殲滅
「この先に洞窟があるよ」
「洞窟?それは調査書にはなかったな」
「そんなに深い洞窟じゃないけどね。でも、もしもゾンビが、日の光が苦手なんだとしたら、昼間は洞窟とかに身を隠すんじゃないかって」
「その可能性はあるな。過去に倒した経験からわかっているのは、あいつらが夜にしか姿を現さないことと、ゾンビとして長くは存在していなそうだ、ということだけだ」
「それってどういうこと?」
「服だよ。割と新しい服を着ていた。奴らが毎日服を洗濯したりしているので無ければ、数ヵ月で汚れたり傷んだりするだろう?」
「洗濯してるかも?」
「いや、それはない。ゾンビは明らかに知能が無かった。言葉も話せないし、意志疎通も出来なかった。とても文化的な生活が送れる状態ではないよ」
「そっか」
「それよりサーラ、戦闘準備だ!来たぞ」
「え?」
気を抜いていた。
私、ベアちゃんに頼りすぎ?
ランプを適当な岩の上に置く。
少し魔力を注ぎ、辺りを明るく照らし出す。
人の唸り声が聞こえた。
不機嫌そうな、声。
気配を探れば、何体もいる。
「ベアちゃん、囲まれてる」
「ああ、わかっている。魔法はファイヤー系だからな。あと、火だるまになっても動き続けるから気を付けろ」
「うわぁ…」
やだな、そんなの。
最初の一体が姿を現す。
ベアちゃんが先に反応してファイヤーボールを放った。
それは、ゾンビの上半身を吹き飛ばした。
真っ暗なので、どうなったかの結果は良く見えない。おかげでグロくない。
それにしても、初めて見たけど、ベアちゃんのファイヤーボールは、めちゃスピードが速かった。
例えるなら、私のファイヤーボールは、野球の速球。ベアちゃんのは、拳銃の弾。
「はや!」
「ふふん、訓練の成果だな」
たしかに。
お父さんにも言われたことあったな。
「どんなに才能があっても、鍛練を積まなければ宝の持ち腐れとなる。常に最良を求めよ、だっけ」
「そうだ。騎士団の訓告だな」
そっか。お父さん、元騎士団長だったんだもんね。
「サーラは背後を頼む」
「わかった!」
お互いに背中合わせで身構える。
来た!
「ファイヤーボール!」
スピードを増すことを意識して打ち出す。ベアちゃんほどではないけど、いつもよりスピードは速い。ゴブリン狩りの時みたいに爆発をさせるのではなく、当たった衝撃で対象を破壊する。
え?
人間相手の戦闘に躊躇いは無いのかって?
無いよ?
魔物化したら人間じゃないし、例え生きた人でも、敵だと認識したら全力で戦う。
お父さんにも、そう教わった。
だから、私は例え相手が人でも躊躇はしない。
ましてや、相手は元盗賊のゾンビだもん。戦わない理由がないよ。
2、3体倒したところで、今度は横から出た。至近距離!
「サーラ、下がれ!」
ベアちゃんがソードを抜いてゾンビを切り裂く。
切られたゾンビは、血を吹き出して倒れる、なんてことはなく、2、3歩よろけると、再び突進してきた。
ベアちゃんは、脚蹴りで間合いを作り、
ファイヤーボールを撃ち込んだ。
ゾンビの肩が吹き飛ぶ。
それでもそいつは再び突進しようと立ち上がった。
「サーラ!後ろだ!」
ベアちゃんの声に後ろを振り向くと、まさに別のゾンビが襲ってくるところだった。
反射的に剣を抜き突進を受け流す。
「ファイヤーボール!」
高速ファイヤーボールを打ち出す。
腰の辺りを粉砕。ゾンビは倒れた。
「上出来だ!」
ベアちゃんがゾンビを倒しながら、私に親指を立てた。
余裕だなあ。
私も次のゾンビを高速ファイヤーボールで倒す。
それにしても、何体いるんだろう?
次から次へと沸いて出てくる。
これじゃあ、まるでゾンビ映画だ。




