表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/81

とりあえず生で(キンキンに冷えた一杯)

まだ日は暮れていないんだけど・・・。

夕飯にしては早いかな、と思う。でも、今日は上品質魔石を二つも納品出来て懐もあったかいし・・・。

 

オステリア・ライモンドに行こう。

 

ライモンドっていうおっさんがやっている食べ物屋だ。パスタがメインの店なんだけど、肉料理がおいしいのと、エールが安いのがいい。

それと、ここ重要なんだけど、店の開くのが早く、閉まるのが遅い。

なので、いつ行っても誰か知り合いがいる。


「こんにちは、ライモンド!」

ドアを開けて、カウンターに立つライモンドに声を掛けた。

「よ、サーラ。元気かい?」

「元気だよ!とりあえずエール頂戴!」

「あいよ!今日のお勧めはグリルチキン。いるかい?」

「もちろん!」

「あいよ!」


この世界では、飲酒に年齢制限は無いよ。

それと、この店のエールは酔わない気がする。アルコール度数とか書いて無いしね。


店の中を見渡すと、何人かの客がいた。

その中に知った顔を見つけた。

「サーラ!今日は早いね」

「ジャン、今日は仕事じゃないの?」

ジャン、16歳。男。冒険者。茶色い髪に細目で目つき悪いけど、悪い人じゃないよ。

「うちのパーティーは大物狙いだからな!金が無くなるまでは細かい仕事はしない主義なんだ」

計画性の無いこと言ってるけど、それは日本の感覚だよ。こっちの世界では普通だね。コツコツと仕事が出来る真面目な人なら、そもそも冒険者なんてしてないよ。


ライモンドが渡してくれたエールとグリルチキンを受け取り、お金を払う。

ここでは支払いは注文ごとにするんだ。

計画性が無くて、信用も無い冒険者が入り浸る店だから、まあ、当たり前だね。


ジャンが手招きするので、同じテーブルに座る。

ジャンとは、何度か仕事をしたことがある。大物狙いの仕事をするっていうのは嘘では無く、その時はアースドラゴン狩りを請け負っていた。

ジャン達のリーダーはアデルモ。30歳を少し超えたベテラン魔法士で、槍も使う。アイス系攻撃魔法と、初級のヒールを使えるんだって。

魔法を使える冒険者はレアなんだけど、例外があるんだ。


アデルモは没落貴族だっていう噂だ。

この国は、基本的には豊かで平和なんだけど、国の中央では政権争いとか貴族の足の引っ張り合いとか、よくわかんないけど、なんかそういうのをやってるらしいよ。

たまーにいるんだってさ、没落貴族の冒険者って。


アデルモは強いけれど無謀では無く、狩りの対象が手強い時は「臨時のパーティーメンバー」を募集するんだ。

実に堅実だね。

アースドラゴンは、本物のドラゴンでは無いのだけど、かなり大型の魔物で、近接戦闘が危険だった。だから、魔法が使えるものを集め、遠距離攻撃で弱らせてからジャンとアデルモでとどめを刺す、という作戦で仕留められた。

さすがベテラン冒険者、戦闘の指示も的確だったよ。


「サーラはエールかい?てことは、今日はいい魔石が採れたんだ?」

「うん、上品質が二つと並品が一つだよ」

ちなみに、稼ぎが悪い時はエールでは無くて、水だ。魔法で水は出せるから、自分のコップで自分の魔法で出した水を飲むことになる。

「ソロでかい?なかなか腕を上げたじゃないか」

私はジャンの背中をバシンと叩く。

「もう、お世辞ばっかり!」

エールに口を付けた。ん、少しぬるいかな・・・。


その瞬間、知らない記憶が蘇った。


前世でのことだ。

これは「居酒屋」という場所だ。とりあえずビールを頼むっていうのが、お約束だったらしい。

そしてその生ビールというのは、おそろしくキンキンに冷えているのだ・・・。



「サーラ、どうしたんだい?サーラ?」

「あ、ジャン・・・いや、なんでもないよ。ちょっと何か思い出しただけ・・・」

「ん?なんだい、それは」


仕事終わりには、良く冷えた生ビール・・・。

私は目の前のエールを冷たく冷やしたくなった。


「ねえ、ジャン。エールを冷やそうと思うんだけど・・・?」

「は?いきなり何を言い出すの?」

「アイスミスト!」

冷気を放出する魔法。主に凝縮した氷の霧を発生させ、敵を低体温にして動きを鈍くする攻撃魔法であり、肉を冷凍保存するのにもつかわれる生活魔法でもある。

「お、サーラ、相変わらず魔法の腕は凄いね。テーブルの上がほとんど凍ってない」

かなり弱めに魔法をかけた。

強くかけるとエールくらい、すぐに凍り付くからね。


飲んでみる。


「ぷは!冷たい!これはいいね。疲れが吹き飛ぶ感じがする!」

「お?そうなのか?サーラ、俺のエールも冷やしてくれよ!」

私の飲みっぷりを見てジャンが自分のコップも突き出してきた。

あ、うん。ガラス製のジョッキとかじゃないよ。

木のコップに入ってる。

私は中身を覗く。

「ジャン、ほとんど入ってないよ。これじゃあいくらセーブしても凍っちゃうよ」

「そうなのか?じゃあ、注文するかあ・・・ライモンド!エールをくれよ!」

ライモンドがカウンターの向こうで片手を上げて振り向いた。

「ジャン、エールは1杯かい?2杯かい?」

ジャンは私を見た。私は指を二本立ててみた。

「2杯だ!」

「ありがとう、ジャン」

「おう!」


奢ってくれるというので、遠慮なく1杯目を飲み干す。冷たいエールはさらさらと喉を流れていく。そして気分が良くなってくる。


ジャンがカウンターへ行き、エールを二杯、受け取ってきた。

「さあ、約束だ。サーラ、魔法をかけてくれ」

「いいよ、ジャン。アイスミスト!」

二杯のエールに氷魔法をかける。

「さあ、いいよ」

「じゃあ、試してみるか!」

コップにはうっすらと霜が降りている。ちょっと冷えすぎたかな。

「ぷは!旨いな!少し冷えすぎて香りが弱いが、これはなかなかいい!」

私も自分のコップに口を付けた。

「ぷは!おいしい!やっぱり冷えたビールはいいね」

「ん?ビール?」

「あ、私の以前いたところでは、そう言っていたんだ・・・」


誤魔化して、チキンに手を伸ばす。

エールを奢ってもらったから、チキンを一つ、ジャンの皿に放り込んであげた。

「お。サンキュ」

ジャンはパクリとグリルチキンを食べてしまう。

私は味わってかぶり付く。

「うまあ・・・幸せだあ」

ハーブが効いたチキンだ。手掴みで食べてる。おいしい。指先についたソースも嘗めちゃう。

ジャンが見てるけど気にはしないよ。冷えたエールを片手に私をじっとみつめている。

「ん?なあに?」

「なあサーラ、そういうの・・・あんま人前でしないほうがいいと思うぞ・・・?」

「ん?なんのこと?」

ジャンが肩を竦めるけど、なんのことだか・・・。

「それはそうと、サーラ、聞いたか?フォクシーの村に水龍が出たらしい。近いうちに討伐依頼が出るって噂だぞ」

「水龍?あれって湖とかに出るんじゃなかったっけ?フォクシーは漁村じゃなかったっけ?海の」

「ああ、そうだ。サンテレナから海岸沿いに10キロほど行ったところにあるのがフォクシー村だ。でも、フォクシー村から陸地に向かって2キロほど歩くと大きな沼がある。水龍は、そこに出たらしい」


ええ、迷いましたとも。


未成年にビールを飲ませても良いか?

答えはノーです。

お酒はハタチになってから。


でも、魔力がある少女は酒精を安全に分解できるのです。

都合の良い設定、大事。


成人の男女が転生したら、仕事上がりに一杯って大切じゃないですか。

しかも冒険者なんて、その日暮らしの底辺ですよ?


いわば、中卒で怪しい日雇いの力仕事してるわけっすから。

飲まなきゃやってられないでしょ。。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ