またしても・・・
目が覚めた。
何かあってもいいように、と服を着たまま寝ていた。
ベッドから降りて窓に近づく。
ここは二階だ。外を見下ろす。
外は月明かりが、うっすらと広場を照らしている。
その中に、何か動くものがいた。ひとつ・・・ふたつ・・・みっつ・・・。
「え?なんかたくさんいない?」
ぞっと背筋に悪寒が走った。何か不吉なものが蠢いている。
「建物の影にもいます。プーラ村で出会ったウォーキンデッドとは違うようですが、生気が感じられない。おそらくあれらも死体でしょう」
「死体って・・・」
解いていた髪を一つに縛りながら階下へ降りていく。
小さな蝋燭一つ。
ベアちゃんが指示を出し、ジャンニとオルランドが正面以外の入り口に補強を入れたり、棚やテーブルを置いて侵入出来ないようにしていた。
「起きてきたか」
私に気付くとベアちゃんが手で招いた。
「ん、帽子はいいのか?」
私の猫耳を見てベアちゃんが言った。
「うん、もういいかなって思って。戦いにくいし」
「そうか。けど、後ろのやつがにやにやしているのが気持ち悪い」
え?
振り向いたら、アデルモが、すっと目を逸らした。
ベアちゃんは、ふう、っとため息をついた。
「ともかく、外は見たか?10人以上はいる。いや、10体と言ったほうがいいか・・・」
「あれは・・・なに?」
「わからん。だが、えらく薄汚れた服、引き摺るような歩き方からみて、アンデッドの類だろう」
アデルモが私の真後ろから声を上げた。
「でも、ウォーキンデッドとは違う。あれはもっと人に近い存在だった」
どうでもいいけど、真後ろに立つのはやめて欲しい・・・。それと、振り向いた瞬間に私の耳に伸ばしかけた手を慌てて引っ込めるのも・・・。
「ああ。だがアンデッドは人工魔石でだけ誕生するというわけではない。この村は魔素が濃い。あれらは普通に魔物として蠢く死体だろう。私の理解では、あれらはゾンビだ」
「ゾンビですか?」
「ああ。アデルモは聞きなれないだろうが・・・。まあバッファローが魔物化して暴れるのと同じことだよ」
「ですが・・・あれらは死体なのでは・・・?」
「いや、私は何度か戦ったことがある。あれらは死ぬ前に魔物化したものだ。だが蘇生の可能性はないがな。既に腐敗が始まっているはずだ。いわば魔素による病気みたいなものだ」
「病気ですか・・・」
「ああ。やつら、焼くと魔石を残すんだがな。黒い魔石だった。人工魔石ではない」
そこへノルベルトがやってきた。
「ベア様の言う通りです。クルタス王国以外では聞いたことはありませんが」
「人間も魔物化するのか?」
アデルモが驚いた声を上げる。
ベアちゃんとノルベルトが頷く。
「その通りです。冒険者ギルドにさえも事実は伏せられていますが・・・。ここ数年で、そう言った事例は複数で報告されています」
「なんてことだ・・・」
ベアちゃんが首を振る。
「気にするな。私達は魔物化しない。わずかでも魔力を持つものは魔物化しないのだ。まったく魔力を持たない冒険者は少ないからな。お前たちのパーティーでも、まったく魔法を使えないのはジャンくらいだろう?」
アデルモを振り返る。
アデルモが頷く。そうだったのか・・・。オルランドも生活魔法は使えるし、ロレーナもそう。
「それに、余程の魔素濃度に長時間触れない限り、魔物化もしないから安心しろ。ジャン達を置いてきたもそういう理由だ」
え?馬車に乗れないからじゃなかったのか・・・。
ノルベルトが付け加える。
「それに・・・体内に魔石が出来るくらいで狂暴化するとか、魔物化するのは、特殊な条件が必要なのです。例え魔石が生成されていても、多くは無害なんですよ」
1階の正面出入口にアデルモとオルランド、それからジャンニを配置した。
ノルベルトさんは戦力にならないので二階へ退避してもらう。
私とベアちゃんも二階に上がり、ゾンビたちの様子を観察することにした。
窓から見下ろすと広場には、蠢くように徘徊するゾンビが3体いた。
「なんか本当にゾンビみたい・・・」
「いや、サーラ、ゾンビだから」
「でも、だってゾンビって地球の映画でしょう?」
「まあ、いいじゃん。あの動き、ゾンビ映画そっくりだし」
「・・・いいけど・・・」
この瞬間、あれは「ゾンビ」と呼ばれることが決定した。




