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最上級魔法

(ジャン視点)


フォクシー村へ戻ってきた時、砦にいた何人かの村人は、俺達が尻尾を巻いて逃げ帰ってきたのだと思ったらしい。


だが、オルランドが巨大な紫色の魔石を掲げて砦を通過したことで、全員が黙り込んだ。


あれはなかなか愉快な体験だったな。


ああ、もちろん、俺たちゃ「グリフォンの姿を借りたダチョウ」だ。

強い魔獣のフリをしているだけで、実際はなんもしちゃいねえって意味の諺だ。子供向けの物語に出てくる逸話だな。


村の中央まで来た時には、俺達は村人に囲まれていた。


「水龍をやっつけたのか?」

「いったいどうやって?」

「魔法と剣の力だって?そっちのお兄さんが魔法士かい?アデルモさんっていうのかい?ほう、言われてみりゃ気品がある。あんた、どっかの名家の生まれかい?」


日はまだ高く、サンテレナまで戻ろうと思えば戻れたんだが、どうやら村人達が感謝の宴を開いてくれるっつうんで、その言葉に甘えることにした。


サーラは・・・。


帽子をぎゅっと深く被り、長いワンピースに尻尾を隠してオルランドの影にいた。

村人たちも、一際小さなサーラを気にしなくもなかったが、パーティーに何かあった時の治癒魔法でもするんだろうくらい感じでスルーされていた。


魔法士にも、攻撃主体のやつと、バックアップ専門のやつがいるからな。


何も知らない奴から見れば、サーラはゴツいオルランドの影に隠れるようにしている子供のようなもの、だった。

そんな奴が攻撃魔法を使うとは誰が想像出来る?

長い金髪が帽子から零れて多少目を惹いていたが、今は水龍討伐の嬉しい知らせに場が湧きたっていた。


水龍を倒した方法は、アデルモとオルランドの二人を中心に連携プレー。立てた作戦が予想以上にうまくいったからだ、ということする。

そう言いだしたのはサーラだ。

目立ちたくはない、と。

「じゃあ、さっさと帰ろうか?」

そう聞くオルランドに、サーラは「えっと、でも、ピザは食べたい」と答えた。


なんだよ、食い意地かよ。


ともかく、村の広場、海に面した一角で、宴は始まった。

魚料理を中心に、パスタやピザが並んだ。


村人たちも一緒に飲んだり食ったりだ。



水龍から出た魔石は、通常の魔石の数倍大きく、透き通った紫色をしていた。

 

普通、ゴブリンなんかの魔石は黒っぽく、透明でもない。

だから、この魔石が特別だってことは一目でわかる。


重要なのは、どう普通じゃないかってことなんだが、残念ながらアデルモ含め、俺達にゃ手に負えない代物だ。

こういうものは専門家に引き取ってもらうのが一番いい。

サンテレナに戻ったらカリアリ商店に持ち込もう。



それにしても、サーラだ。


あの娘、一体、何者だろう。


いや、詮索するなとか言ったのは俺だけど。

そりゃ、サーラに嫌な気分になってほしくなかっただけで、気にならねえってわけじゃねえから。


俺達、庶民にとって魔法ってのは、魔導具とか魔石を介して行う便利なもの、くらいの感覚だ。主に、お湯を沸かしたり、火をおこしたり。

戦闘のための魔導具っていうのもあるが、まあ、高価だわな。

ロレーナが魔道具の矢を使いたがらないのも、値段が高いからだ。


魔法士、というのは、戦闘に魔法を使う者のことだ。

攻撃だけじゃなく、治癒魔法を使うものも含む。この時、魔道具を使って魔法攻撃力を嵩上げしたりすることある。魔石による増幅効果っていうらしい。

サーラは、そういう増幅効果のある魔石を身につけているのだろうか?

あのファイヤーボールの威力は凄まじかった。

俺は冒険者になって6年。12歳の頃に見習い冒険者になった。

でも、この6年で、あんな馬鹿みたいにデカいファイヤーボールは見たことがない。


それだけじゃない。


最上級魔法インフェルノ。


俺も聞いたことはあったが、見るのは初めてだった。

サーラは、魔物を焼き尽くすのに便利な魔法、くらいにしか思っていなかったようだが、本当はれっきとした攻撃魔法だ。

それも範囲魔法で、かつ、即死性の高いヤバいやつだ。


大体だな、ファイヤーボールで敵を倒して、インフェルノで焼き尽くすっていうのがおかしいんだ。

そんなもん、最初からインフェルノで攻撃すりゃいいんだ。


俺は目の前で見たが、あのデカい水龍の残骸が数十秒で焼き尽くされていたんだぞ?

なんのためにファイヤーボールで倒さなきゃならんのだ?魔力の無駄でしかない。


サーラは、そのあたり、全く理解していないようだ。

あれだけの魔法を使いながら、その役立て方を全く理解していないなんて。


ともかく、そういうアンバランスさは一先ず置いておくにしても、そもそも魔法力が多過ぎる。


この国では、魔力の大きさが人の価値を決める。


そもそも最初の王が魔法で作った国だ。その子孫が貴族となった。魔法を使える一族が貴族として権力を握ったのだ。

もちろん平民の中にも魔法を使えるものはいる。けれど、そういうものは貴族に取り込まれる。魔力があるもの、それすなわち貴族なのだ。


サーラの魔力の大きさは、貴族の中でも上位だろう。


俺は話だけでしか聞いたことがねえけど、巨大なファイヤーボールを撃つ魔法士だとか、インフェルノを使う魔法士っていうのもいるらしい。


貴族の討伐隊なんかの話では、な。


そんな話でも、インフェルノなんて魔法は、討伐隊のリーダー格だけが使える必殺技的なやつなんだけどな。


サーラみたいに、焚火感覚で使うもんじゃねえ。


でもサーラは貴族じゃねえみたいなんだよな。

詳しくは話してくれなかったが、どこかの田舎で育ったらしいし、両親と妹の4人暮らしだったらしいし。

生活の話を聞く限り、貴族であるわけがねえ。


それに第一、サーラは獣人だしな。

この国で、獣人族の貴族なんてものはいないからな。


でも貴族じゃないのに、あの魔法力。


まさか、本当に伝承の化け物ってことはねえよな・・・。


いやいや、何考えてんだよ、俺は。

どっかの爺いじゃあるまいし、根も葉もない昔話じゃないか。第一、サーラは夜な夜な化け物に変身しちゃいねえ。

それは、一緒に飲んでる俺が一番よく知ってるじゃねえか。


あーわからん。


ともかく、サーラは俺たちの仲間になった。

まあ、これからいくらでも時間はあるんだ。ゆっくりとサーラが何者なのか、聞き出せばいいや。

今日の所は、水龍討伐、お疲れさんってことで・・・。


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