表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/81

魔物化した人間(3)

ロレーナが隣に座り、クッキーをすすめてきた。

私はそれを一口食べて水を飲む。


全然味がしない。


「ごめんね、サーラちゃん。辛いことを思い出させて」

ロレーナは微笑む。

「無理に聞き出そうとしてごめんね。少しづつでいいの。まずはサーラちゃんのお父さんのことを聞かせて。どんなお父さんだった?」


お父さん・・・


「お父さんは・・・魔法士だった」

物心ついた時、父は村で農業をしながら、時折現れる魔物退治をしていた。

父は・・・他の子達のお父さんに比べて、歳を取っていた。


たぶん、私が生まれた時、50歳くらいだったのだと思う。

思い出の中の父は、60歳半ばの初老の田舎のおじさんだった。まあ、かなりかっこいいおじさんだけどね。筋肉もモリモリしてたし、皴は深いけどハンサムだったし。


歳は取っていても、魔法の切れ味は鋭く、体力も充分だった。

父は普段から鍛錬を欠かしたことが無かったし。


ロレーナは優しく微笑んだまま話を聞いてくれた。

「じゃあお母さんは?」

 

母は、父に比べてかなり若かった。

この世界では、結婚年齢がかなり低い。だから他の子のお母さんも若かったけれど。

父との年齢差は30歳以上あったのではないだろうか。


「兄弟や姉妹はいなかったの?」

「妹が一人いた。でも、5歳になる前に病気で死んでしまったの。母は悲しんだけれど、すぐに立ち直った。あと、お父さんには子供が何人かいたみたいだったけど、もうみんな大人になっていて、王都で仕事をしているって聞いてる」

子供が大きくなるまで生き延びる確率は低い。病気、怪我、飢饉・・・この世界は非情だから。

「王都で仕事・・・」

アデルモが何か言いかけたけど、オルランドが手で制した。


「いいのよ、サーラちゃん。村のことを教えて」

「イブレア村は・・・元々は木こりの村だったって、お父さんが教えてくれた」

クルタス王国は緑豊かな島国だ。家を建てる場合にも木材を多く使用する。例えば石造りの壁の家でも、屋根は木材を組むし、純木造の家も珍しくは無い。

それに、いかに魔法で火をおこせるとはいえ、炭は安くて効率のいい燃料だし、薪も冬には必需品だ。

私が物心ついたころには、木こりの仕事に魔物退治が加わっていて、魔石から得られる収入が村に繁栄をもたらしていた。

その魔石は・・・父の貢献によるところが大きい。


イブレア村は山奥の村で、冒険者ギルドもなかった。父は攻撃魔法で魔物を退治していた。狩った魔物は村の人達で解体し、素材とした。素材や魔石は年に数回、街へ売りに行っていたようだ。

「たぶん、イブレア村の近くにもドラゴンが現れる場所があったんだと思う」

10歳になるまで、私は一人で村から出たことは無かった。村の外は危険で、子供だけで遊びに行っていい場所では無かった。

 

「10歳の誕生日に、お父さんは私を連れて森へ入ったの。森は恐ろしい場所だって聞いていたけど、お父さんや村の人が一緒だったから、それほど怖くは無かったよ。そこで、初めてドラゴン級の魔物を見たよ。私はお父さんに言われるままに魔法を使って攻撃をした。最後はお父さんが倒したけれどね」


アデルモが大きな口を開けていた。

「サーラ・・・10歳でドラゴンと対峙してたのか?」

「え?うん。毎回、ほとんどお父さんの言いなりでやってただけ」

「ま、毎回って・・・。何度くらいドラゴンを倒したんだ?」

「え、どうだろう?数か月に一回くらいだったから・・・。3年半くらいで・・・30回くらい?」

「おい・・・。お前、俺達と場数が変わらんぞ?」

「え?そうなの?」


イブレア村は、ドラゴンから採れる魔石のお陰で豊かな生活を送れていた。

村人は父に感謝していたし、私のことも猫耳だからって差別はされなかった。


アデルモが手を上げた。

「つかぬことをお聞きしますが・・・」

「はい、なんでしょう、アデルモ」

「父君は王都で活躍されていた魔法士、ということで良いのでしょうか?」

「お母さんは、そんなようなことを言ってたよ。お父さんは、昔は偉い魔法士だったのよ、って」

「ちなみに名前を聞いてもよろしいですか?」

「お父さんの?コラードだよ」

「家名は?」

「なんだっけ・・・?確か・・・オルビア?」


アデルモとオルランドが目配せをした。

「え?なに?」

ロレーナが、やれやれと肩を竦めた。

「え?なに?なんなの?」

アデルモがため息とともに言った。

「サーラ、どうしてあなたが規格外の魔法を使えるのか、今、わかったからですよ。僕が知る限り、オルビアという家名は、クルタス王国第二の都市、オルビアを治める侯爵家の家名に他なりません」

「う、うん。そ、それがどうかしたの?」

「オルビア侯爵家は、代々、クルタス王国の魔法騎士団に多くの人材を提供し、その騎士団長を務めてきたのですよ」

「それってどういう・・・」

「つまりですね、オルビア家というのは、クルタス王国の中でもトップ集団だってことです。魔法士の!」

アデルモは続けた。

「コラード・ディ・オルビアは、間違いなく、王国騎士団長だった男です。田舎暮らしをしたいと願い出て早期引退をして自由気ままに暮らしていると聞いていましたが・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ