馬車での移動(3)
今日も馬車で移動する。
目覚めた時に外を眺めると曇っていた。
天気は悪そうだ。
馬車に乗って走り出すと、すぐに雨が降り出した。
キャリッジの中にいる私達は平気でも、御者台の二人は辛いだろう。
「オルランド!大丈夫?」
窓から声を掛けると、オルランドが大声で答えた。
「そんなやわじゃねえよ。冬ならともかく、まだ秋口だ、どうってことねえよ」
とはいえ、雨脚は次第に強くなった。
次第に道もぬかるみ始める。
こうなると馬車は速度が落ちる。街道を走っている間は石畳だったけれど、イブレア村へ向かう支道は敷石がない。そうなると車輪の抵抗が増え、馬も足をぬかるみに取られはじめる。
天候を考慮して、休憩を短くしてイブレア村へ急いだ。
昼過ぎ、予定よりも早くイブレア村へ着く。
イブレア村は小さな村だった。
森の中に続く道を進んでいくと、少し小高い丘の上に小さな家が見え始める。
そこはミケランジェロさんの家だ。
ミケランジェロって聞くと、前世の記憶の有名人を思い出すけれど、割とありふれた名前だよ。サンテレナにもミケランジェロはいた。彼は花屋だったけど。
ミケランジェロさんも亡くなっている。お年寄りで奥さんと二人暮らしだった。
家の周りに小さな農園を作っていた。採れた野菜をもらったこともある。
ベアちゃんが馬車の窓から、その小さな家を観察していた。
「思ったよりも綺麗だな」
家は壊れてはいない。
すうっと心臓に冷たい風が吹き抜けた。
ミケランジェロさんと奥さんは、畑で死んでいた。
その映像が蘇る。記憶が・・・戻ってくる。
「大丈夫か?サーラ」
隣に座っていたアデルモが私の手を握った。
「うん、大丈夫。ちょっと思い出しただけ・・・」
「そうか。気分が悪くなったら言ってね。僕だって話ぐらいは聞ける」
「ありがとう、アデルモ」
丘を越えると、村だ。
8軒の家が森の小道に沿って適度に距離を取って建てられている。
ミケランジェロさんの家は少し離れているけれど、そこを含めて9軒。そして共同の倉庫兼教会が一つ。村のほぼ中央に建っていた。
教会とは言っても、まあ、どっちかというと集会所に近い。
一応、宗教施設として建てられてるけど、村の話し合いをしたり、お祝い事をしたりするのに使われていた。
「今夜は、あの教会に宿泊しようと思う」
ベアちゃんが窓の外を見たまま、そう言った。
馬車は教会の前の広場に停車した。
背の高い木々に囲まれた森の中の村。
前世のファンタジーなら、エルフの村、といった雰囲気だ。エルフは住んでいなかったけどね。
というか、エルフ族って本当にいるのかな?
私は見たこと無いな。
というか、自分以外、獣人族も見たこと無いけど。
ひとまず荷物を教会の中に運び入れた。
マジックバッグを使っているから、個人の荷物は軽いものだ。馬車に積んできた荷物も、マジックボックスなので重さは大したことが無い。
教会の中は薄暗かった。
雨の降り込まない窓は開けたけれど、少し埃っぽさも消えない。
教会は石造りの建物だ。
正面の大きな扉を開けて入ったところが集会場。
会議室くらいの広さだよ。壁際にはいくつかの椅子が置かれている。正面には少し高くなったステージがある。ステージの背後、その周辺には何枚かの絵が貼られている。
ステージ上の絵には、創造神アメデーオが世界を創り出した様子が描かれている。
ステージの右隣には、白い羽根を持つ天使フラヴィア。フラヴィアは自分の何倍もあるグリフォンを従えた姿で描かれていた。
建物の裏側には納屋があったはずだ。
私がそう言うと、ギルドの人が馬を連れて出て行った。
干し草なんかも、少しは残っているといいけど。




