サンテレナ新聞
アロンザが私の頭から足までまじまじと眺めてきた。
「ふうん・・・サーラは天使に似てる・・・なるほど」
「な、なにがなるほどなんですか!」
アロンザが、えへん、と咳払いする。
「教会の天使、フラヴィアは伝説ではグリフォンを夫として、世界にはびこった魔物を退治したと言われてるんですよ。でも彼女自身、高位の魔法士だったのです。得意な魔法は天候操作でしたから」
さすが。アロンザは本物の貴族らしく教養があるよね。
「あーなるほどなあ。サーラが使った魔法はストームとサンダーボルトだったもんなあ・・・」
「私、ストームが得意ってわけじゃ・・・」
「あら?私はストームなんて上位魔法、使えませんわよ?ストームが使えなければサンダーボルトも使えませんし」
「そうだ。サーラの魔法常識はおかしい」
「それにサーラの髪、サラサラの金色の髪。顔だちも上流階級の貴族のような気品が感じられますわ。この国の貴族は、神アメデーオの子孫と言われていますから。つまり、フラヴィアの子孫でもあるわけです。サーラは確かに天使フラヴィアそっくりですわよ」
ライモンドがハッハと笑った。
「サーラ嬢ちゃん、お前さん、貴族だったんか?」
私は慌てて手を振った。
「違う違う、貴族じゃないよ。私、ただの冒険者」
アロンザが、ガシっと私の髪を掴んだ。
「痛い!なにするの」
あ、アロンザの目が座ってる・・・。
「サーラ、あなた、絶対に貴族の血を引いてますわよ。それもかなり上位の・・・。でなきゃおかしいですわよ。魔法の力といい、育ての親の件といい・・・」
「育ての親?なんだそれ?」
「ライモンドさん、このサーラはですねえ・・・」
「あー、ダメダメ、アロンザ、あんまり情報を漏らさないで!個人情報だよ、プライバシーだよ!」
「プラ・・・なんですか?それ」
うん、この世界にプライバシーなんて言葉はありませんでした。
ライモンドはカウンターに戻っていく。時間が早いから他のお客さんはいないけど。
新聞、といっても、私の知識だと「瓦版」くらいのものだよ。紙一枚に木版画で刷られたものだ。読んだ内容も大したことは書いてない。
ただ、それが嘘だらけって点を除いては。
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「サンテレナ新聞」
プーラ村にリッチが出現した。
リッチの正体は不明だったが、居合わせた夜明けの希望がギルドに応援を頼み、駆け付けた冒険者と共に倒した。
特に活躍したのは、最近加入したばかりの謎の少女、サーラである。
彼女は聖魔法を使い、リッチを浄化した。
プーラ村には平和が戻った。
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頭が痛いよ。
あんまり有名になりたくない。
有名になれば、猫耳つきだってこともバレやすくなるし・・・。この瓦版・・・じゃなかった、新聞、どのくらいの発行部数なんだろう。
それと挿絵。
あ、うん、もちろん写真は無いから挿絵なんだけど、そこに、めっちゃ「聖魔法を使うサーラ」と注釈が書いてあった。そして、あきらかに教会の天使の絵をモチーフにした挿絵が・・・。
オリジナル(わたし)は何処行った?
神々しい天使がワンドを使っている。そして後光がさしているよ。
「サーラ!」
「痛い、アロンザ、髪の毛、離してよ」
「やだ!離してほしければエールを奢りなさい。もちろん、きっちり冷やしてくださいな」
「な、なんでよ?自分で注文すればいいじゃない」
見ればアロンザのコップは空でした。
一気に飲み過ぎなんじゃ・・・。
「そうね。じゃあ、ライモンド!エールを・・・えっと3杯!」
「あいよ!」
ジャンが残り少しになっていたエールを飲み干す。
「奢ってくれるのか?アロンザ」
アロンザがジャンを不思議そうな顔で見返しました。
「何故?私は自分用にエールを注文しただけですわ。いちいち注文するのが面倒なのでまとめて」
「な・・・紛らわしい・・・ライモンド、俺にもエールをくれ!」
「お、おう!」
届いたエールのうちの一つを魔法で冷やすと、アロンザは、それを一気に飲んだ。
「ふうう」
ドン、とコップをテーブルに置くと、私とジャンをゆっくり眺め、そしてにっこりとかわいく微笑んで・・・。
バタン。
寝た。




