馬車での移動(1)
結局、休憩を挟んで再び馬車に乗り込むときには、私の正面はベアトリーチェになっていた。
まあ、最初に思っていたよりもベアトリーチェが話しやすい感じだって気付いて私も少しは話をするようになった。
「だからさ、ベアトリーチェって名前、長いだろ?だからさあ、ベアって呼んで?」
「ベア?」
アデルモがこちらを見た。
「普通、ベアトリーチェの愛称はビーチェでしょう?」
「そうだけどねぇ・・・。ビーチェって響きが好きじゃないんだ」
「だからってベアじゃ、クマちゃんだよ」
「クマちゃんでもいいよ?ベアちゃんでもいいし」
「ベアちゃん・・・」
「なあに?サーラ」
「う・・・なんかキャラがブレて・・・」
「構わないぞ?私はサーラより年上だが、たぶん、精神年齢は同じか・・・いや、ひょっとしたら・・・。なのでベアちゃんって呼んでくれ」
「う・・・ベア・・・さん」
「ベアさんではない。ベアちゃんだ」
「ベアちゃ・・・ん」
「そうだぞ、サーラ」
「じゃあ私もベアちゃんとお呼びしても良いですか?」
ノルベルトが真面目な顔でベアトリー・・・いやベアちゃんに言った。
「ああ、構わないぞ。ノルベルトは、ノルちゃんだな」
「な・・・それは・・・嫌でございます」
一日目の道中、全然、調査の話をしなかった。
夕方、暗くなる前に村に着く。
湖畔を望む素敵な村だった。清潔だし、建物もログハウス風のものが多く、おしゃれだ。
その中の一軒に入る。
広い!明るい!魔導具なんだろうけど、ランプがロビーを照らす。そしてそのまま建物の裏の方へ出ればテラスになっていた。
湖を見下ろすようになっている。まだ日のある時間で、湖が一望出来る。
宿のテラスから湖を見下ろしているとベアちゃんがやってきた。
「コギナス湖、観光地だな」
「綺麗な湖だね」
「このあたりは魔素も薄い。オルビアの富裕層が避暑にやってくる場所だ。私も小さい頃に何度か来たことがあるぞ」
ベアちゃんと湖を眺める。
秋の気配を感じる風が夕暮れ前のテラスを吹き抜けていく。少し肌寒いけど不快ではない。一日、馬車に揺られていた体に心地よい。
他の人達は部屋に荷物を置きに行っている。
テラスには私達しかいなかった。
「なあサーラ。イブレア村はいいところだったか?」
唐突にベアちゃんが言った。
湖を眺めたまま。




