困惑のゾンビ
もと盗賊のゾンビだと思っていた。
ならば、この数は説明がつかないんじゃないか?
イブレア村の周辺には村も町もない。
文献によれば、千人クラスの盗賊団というのも存在してたらしいけど、それは傭兵崩れの集団だったはず。
いわば、盗賊の中でも正統派のプロのやつらだ。
そういう集団は、魔力持ちが多く混じっているはずだ。ゾンビになる条件の一つが、魔力を持たないことだとすれば。むしろそういう大集団のゾンビは考えにくい。
弱小盗賊団こそゾンビ化リスクが高いはずだ。
「ベアちゃん!この人数、おかしいよ!」
「そうだな!だが、今は考えている暇はない。とにかく焼き尽くせ!」
ベアちゃんは詠唱を再開する。
けれど洞窟からはゾンビが無限に湧いてくるようだった。
「インフェルノ!」
ベアちゃんの魔法が発動する。一足遅れで私もインフェルノを放つ。
広場のゾンビが灼熱魔法で消えていく。
だが、洞窟からはさらにゾンビが溢れ出していた。
焦燥感だけが心に広がっていく。
「いったいどうなっている・・・」
ベアちゃんの口がそう言っていた。
洞窟からは無限装置のようにゾンビが湧きだしてきていた。
「サーラ!撤退だ!このままでは魔力切れを起こす!避難するぞ!」
洞窟の入口から湧きだすゾンビ達を牽制しながらベアちゃんは叫んだ。
「了解!」
私は、再度のインフェルノを詠唱する。
上級魔法インフェルノは、魔力消費も大きい。
いわば必殺技であり、一発技だ。そう、何度も撃つ魔法ではない。
事実、私だってあと2,3発撃ったら魔力切れを起こすだろう。
いくら魔法騎士団で鍛えたベアちゃんだからって、無限に撃てるはずはない。
せいぜい、あと5,6発?たぶん。
ベアちゃんは、ファイヤーボールで退路を作りながら移動を開始していた。けれど洞窟の入り口付近に飛び込んでいたベアちゃんの周辺にはゾンビたちが溢れていた。
いや、違う!
洞窟から湧きだすゾンビだけではなかった。
焼き尽くしたはずのゾンビが、その消し炭から再生をし始めていた。
「いや、待って?再生するとか意味がわからない・・・」
本当に意味が分からない。
インフェルノは肉体を完全に焼き尽くす魔法だ。再生するはずがない。
けれど、ゾンビは地面から生えてくるように再生をしていた。
「こんなの・・・ありえない」
ゾンビは、この世界においても生ける死体のはずだ。
本来、人間だったもの。インフェルノで焼き尽くして再生するはずがない。
まずい。
広場の外側に近い私はともかく、奥のベアちゃんが脱出できない。
ゾンビたちは強くはない。
けれど、数は暴力的だ。一たび攻撃を受ければ、なし崩し的に倒されてしまう。
ベアちゃんは苦戦していた。
ファイヤーボールで倒したゾンビは、その場で崩れ去っていく。けれど、そこかしこからゾンビたちは再生していく。退路を作ることすら難しい。
私は、洞窟の入り口から離れたところにいた。
何故かゾンビたちは、洞窟前の広場以外では再生していなかった。
ベアちゃんを助けるために飛び込むべきか悩む。
広場はゾンビたちに埋め尽くされつつあった。




