最後のインフェルノ
「サーラ!下がれ!最後の魔力でインフェルノを撃つ!巻き込まれないように、下がれ!」
ベアちゃんが叫んでいた。
「わかった!」
お父さんが言っていた。インフェルノは範囲を制限することが最も難しいところなのだ、と。
味方を巻き込む可能性を排除しながら魔法を使えば、威力は限られてしまう、と。
絶体絶命の危機においては、最終手段として威力制限なしのインフェルノを放つ。
洞窟前広場から脱出しつつあった私は、ファイヤーボールと剣で退路を確保しながら元来た道へ急ぐ。
こうするしかないのだ。
私が逆に最大出力のインフェルノを使えば、ベアちゃんを巻き込んでしまう。
そうしないように制限したインフェルノを使えば、ベアちゃんの退路を確保できない。ゾンビの再生速度が速すぎるからだ。
あいつらは、ベアちゃんたちが言っていたゾンビとは違う種類の魔物だ。形態が似ているだけで、おそらく人間だったものでもないかもしれない。でなければ、再生などしないはずだ。正体不明の魔物に出会ったら、まずは一度引き、体制を立て直せ。
そう、お父さんも言っていた。
広場が視界に入らなくなる頃、背後でひときわ大きな炸裂音が響いた。
ベアちゃんのインフェルノだろう。
これで広場にいたゾンビもどき達はすべて消し炭になったはずだ。
そいつらが再生する前に、ベアちゃんが脱出する。
私は、振り返ると再び広場へと駆け出した。
ベアちゃんは最後の魔力で、と言った。
アデルモ達によく言われた。自分の魔力総量を基準にしないように、と。ベアちゃんの魔力総量は、インフェルノ3回分で限界なのだ。
でも、たぶん大丈夫。
ベアちゃんのインフェルノで退路は開ける。
でも!
広場から溢れたゾンビたちをファイヤーボールで蹴散らしながらベアちゃんの元へ急いだ。
「ベアちゃん!」
けれど、返事はない。
広場には、再生しつつあるゾンビたちが蠢いていた。
ベアちゃんの姿は無かった。
「そんな・・・」
退路は、今通ってきた道しかない。ベアちゃんは・・・いなかった。
「ベアちゃん!」
叫んだ声はゾンビたちのくぐもった声にかき消されていった。
なんてことだ。ベアちゃんは死んだ。
こんな得体のしれない雑魚どもに・・・数ばっかりで目的も持たない魔物なんかに・・・
その時、私の中で何かが弾けた。
それは怒りだった。理不尽なものへの怒りだった。
大切な友達だった。まだよく知らなかったけれど、本当の意味で理解をしあえる友達になるはずだった。
それなのに、こんなあっさりと・・・
誰だ?
こんなことをするのは誰なんだ!
私の体の中で、何かが膨れ上がる。
怒りと魔力が交じり合い、体の中から突き上げてくる。
右手を突き出す。
ゾンビたちが、その一振りでバラバラに砕け散る。
物理的に届くはずのない範囲のゾンビが消し飛ぶ。
両足で蹴立てると広場の真中へ着地した。
まるで、自分が巨大な何かになったような感覚がした。




