどベアは隠れていた場所から出る気にはならなかった。


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