ハダカの猫耳少女
「そんなわけないじゃん!」
思わず反論してしまう。アデルモがいくら獣人好きとは言っても、さすがに・・・とは思っていた。
「ハダカ、だったんだよ。もちろん最初は驚いたさ。それに何かあったと思うだろう?怪我をしてないか、何が起きたのかって」
まあ、本当にハダカで倒れていたんなら、まあ、そうだろう。
うっすらと記憶に残っている、さっきの光景。
あれは・・・
たぶん・・・
そうか。ハダカなのは、そういうことなのかもしれない。
記憶の中にある半年前の村での最後の日。
私は、何故だかハダカで村を彷徨っていた。
意識がはっきりとする頃には、何が起きたのかの記憶が無くなっていたけれど、血まみれになった家に戻り、服を着て、それから旅支度をしたことは覚えている。
「ハダカの君をそのまま連れ帰るわけにもいかなくて、とにかく手近な家に入ったんだよ。家の中は見て通り荒らされていて、けれどベッドだけは使えそうだったから、そこへ君を寝かせたんだ」
アデルモは、そこまで言うと、あきらかに目をそらした。
「いや、で、何かうなされているようだったから、落ち着くまで一緒に、その、寝ていた」
私はアデルモを睨みつける。
「なにもしなかったでしょうね?」
アデルモは、全然目を合わせない。
「う、うん。なにもしてない、よ」
いや、絶対、何かしたでしょ?
そうは思ったけれど、夜が明けかけているのか、破れたカーテンから差し込む朝の光に、素っ裸の私は恥ずかしさのあまり部屋を飛び出した。
家の中はめちゃくちゃに荒らされていた。
盗賊に荒らされた、という感じではなかった。
たぶん、これは、あの事件の時に起きたことだろう。
この家は、サビーノさんの家。まだ若かった。奥さんのエリーヌさんと二人暮らしだった。村の墓から近いこの家は、たぶん、最初に襲われたんだろう。
私は頭を振る。
別の部屋にあった服に袖を通す。
かび臭いけれど、今は・・・
下着は・・・さすがに借りる気はしなかった。
「エリーヌさん、服をお借りします」
エリーヌさんは小柄な方だったけど、私にはダブダブだった。
普段着の木綿のシャツと、ズボン。農作業なんかに使うやつだ。
紐で腰のところを締め上げる。
「ふう。さてと」
みんなのところへ戻らなきゃ。
ベアちゃんのこと、皆に言わなくちゃいけない。
それから、ベアちゃんの遺体を探す・・・
「サーラ?」
アデルモが廊下の向こうから声をかけてきた。
「サーラ?大丈夫ですか?何があったのです?私が追いついた時には、ゾンビの姿は無く、誰もいませんでした。ただ、ハダカのサーラだけが・・・」
私はアデルモに歩み寄る。
「アデルモ、ベアちゃんを見なかった?」
アデルモは首を振る。
「周辺を十分に探したとは言えません。サーラを先に見つけましたから。けれど、周囲にはなんの気配もしなかった」
そこでアデルモはさらに首を振る。
「正確には、あたりはひどい熱の残りと、ピリピリした魔力の痕跡がしました。人の気配など感じ取れないような、とんでもない何かが起きたことだけはわかりました」
私はアデルモの目を捉えた。
「まずは教会へ。アデルモ、あなたはみんなを連れてきて。私は、もう一度洞窟へ行く。ベアちゃんを探さなきゃ」
「しかし、それではサーラが・・・」
「私は、大丈夫。まだ魔力は十分残ってる」
そう言い終わる間もなく、外から人の声がした。
「アデルモ?いるのか?」
オルランドの声がした。
「オルランド!ここにいるよ。アデルモと一緒」
「おう、無事で何よりだ。さっきすげえ音がしたからな。地震か雷みてえな、とんでもねえ音と地響きだった」
家を出るとオルランドとジャンニが立っていた。
「ノルベルトさんは?」
「教会だ。あいつは戦闘には向かないからな。しっかり立てこもるように伝えてきた。というか、お前、服はどうした?何で着替えている?いや、それより、ベアは?あいつはどうした?」
「ベアちゃんはゾンビに囲まれて・・・それで・・・」
ジャンニは驚愕の表情で私を見た。
「そんな、ギルドマスターが?まさか!」
ジャンニは頭を抱えた。
「洞窟はゾンビの巣だったの。それに、あれはゾンビですらなかった。巨大な人工魔石と複雑な魔道具で生み出される魔物だったの」
「魔道具で生み出された魔物?」
オルランドとアデルモが同時に聞き返してきた。
「そう。ゾンビは無数に、無限に再生したの。ベアちゃんは取り囲まれて・・・インフェルノで脱出しようとしたけれど、吞み込まれて・・・」
「それで、ギルドマスターは・・・ベアトリーチェ様は命を落とされた、と」
天を仰ぐようにジャンニが慟哭する。
ああ、そうか。この人はベアちゃんが好きだったんだな。仕事で付いてきたんじゃない。ベアちゃんが好きだから・・・
私も涙がこぼれる。
大切な友達を失った。
かけがえのない、友人になるはずだった。




