表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/81

魔物化した人間(8)

ええ、私だって冒険者を2年もやっているのです。村人を救うのは冒険者の義務。ましてやギルドで正式に依頼を受けているのです。


テントの中から装備一式を掴むと素早く身につけ、マリオの背中を追いかけます。

村はずれの広場から見て、あのフレイムは村の中心地で起きたように見えました。そこまでは数百メートル。

走りながら、私は詠唱を開始しました。

 レイムで燃え上がった炎を消さなくてなりません。

「・・・水のうねりよ我が力となれ・・・」


村の家をいくつか通り過ぎ、大きな家の角を曲がって・・・。

火の手が上がっています。一軒の家の窓からです。もはや屋内は火が回っているようです。

「・・・アクアの神、水流召喚、ウォーターボール!」

詠唱とともに両手を広げ、空中に水の塊を作り出しました。籠一つ分くらいの水の塊です。そして炎を上げている家の窓から撃ち込みました。


バシュウッワアア!


炎の勢いは一瞬だけ弱まりましたが、全然消えていません。

「このぉ・・・」

より強力な水系魔法で打ち消さなければならないようです。どうやらフレイムの効果が切れていないようで、ただの水では消えないようですから。

「アロンザ!気を取られるな!サーラの言葉を忘れたか!敵を探せ!ウォーキンデッドが出現したんだ!」


(引き続きアロンザ視点です)


私は、はっとして周囲を警戒します。

ウォーキンデッド、話によれば危険な相手です。見た目は人間、性格は残忍、使う魔法は上級並み。

まともに戦って勝ち目などありません。

「マリオ!援護をお願いします。村人の安全を最優先に」

村には何軒も家が建っていました。けれど、その半数以上は空き家なんだとか。火の手が上がっている、この家も、その空き家のうちの一つかもしれません。家同士は充分に離れて建っていますし、延焼することも無いでしょう。もはや火を消すのは魔力の無駄かもかもしれません。

「アロンザ、燃えている家から離れよう。これは・・・罠だ」

マリオが周囲を警戒しながら剣を構えています。

「罠?この火柱でおびき寄せるつもりで・・・?」

手前の大きな家は、村長の家だったはず。まずは、そこへ戻り後から来る仲間と連携した方がいいかもしれませんね。

「わかりました。村長の家まで戻りましょう」

踵を返して、そこを離れようとした時、私の視界に人影が見えました。

「誰?」

同時に、聞こえないように詠唱を開始します。敵は火系魔法を使っていましたから、打ち消すためには水系魔法を詠唱します。

「水のうねりよ、我が力となれ・・・」

人影が姿を現しました。


冒険者・・・?


とても若い・・・というか幼い。一応、冒険者というのは12歳になったら登録が可能です。私も13歳で冒険者に成りましたし。

革の服に、ブーツ、魔道具の杖の装備。


そして女の子。


冒険者に成りたてと言った感じです。私はどこか親近感を覚えてしまいましたわ。


「お前は、誰だ?」

マリオが大声で誰何します。その冒険者の女の子は怯えた様子でマリオを見つめ返してきました。

「あの、私はルチアと申します。えっと、その、ギルドで依頼を受けてきたんですけど・・・道に迷ってしまって・・・」

マリオがため息をつきました。緊張感が少し薄れましたわ。

「こっちへいらっしゃい。敵が出たわ!そんなところにいたら危ないから」

昨日、ジャンがギルドに依頼を出した後、遅れてやってきたのでしょう。たまにいるのですわ。現地参加しようとして追ってくる者が。特に駆け出しの初心者に多いんですのよ。


躊躇いがちにルチアが近寄ってきます。


そばまで寄ってくると、杖を握りしめ、怯えた様子で火事と私達を見比べています。


火事の明かりに照らされて、彼女が金髪の美少女だということがわかります。

装備は・・・少し古い物のようです。薄汚れて見えますね。初心者だと、中古の装備を使うことも多く、そういった物の中には汚れがひどいものもありますからね。


「ウォーキンデッドという魔物が出た可能性があるの。それは生き返った死体で、強力な魔法を使う。1対1で戦うのは危険過ぎるわ。仲間と合流して捜索をするから。ルチア、あなたも手を貸してくれる?」

「・・・はい!わかりました。お手伝いいたします」

返事をしたルチアは青褪めていました。無理もありませんね、ようやくたどり着いたと思ったら、いきなり最前線だったわけですから。


一つ手前の家まで戻ります。これだけの火事ですから、村長の息子、ベニートも起きて来ているでしょう。

アデルモ達も、全員が寝ているわけもありませんし、すぐに駆けつけてくるでしょう。


「ところでルチア、あなた怪しい人を見なかった?生き返った死体だし、土の中から這い出してきたのなら、泥だらけだと思うのよ。そういう人、見かけなかった?」

「・・・いいえ」

「そう。一応、言っとくけど、生き返る可能性があるのは、まだ掘り起こしていない死んだ冒険者の墓だけだから。ま、アデルモ達の予想が外れて、5年以上古い死体も生き返るっていうのなら話は別だけど」

なんで5年なの?って聞いたら、アデルモは「5年を越えますとね、棺桶の損傷が進みますから、土の重みで壊れるのです。そうなると土の中の虫や動物に食い荒らされていくので復活はしないと思うのですよ」と答えた。

背中がうすら寒くなったわ。

アデルモも何処かの貴族らしいけど、なにかしらね、少し頭のネジがおかしい感じがしますのですわ。


村長の家の前まで戻ってきました。

すでに家の窓には明かりが灯っていて、家の中からドタバタと走り回る音がしていました。

待ちましょう。

魔法士らしいルチアという戦力が増えたといえ、むやみに突っ込んでいって勝てる相手でもありません。


ベニートが出てくる前に、アデルモ達が走って来るのが見えました。

先頭にオルランド、それからカリーナの姿が見えた。すぐ後ろにジャン、ロレーナ、その後ろにたぶん、サーラ。黒い服で良く見えないけど・・・。


「紹介するわね・・・あの先頭のがアデル・・・」

振り返るとルチアが杖を握りしめ、アデルモ達のことをじっと見ていました。

その目にはなんの光も感じられませんでした。


「え、まさか・・・」

ルチアが杖を持ち上げ、走ってくるアデルモ達へ向けるのと、私が詠唱を途中で止めていたウォーターボールの発動をするのと、ほぼ同時でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ