魔物化した人間(6)
(引き続きジャン視点です)
サーラを見かけた。
相変わらず黒い布の帽子と黒いロングのワンピースだった。
本人は目立たないようにそうしているつもりらしいが、鮮やかな金髪と黒い服というのは何か怪しげな雰囲気を醸し出している。なんというか、いかにも魔女というか・・・。しかも14歳にしては成長が遅く子供に見えるからな。
なにか、こう・・・いけない雰囲気が・・・。
ところで、村の状況が変わったことで、サンテレナから連れてきた冒険者のうち、剣士の3人が引き上げていった。
残った剣士はベテランのマリオだけ。
あとは魔法士の二人と薬師のユーリャ。
ベニートによる村人の説得はうまくいっているようで、5年以内に死んだ者達の墓が掘り起こされていく。
移住して人口が減ってしまったこともあり、村人の墓は、そう多くは無い。
5年以内に限れば3人だけだった。
ベニートを始め、プーラ村の若者3人と剣士のマリオが墓を掘り出している。
アロンザとカリーナの二人は、村人が組んだ薪に乗せられた棺桶を燃やす準備をしていた。フレイム系の魔法を使うのだが、魔法単体で棺桶を完全に燃やし尽くすことは出来そうになかったため薪を組んである。
サーラは・・・。
最初に掘り出した冒険者の棺桶をインフェルノで焼き尽くしていた。
ちなみに、サーラは中身は見ていない。
死んだ数が多いのは、ドラゴン討伐で命を落とした冒険者だ。
アデルモがサンテレナに来た1年前からは、ドラゴン退治で犠牲者が出ることは激減したが、それまでのドラゴン退治は統率が取れておらず、情報も曖昧だったため、命を落とす冒険者も少なくなかった。
プーラ村に葬られた冒険者は7人ほど。
ただ、これが・・・。
元々引き取り手の無い遺体だったため、管理状態が悪く・・・。
何処に埋めたのかはっきりしなかったのだ。
一応、墓石らしきものはあるのだが・・・。死んだ年が書いてあるわけでもない。
そもそも、7人ってえのも、ベニートの記憶が頼りで、忘れてるのもあるかもしれない。
村人の墓を優先的に掘り起こしているため、そっちはまだ手つかずだ。
日もだいぶ傾いてきたから、今日はここまでか。
村の広場のキャンプ地に5人が加わった。
冒険者の4人、ベテラン剣士のマリオ、魔法士アロンザとカリーナ。薬師のユーリャ。それと村人ベニートが情報交換のため、と言って来ている。
ベニートは食材や調理器具を持ってきてくれたし、断る理由は無いな。
野菜たっぷりのスープに干し肉を焼いたもの、それとパンもある。
キャンプにしては、まあまあだな。
食後は情報整理だ。
アデルモが立ちあがる。
「サーラ、悪いが昨日の話をもう一度してもらえるか?」
サーラが緊張した面持ちで頷き、ぽつりぽつりと語り始めた。
「半年前・・・私はイブレア村で暮らしていました。イブレア村は60人ほどの木こりの村でした」
村のことが語られ、サーラが一息つく。
肝心の話はここからだ。
「その日、私は村の人と一緒に森に入っていました。魔導具の材料になる木材集めのためでした。私は護衛の魔法士として・・・」
俺を含めて皆がサーラの話に耳を傾けていた。今までは誰も知らなかった魔物化した人間の話だ。
「午後、村の人達と帰って来ると、異変に気付きました。私の家は村に入ってすぐの所にあったんですけど、庭が荒らされていました。覗き込むと家のドアも開けっ放しでした。私の両親は、どちらかというと几帳面で、そういうことは今までになかったのです」
誰も口を挟まない。淡々とサーラが語っていく。
辛い場面を思い出しているサーラは、時々声を詰まらせながら話をした。
村の人達と一緒に家の中に入ったところで父親の遺体を発見したこと。それは無残にも切り裂かれて血の海に沈んでいたこと。家の中は滅茶滅茶だったこと・・・。
「父の名は、コラード・ディ・オルビア。魔法士でした」
魔法士のカリーナがガタっと立ち上がった。驚いた顔でサーラを指差した。
「オルビア・・・って、あ、あんた、魔法騎士団長の娘・・・」
アデルモが頷いた。
「ああ、そうだ。サーラは元騎士団長の娘だ。田舎へ引退した時に引き取られたってことで血は繋がってないそうだがな」
それを聞いて、既に話を聞いていたメンバー以外の全員がサーラに注目した。サーラは居心地悪そうに俯いた。
「あの、そのー・・・。私、お父さんがそんな有名な人だって知らなくて・・・。魔法はお父さんに教えて貰いましたけど、それだけっていうか・・・」
アロンザが感激したような顔でサーラの両手を握った。
「素晴らしいのです。感激なのです。昼間、あっという間に棺桶を燃やし尽くした魔法、凄いなとは思っていました。魔法騎士団長の娘さんだったとは!私にも教えて欲しいのです」
「う、うん。明日、詠唱を教えるよ・・・」
アロンザは、確か15歳。サーラの一つ上だったか。だが、体の小さいサーラと並ぶと、同年代という感じはしないな。サーラは・・・10歳くらいに見える。
アデルモがアロンザの肩に手をかけた。
「アロンザ、無理だ。サーラの魔力量は桁外れだよ。詠唱を教えて貰うのは諦めなさい。そんな魔法を使ったら、アロンザは魔力切れで倒れてしまう。極端な魔力切れは命に関わることは知っているだろう?」
そう言って、今度はサーラに向き直る。
「師がオルビア公であるなら仕方ないとは思うけどね、サーラ。君の魔法の常識は、普通の者の常識とは随分と違うから、そのあたり、自覚するように」
「う、うん・・・」
コクコクと頷いてはいるが・・・あの顔はわかっちゃいねえな。
アデルモは皆に向き直る。
「話を戻すが、この国で最高の魔法士であったオルビア公でさえ倒された。イブレア村のウォーキンデッドはオルビア公の実の娘だったそうだ」
マリオが声を上げた。
「死んだ実の娘が現れて油断したってわけじゃねえのか?」
「そういうことはあるだろうな。油断はともかく、歳をとってからの娘だったらしく、頭ではわかっていても躊躇いはあっただろうな。だが、家の中の状況はオルビア公が反撃したことを示していた、そうだろう?サーラ」
サーラが頷く。
「はい。家の中は滅茶滅茶でした。お父さんが反撃したのは間違いありません。攻撃魔法の痕跡は二種類ありました」




