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サーラ

(ジャン視点です)


俺の名前はジャン。冒険者だ。

サンテレナの街に生まれ、商人の家で育った。


冒険者になろうと思った理由?

ああ、俺は四男だから。家を継ぐことは無いからだ。


大物狙いの冒険者パーティー「夜明けの希望」で剣士をやってる。

このあたりで大物っていえばシーサーペントだな。実際、アデルモは船を持ってる。あ、リーダーの名前はアデルモっていう。

ただ、なんていうか、シーサーペントは大物なんだが、価値は高くなくて・・・。


なので、どっちかというと、突発的に出現する大型の魔物を狩りに行くことが多いな。

そういう魔物は、いつ現れるかわからない。けれど、おおよそ月に一度くらいの感じで何処かに出現している。


実家の爺ちゃんなんかに聞いた話では、昔はそんな大型の魔物なんて頻繁に現れなかったらしい。何十年に一回くらい・・・。王都の貴族たちが討伐隊を組んで倒しに行くようなものだったそうだ。

だけど、20年前くらいにサンテレナの村から15キロほど南に行ったプーラの村近くに火龍が現れたのを皮切りに国中で大型の魔物の出現が増加し、貴族の討伐隊だけでは手に負えなくなった。それに伴って冒険者ギルドが整備し直され、腕に覚えのある冒険者が討伐に出掛けるようになった。


で、その大型の魔物ってやつだけど、みんな、あれをドラゴンと呼んでいる。

でも、実際は龍ではない。あれは、素材として回収した魔物を高く売るために冒険者や商人が言ってるだけで、本当の意味でのドラゴンじゃないんだ。

最初にプーラの村に現れた火龍は、炎を噴く「アータルオオトカゲ」の突然変異種だった、というのが冒険者の間で語られる通説だ。

それと、先月倒したアースドラゴンも、実際は巨大なサンドワームだ。

けど、十数人のパーティーを組まないと倒せない巨大クリーチャーだってのは間違っちゃいないし、ドラゴンみたいにでっけえのも確かだぜ。


それで、やっと本題なんだが、

フォクシー村に現れた水龍だが、俺は大蛇の類じゃないかと思っている。

思ってはいても、違うかもしんねえし、大蛇だと決めてかかって違っていたら準備不足で危険だから、あえて水龍と呼んでいる。


その話をサーラにした理由?


サーラは、俺にとっちゃあ、ドラゴンよりも伝説級の話だ。


サーラは2か月前に一人でサンテレナの街にやってきた。

冒険者になると言ってギルドに入ってきた時に、俺は偶然そこにいた。


冒険者ギルドは、年中冒険者を募集しているし、手続きは簡単だ。

サーラはあっという間に冒険者になった。

けど、どっからどう見ても、サーラは強そうには見えなかった。


なんでかって?

いや、だって、あいつ、一応剣は持っていたけど、布の帽子に裾の長いスカートを履いて、しかも全体的に黒っぽい色の服装だった。それで、顔はまさに美少女だったし、髪は金髪、目はブルー。どっかの大店の商人の娘みたいだったんだ。

戦えっこねえよ、と思った俺は、ギルドを出て行こうとしたサーラを呼び止めたんだ。



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「なんですか?」

胡散臭そうな目で見られて俺は、少し、理由も無く後ろめたくなったんだが・・・なんでかな?彼女の目が、まるで俺の下心を射抜いているように思えたからか?いや、下心じゃねえってば。

「おまえ、さっき冒険者ギルドで登録しただろう?しかも何か依頼を受けてた。いきなり素人がソロで何処へ行くんだ、と思ってな」

「お構いなく。ここへ来る途中、ゴブリンの集落を見掛けたので、ゴブリン討伐依頼を受けました。今夜の宿代を稼がなくてはなりませんので」

「い、今からか?ソロで?無茶だ!」

「無茶ではありませんよ。放っておいてください。私は大丈夫ですから」

そう言ってサーラはスタスタと歩いていく。俺は躊躇ったが、その日は何も用事は無かったし、このまま行かせて彼女が死んだら寝覚めが悪い。

-----------------------------------------


ん・・・まあ、それにちょっと、危機に陥ったサーラを、さっそうと現れた俺が救い出すっていう妄想も少しあったかな・・・。


いや、とにかく、俺はサーラに気付かれないよう後を付けたんだ。


結果、サーラは強かった。

さすがにゴブリンの集落に突っ込んでいったりはしなかったが、集落の外で15匹ほどの集団を作っていたゴブリンに、いきなり巨大なファイヤーボールを遠距離で撃ちこみ、そして目標に当たった瞬間に爆発した。

結果は、数匹を瞬殺。逃げ惑うゴブリンには目もくれず、倒したゴブリンの魔石を冷静に回収していた。


俺は、あんな威力のファイヤーボールは初めて見た。


「夜明けの希望」リーダー、アデルモはアイス系魔法を使う。

だが、貫通力や飛距離こそあれど、敵に当たった瞬間に爆発するようなギミックは無い。サーラの魔法は、威力を最大限にする工夫もあったし、そもそも直撃したゴブリンを一瞬で消し去るほどのファイヤーボールなんて聞いたことも無い。

そして・・・。

ゴブリンを焼き尽くして回収した魔石を拾う時、帽子が地面に落ちた。そこには猫のような耳が二つ、ぴょこんと立っていた。


サーラは獣人だったのか!

金髪の中からちょこんと頭を出した二つの耳は、ぴくっと動き、そして次の瞬間、俺のほうをサーラが見た。

 

俺は、あまりの衝撃に、呆然と立ち尽くしていた。


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「見ましたね?」

近づいてきたサーラが帽子を被り直し、暗い顔で言った。

「な、なんのことだ?」

「私の耳を見ましたよね?」

俺は目を逸らし・・・。

「来たばかりなのに、もう出て行かなくてはならないのですね」

沈んだ声でサーラがそう言った。俺は、はっとして顔を上げた。

「いや、俺は誰にも言わない!」

咄嗟にそう言っていた。



サーラは前の街で何か嫌なことがあったんだろうな。


まあ、わからんこともない。


クルタス王国では獣人族は少数派だ。

というか、ほとんど見かけないくらいだ。

それに、年寄りの中には獣人は災いを連れてくると信じている物が少なからずいる。

なんでも、満月の夜に化け物に変身して家を壊し、人を取って喰らうのだとか。


そんな馬鹿な、と俺は思う。


いくらなんでも、化け物に変身するだとか、ねえよ。

いったい何処の昔話だよ。


サーラはまだ少女だったし、目鼻立ちの整った金髪でグリーンの目を持つ、そうだな、まるで貴族の娘のような気品を放つ・・・いや、なんでもない。

とにかく、彼女が気にするっていうんなら俺は誰にも言わんし、差別する気も無い、と告げた。


「本当ですか?」

「ああ、嘘はつかねえ」

「じゃあ、さっきの魔法の事も黙っていて貰えますか?」

「魔法?さっきのでっかいファイヤーボールの事か?」

「ええ・・・やっぱり見られていたのですね・・・」

「たしかにすっげえ魔法だったけど、別に隠さなくてもいいだろう?」

サーラは首を横に振った。

「私が獣人で、魔法を使えると知られてしまうと何をされるか・・・。少しくらいの魔法が使えるくらいはいいのですけど、強力な攻撃魔法を使えることは秘密にしておきたいのです」

「ああ、なるほどな」

不吉だとかって言われる獣人が攻撃魔法を使えるなんてことになったら、年寄り連中の中には街から追い出そうとするものもいるだろうな。

いや、もっとひどいことを考えるやつが出てこないとも限らない。

うん、そうだな。

こんなかわいらしい少女なのに、ちょっと猫耳だからとか、ちょっと人より強い攻撃魔法が使えるくらいで迫害されるのは理不尽だよな。

それに、その秘密を黙っている俺は、サーラと秘密を分け合う友人だよな。

「いいぜ、黙ってる。俺達は友人だ。俺の名前はジャン、暇な時は街の居酒屋、オステリア・ライモンドにいる。困ったことがあれば、いつでも訪ねてきな」


と、かっこよくキメたつもりだったんだが・・・。


俺はあっさり、アデルモには話してしまった。

「夜明けの希望」リーダーのアデルモは、強力な魔法士を探していた。

近年、増え続けている「龍種」の討伐依頼。

あれらは、とにかく体がデカく、近づくのは危ない。近接戦はリスクが高いのだ。だが、そんな強力な魔法士など、そう簡単には見つからない。

だから、今までは盾役のメンバーを雇ってリスクを分散したり、弓使いを雇って魔法士の代わりに攻撃させたりしてきた。

アデルモは攻撃魔法が出来たのだが、アイス系のみだったため、相性問題ってのがあった。「龍種」の中には火を噴くやつがいたりするからな。そういうのには、アイス系は効果が薄い。

ここでサーラをパーティーメンバーに出来たなら、一気に戦力アップ、とまあ、そんな感じで。

アデルモは興味を持った。

でも、アースドラゴン討伐に誘った時には、サーラはこう言った。


「目立つのはいや。私は普通のファイヤーボールしか撃たないからね?」


実際、サーラは常識的なファイヤーボールを撃つばかりで、戦力の一部くらいの働きしかしなかった。

もちろん、それでも問題は無かった。

というか、アデルモをはじめ、他に3人いた魔法士の中では、それでも一番攻撃速度は速かったし、与えたダメージは多かったと思う。

報酬が均等割りだったことを考えれば、充分な役割を果たしたと言えるだろう。


アデルモは、俺が話を「盛った」と考えているようだけど、まあ、秘密だって言ったことをバラしそうになった俺が悪い・・・かもしれないから、まあ蒸し返したりはしない。


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