前世のこと
「ところでオルランド。明日は魔法研究者の人に会いに行くの?」
「あー、たぶん、明日は行かねえ」
「え?なんで?」
「明日は、アデルモ達、あいつら昼まで寝てるだろうからよ。まったり過ごすんじゃねえか?まあ、そう急いでもいねえしな」
「そっか・・・じゃあ、明日、私、どうしようかな?」
「街でも観光すりゃいいじゃねえか。付き合ってやろうか?」
「そっか、観光かあ・・・」
お腹いっぱいに夕飯を食べて、宿に戻った。
シャワーを浴びて、洗濯をして、ふかふかのベッドに横になった。
眠気がやってくる。
今日も一日、お疲れ様・・・
気持ちよく眠り付いた・・・はずだった。
夢だ、と思っていた。
終わってはいなかった前世の記憶。
白い世界。
壁も無いし、景色も無い。姿も見えない。
私の体はサーラじゃない。
少し骨ばってかさついた手。
ああ、あの世界の私の手だ。
突然、脳裏に衝撃的なワンシーンがフラッシュバックした。
「っ・・・!」
私が・・・生前の私が、血だらけの子供を胸に抱いて泣き叫んでいるシーンだった。
「なんだ・・・なんだ、これ・・・」
再び場面が再生される。
旦那、に、蹴られるシーン。
私は・・・。
私は・・・。人間関係が苦手だった。
自分が思ったことをストレートに表現してしまう。それは人間関係の軋轢を生んだ。
バイトが長続きしないのも、そういうことの積み重ねだった。
いろんな職種を経験した。
何も極めるまでは続かなかった。
恋人も、出来なかった。
何度かはゆきずりの恋はした。長続きはしなかった。
私は、30歳を超えて焦っていた。
もう、結婚出来なくてもいい。けど子供は欲しい。
なんだか、そんなやけくそにも似た気持ちだった。
そんな時、彼に出会った。
5歳年下の彼氏。私はその時、35歳だった。
1年を待たずして子供が出来た。
彼氏はそれを喜ばなかった。
暴力は、次第にエスカレートした。
私は涙が頬を伝うのを感じた。
あんなに愛おしかった子供の名前を・・・私は思い出せない。ものすごく思い出したいのに、名前を呼びたいのに、思い出すことさえ出来ない。




