魔物化した人間(4)
「へえ・・・お父さん、そんな偉い人だったんだ・・・」
「へえ、じゃないですよ、まったく。僕なんか掃いて捨てられるほど身分が違いますよ。同じ貴族だなんて口が裂けてもいえないくらいのね!」
「う、なんかごめんなさい・・・」
「いや、サーラちゃんが謝ることじゃ・・・」
ロレーナが困った顔でアデルモを見た。
「あ、そうですね。僕の方こそごめんなさい。いや、しかしですよ。そんなオルビア家の名士が、ですよ?まさか同じ趣味の方だったなんて、僕は何か親近感を感じますよ」
「ん?」
「え?」
「何言ってるの?アデルモ?」
ロレーナが蔑んだような目でアデルモを見ていた。
「いやいや、だってそうでしょう?その・・・コラード・ディ・オルビア騎士団長様が再婚した若い女性というのは、獣人の方でしょう?」
オルランドとロレーナが一斉に私を見た。特に頭の上の方、猫耳のあたりを。
私は反射的に猫耳を隠した。
「いやいや・・・隠したって・・・」
「サーラちゃん、そうなの?お母さんが獣人だったの?」
私は首を横に振った。
「ううん。違う。お母さんも普通の人だったよ。こんな耳なのは私だけ。妹も普通だった」
「それは・・・つまり・・・」
アデルモが困惑した顔で私を眺める。
「たぶん・・・私、お父さんと血は繋がってないと思う。お母さんにも、オルビア家の家名を名乗ることはしてはいけません、と強く言われたし。だから私は、サーラだよ?イブレア村のサーラ。ただのサーラ」
「いや、しかし・・・それでは辻褄が・・・」
アデルモがぶつぶつ言っていたけど、ロレーナが話を戻そうとする。
「ま、それは今は置いときましょう。サーラちゃんのお父さんが偉い魔法士さんだったってことはわかったわ。サーラちゃん、クッキー、もう少し食べる?」
「うん!」
パクっとクッキーを口の中へ。うん、おいしい。さっきと違って甘い味といい香りが口の中に広がる。お父さんとお母さんの話が出来て、少し幸せ。
ロレーナが優しい目で、アデルモが困惑の目で、オルランドは諦めたような目で、私を見ているよ。
私は、気持ちの整理が少しついたような気がしていた。
ロレーナは、私にお父さんとお母さんの優しい思い出を取り戻してくれた。
二人が死んだのは悲しい出来事だったけれど、だからといって、優しい思い出が無くなってしまうわけじゃない。辛い記憶だけど、それに立ち向かうためにも、そしてプーラの村を救うためにも言わなくちゃいけないんだ。
「ロレーナ、アデルモ、オルランド・・・」
オルランドが真剣な目に戻る。
アデルモも私をまっすぐに見た。
「サーラちゃん。無理はしなくてもいいのよ?」
「ううん、もう大丈夫。私はプーラの人達も助けたい。魔物化した人間の正体を伝えたい」
「ええ。わかっているわ。サーラちゃんがいいのなら、私達に教えて」
私は、ごくりとつばを飲み込んだ。
「私の両親を惨殺したのは・・・死んだ妹だったんです」




