魔物化した人間(9)
(サーラ視点に戻ります)
村の方で火柱が上がり駆け付けたところだった。
村長の家の前で、マリオとアロンザが待っていた。
その後ろに、誰かがいた。
私には誰だかわからないタイミングだった。
目の前にジャンがいて、良く見えなかったってのもある。
バシィッ!と空気を切り裂くような音とともに、 突然、目の前に火柱が上がった。
それはジャンを狙ったように見えた。
一呼吸遅れて火柱にウォーターボールが当たった。魔法は中和され、フレイムの勢いが弱まる。
ジャンは最初の攻撃をギリギリで避けていた。
「あ、危なかった」
ジャンが本当に焦ったような声でつぶやいていた。
間髪入れず、アデルモがアイスクラッシュでフレイムを完全中和した。
続けてアロンザの方へ向き直り、大声で叫んだ。
「そいつから離れなさい!その小娘がウォーキンデッドだ!」
マリオがアロンザを庇うようにダッシュした。
ようやく見えた人影は、私と同じくらいの背格好の冒険者風の少女だった。
「ルチア・・・?」
ジャンの声が聞こえたような気がしたけど、私はアデルモの姿を探す。
「私に指示を下さい!」
こういう時、私は何をしたらいいのかわからない。
私の魔法はピンポイントで撃てるようなものでは無く、使い方によっては味方を巻き込んでしまう。
夜明けの希望メンバーになってから、アデルモを始め、みんなには先頭の連携っていうのを教えて貰ったけれど、当面の結論は「指示通りに魔法を使え」だった。
え?それでいいよ?イブレア村にいた頃もお父さんの指示で魔法を使っていただけだし。
「サーラ!アイスニードルを連射、直接狙え!牽制で構わない。アロンザとマリオには当てるな!」
オルランドの声が響いた。
「了解!アイスニードル!」
氷の粒を棒状に伸ばし、つららみたいなものを撃ち出す魔法だよ。
普通は一個を作り、撃ち出す。
けど、私は同時に20個くらい作れる。
一気に打ち出すことも出来るけれど、そうするとコントロールが甘くなるんだ。
放射状に広がる感じに撃ち出されちゃうので、範囲魔法みたいになる。
狙いを定めたい時は、一発づつ撃ち出す・・・なるほどね。人に言われて初めて気が付くよ。
私の撃ったアイスニードルのうちの何発かは、ルチアと呼ばれた少女に命中・・・。
けど、彼女は何事も無かったかのように再びフレイムを使った。
またしてもジャンの目の前に火柱が上がる。
間一髪で避けるジャンの運動神経は一体、どうなっているんだろう?
それにしても・・・ルチアはジャンしか見ていないようだ・・・。
アイスニードルを再度作成する。
「アイスニードル!連射!」
さっきよりも射出速度を上げるよ。
パシ、パシ、パシッと空気を震わせながらアイスニードルが発射されていく。数発がルチアに命中し、その体が揺れる。
けど、倒れない。
アデルモが唸った。
「サーラ、あいつはヒート系魔法で身体強化をしている!アイス系の攻撃が効かないのはそのためだ」
マリオが私の攻撃が止んだのを見計らってルチアに切り込んだ。
剣が少女の体を切り裂く・・・いや、切れなかった。
マリオの剣はルチアの防具に弾かれた。
「え?普通の革の防具だよね?」
オルランドと一瞬、目が合った。
普通の防具だけど、魔法強化されているんだね、たぶん。
オルランドはジャンの肩に手を掛けると、引き倒した。
「ジャン、後方へ下がれ!あいつは何故だかお前を狙っている」
「ぐっ!だが、俺だって・・・」
「うるせえ。飛び道具の魔法を使ってくる相手だ。そういつまでも間一髪で避けられると思うな!」
オルランドがグレートソードを抜き放つ。
「サーラ、お前、フレイムとアイスニードルを同時に使うことが出来るか?」
「え?なんで?急に」
「いいから、やれるのか、やれないのか?」
「出来る・・・かもしれないけど、超難しい」
「じゃあ、フレイムとファイヤーボールならどうだ?」
「それなら、さっきよりも簡単」
同属系の魔法の方がやりやすい。異種系の魔法なんて、右手で勉強しながら左手でゲームをするくらい難しいよ。
「そうか。じゃあ、あの小娘が身体強化に使っている魔法も火系統の魔法だろう。中和できそうな魔法は無いか?」
「・・・。お父さんが言ってたんだけど、火属性を打ち消すのは水系統っていうのは思い込みなんだって。要はコントロールを乱せばいいだけなんだって」
「ほう?で、どうやるんだ?」
「う、うん、わからないけど・・・」
オルランドはガクッと肩を落とした。
「しょうもないやつだな、サーラは・・・。じゃあ、衝撃波だ。何か、思いきりぶつけろ!」
「了解!マリオさん達、どいてもらって!」
「おう!」
オルランドが雄たけびを上げた。
「上級魔法だ!マリオ!どけ!」
マリオが飛び退く。
「サーラ!」
「はい!ストーム!」
闇夜に一瞬にして雷雲が浮かび上がった。
上級魔法、ストームは文字通り、雷の魔法だ。風と水の魔法を組み合わせ、天候を作り出す魔法だ。
「サンダーボルト!」
そして、ストームは雷系魔法を使うための下準備でもある。
雷鳴が轟き、稲光が落ちる。
バシーッン、と耳をつんざく音がして、ルチアは雷の直撃を受けた。
辺りは帯電し、肌にピリピリとした刺激を感じる。
「さ・・・サーラ・・・おま・・・」
オルランドは・・・。突進しようとした姿勢のまま固まっていた。
サンダーボルトは、辺りを一瞬、昼間よりも明るく照らし出し、そして鼓膜を破るような音とともに去った。
それは、直後に闇と無音の世界が訪れたようにさえ感じるほど・・・でした。
ようやく目が慣れてくると、道の真ん中に、そのウォーキンデッドとなった少女の遺体が倒れていた。
焼け焦げて、真っ黒になった遺体だった。
さすがに・・・。
胸が痛い・・・。




