ゴジラの魔石は船になるらしい
ルチアは火龍の爪で切り裂かれ、出血多量で死んだ。
息を引き取ったのは、ジャンの腕の中だったそうだ。
その後、ジャンはサンテレナを出て国中を放浪し、その旅の途中で夜明けの希望に出会う。
夜明けの希望は、ドラゴン退治を主任務にしていた。そして、サンテレナを拠点にするつもりでもあった。ジャンは道案内とサンテレナでの交渉役を買って出た。
しかし、かつて目の前で恋人を失ったジャンは、半ば自暴自棄で無茶な依頼を受け続け、それは彼に戦闘経験を与えてきた。
怪我もしたが、実戦経験も積んだ。夜明けの希望は、ジャンの腕を買った。サンテレナに着いた後も、ジャンはメンバーの一人として残った。
ジャンはね、いつも目つきが悪いよ。
たぶん、そういう顔なんだろうね。初対面の人は怖そうな人だって思うみたい。
けど、少し話してみるとわかる。
この人は優しい。
一人ぼっちの人とか、危ない目に遭いそうな人とか、そういうのを放っておかない。少しおせっかいなくらい、他人の世話をしたがる人だ。
だからかな。
ルチアの事、きっと大切だったんだろうなって思った。
「ねえジャン。大丈夫?」
ジャンは怖い目のまま、私を睨む。
いや、睨んではいないか。普通の目だな。
「大丈夫さ。ルチアは3年前に死んだ。今さら生き返ったんじゃねえか、なんて考えちゃいねえよ」
そう言うとエールを一気に飲み干して、ライモンドにお代わりを頼んだ。
ジャンのエールのお代わりが来る頃、アデルモ達がやってきた。
「おうやってるな。ん?なんだ、アロンザの姉ちゃんは、もう酔いつぶれてんのか?」
オルランドが呆れた顔で席に着く。
ロレーナは私の横に座った。
「サーラちゃん、どうしたの?ジャンにいじめられたの?元気のない顔して?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっと真面目な話をしていただけだよ」
「それならいいけど」
さてと、と言いながらロレーナはテーブルの上を見渡す。
「今日のおすすめは何かのトマト煮込みね。それはなあに?」
「これはウナギだよ。おいしいよ」
「ウナギ・・・」
ロレーナも微妙な顔をした。どうやらウナギはメジャーな食べ物では無いようだ。
おいしいのに。
アデルモとロレーナはフィッシュアンドチップス、オルランドはウナギのトマト煮込み。オルランドは一番年上だけど、食に関しては挑戦的だ。
「このやわらかい食感がいいんだ」
おいしそうに食べていた。
食事がテーブルに並び、それぞれが落ち着いたころ、アデルモがギルドでの話し合いがどうなったのかを教えてくれた。
まずは、先日のフォクシー村ゴジラ。
ゴジラ・・・じゃないけど。
あの時の紫魔石。
買い取り先が決まり、手数料を差し引いた金額を受け取ったそうだ。
大金貨20枚。
ジャンがガタっと立ち上がった。
「すげえ。大金だな!」
無理矢理日本円に換算すると、およそ400万円というところだ。
「あんな大きな魔石、何に使うのかな・・・」
アデルモが得意そうな顔で私に振り向く。
「調べたところ、あの魔石には水流を発生させる効果が認められた。魔導船の動力魔石として使われるそうだ」
魔導船、というのは、魔法による推進装置を備えた船のことだ。
あの紫魔石一つで、標準的な輸送船が動かせるらしい。標準船は、全長20メートル、乗組員8名の輸送船、なんだって。50トンくらいの積み荷を運べるそうだよ。
前世の知識で言えば、アメリカ大陸を発見したサンタ・マリア号よりも一回り小さい船って感じかな。
魔導船は、帆を上げる必要が無く、天候に関わらず航行出来るメリットがある。どっちかというと軍艦に向いていると言われるけど、魔石一つで数年間動くらしいし、帆を操る船員を雇う必要が無く乗組員を減らせるので輸送コストの削減が出来て人気があるみたい。
アデルモの持っている船も魔導船らしいよ。
魔石がしょぼいので、速度は出ないみたいだけど。
「魔石の売上金だが・・・均等割り・・・というのもどうかと思うのですが。ほとんどサーラが倒して、サーラが処理しましたからね」
アデルモが困った顔で私を見る。
私は首を横に振った。
「平等に分けようよ。5人で4枚づつ。それでいいじゃん」
「ですが・・・」
アデルモが困った顔をしてオルランドを見た。
「ああ、そうだぞ、サーラ。ギルドから支払われる報酬は均等割りがルールだが、魔石や素材は手に入れた者に優先権がある。今回はサーラの手柄だ。だからお前が貰っておけ」
「いいよ。私、そんなにお金貰っても使い道無いし。今回は平等に分けたいの」
ちょっと押し問答をしたけど、今回は平等に分けることになった。
私、自分だけでやったと思ってないし。
買い取りのカリアリ商店での交渉もアデルモ達に任せっぱなしだったし。
お金を分配し、オルランドとロレーナは別のテーブルへ。
アデルモはギルドでの事を私達に伝えるために残った。
「次に、プーラ村の件ですが・・・」
アデルモがチラリとジャンを見た。
「なんだ?俺のことなら気にするなよ」
「ですが、ギルドでジャンと今回のウォーキンデッドとなった女性のことを聞いてしまいましたので・・・」
「そうか。その話なら、さっきサーラにもしたが、俺はあれがルチアだったとは思っていない。ルチアは3年前に死んだ。生き返ったりはしない」
「・・・そうですか・・・。では、割り切って聞いてください。今回の調査でわかったことですが、どうやらウォーキンデッドの出現においては、何者かの画策があったと思われます」
「画策?どういうことだ?」
ジャンが目つきの悪い目でアデルモを睨む。
いや、睨んではいないか・・・。普通に見ただけかな。
「ルチアの墓は、丁寧に掘り起こされ、そして埋め戻されていました」
「ん?それは・・・どういうことだ?」
「ご存知の通り、埋葬される棺桶は1メートル80センチの深さと決まっています」
シックスフィートアンダーだね。
アデルモは続ける。
「棺桶も丈夫な木と石で出来た頑丈なもの。いくら魔物化したウォーキンデッドとはいえ、2メートル近い土と釘で打ち付けられた棺桶を吹き飛ばして出てこられるとは思えません」
「そう?魔法でドカーンってやったら出られるんじゃ・・・」
「狭い棺桶の中でそんなことをすれば、自分の体だって無傷では済みませんよ、サーラ」
「ああ、それにさっきアデルモは墓は綺麗に埋め戻されていたと言ったな。もしも力任せの魔法で吹き飛ばしたんなら、一目で分かるよな。それに埋め戻すなんてするはずねえ」
「ええ、その通りです。ということは、ですよ。誰かが、ルチアの墓を掘り返し、彼女が魔物化する手助けをした、と考えられるのです」