ファイヤーボール2
ゴオオっと轟音が鳴り響く。
「あれ?」
直径5メートルくらいの火の玉が周囲の木や草を燃やしながら撃ち出されていった・・・。
「あ、思ったよりでかい?」
オルランドがつぶやく。
「あ、じゃねえよ・・・デカすぎだぜ、どんだけ膨れ上がるのかと思ったぜ」
けど、撃ち出した後もコントロールしなきゃいけないので、オルランドに答えている暇は無いよ。
デカい火の玉を加速させる。
ちょっとデカすぎて、加速させるのも魔力を消費する。
けど、今さらだ。
絶対に当てに行く!
水龍は、肩に刺さった氷の槍を振りほどこうと暴れていた。
相対的に腕が短く、左腕の付け根、肩のあたりに刺さった槍は、右手で払い落とせない位置にあった。
だが、その時、本能的に危機を感じる。
水龍が見上げると、そこにはこちらに向かって飛んでくる火球があった。
水龍は口を開けた。
私は、ファイヤーボールをコントロールしながら、水龍が口を開けるのを見た。
まさか・・・熱線とか出たりしないよね・・・?
水龍は、口から衝撃波を発射した。
衝撃波、とわかったのは、ファイヤーボールに手ごたえを感じたからだ。
私は、さらに魔力を込めてファイヤーボールを維持する。
「くっ!」
まずい、魔力消費が多い。そもそも予定以上のファイヤーボールを作ってしまっているし、それを加速させるのにも結構な魔力を使っている。
「ダメか・・・それなら・・・!」
水龍の衝撃波でファイヤーボールは破裂した。
私は、破裂の瞬間に分裂をコントロール、破片は数個に分かれたけれど、中心の大きなものを核にして、そのまま水龍に当てに行く。
「いっけえ!」
バラけて小さくなったファイヤーボール、けれど、その最大の物は2メートルくらいの大きさを維持していた。そして破片も一緒に水龍に降り注ぐ。
水龍を倒した。
「おい・・・」
オルランドがようやく声を出した。
しばらくの間、全員、無言で立っていた。
うん、私も含めてね。
「おい、サーラ。あれはなんだ?」
「えと、ファイヤーボール?」
オルランドがため息を一つ。
「馬鹿を言え。ファイヤーボールってのはな、普通、こう。このくらいのだな」
そう言いながら、両手でオニギリを作るような仕草をした。
オルランドが言う通り、常識的なファイヤーボールというのは野球のボール程度の物だ。以前にパーティーを組んだ時、私が使ったファイヤーボールも、そのくらい。
だから、ゴブリンを倒すときに使うバスケットボールくらいのファイヤーボールでさえ異常なのだ。
「んーと、目の錯覚?」
「んなわけあるか!」
怒られた。
私の魔法のことは、ひとまず置いといて、倒した水龍を確認するために丘を降りた。
「見事に焼けていますわね」
「ああ、直撃した頭部は原型がわからないな」
「尻尾は少し残ってる。アデルモ、尻尾の鱗、とっとくか?」
「そうしてくれ、ジャン」
「胴体から前足はウエルダンだ。食ってみるか?ロレーナ」
「ふん、冗談はやめて」
四人は水龍を検分し、素材回収出来そうなものを探す。
「ほとんど回収出来そうなものはないな。尻尾の鱗と、足の爪くらいか・・・」
「魔石に期待するしかありませんわね」
アデルモとロレーナがため息をついた。
「素材については諦めよう。どうせ最初から倒せる相手だとは思っていなかったのだからな。それがたった半日で討伐完了したというだけで十分だ。アデルモ、ロレーナ、ジャン、それでいいな?」
オルランドが宣言でもするように大声で言った。
「ま、しかたないかあ・・・」
「そうですわね。それにしても、サーラちゃん、あなた、一体何者なの?」
「そうだ、それだ。サーラ、君は・・・」
そう言うと4人が私を見た。
やあね、見つめないで?照れちゃう。
じゃなくて。
やっぱり、おかしなことしちゃったかな。
アルマゲドンなファイヤーボールを放つ猫耳女は化け物だよね。
「はあ・・・」
ため息をついたのはジャンだった。
「ロレーナ、アデルモ。そういう詮索はしない約束だったろ?いいじゃないか、サーラはサーラで。なあ?サーラ、お前、ソロやめろ。俺達のパーティーに入れ」
「ちょっと、ジャン。何を勝手に決めてるんですか?僕がリーダーですよ?」
「でも反対はしないだろ?強力な魔法士が欲しいって、そう言ってたもんな?」
「確かに戦力としてサーラは期待以上ですし・・・」
そう言いながら、アデルモは私を見た。
アデルモの後を引き継ぐように言ったのはロレーナだった。
「それに、かわいい猫耳付きだし?アデルモ、サーラちゃんをパーティーに入れるのに反対はしないわ。けど、絶対に手を出さないでよ?」
「な、なな、何を言うんですか、ロレーナ!」
「俺もサーラがパーティーに入るのに反対はしねえ。さっきの見た後じゃ、反対する理由がねえ。ただ、報酬の分け方は今まで通りだ。何があっても均等割り、サーラが異常に強くても、だ。その代わり、俺達はサーラの秘密がバレねえように努力する。危険が及びそうなら、それを防ぐ」
4人が私を見る目は優しかった。
「で、でも、私、化け物かもしれないし・・・」
アデルモが一歩踏み出す。
「大丈夫だ!サーラは化け物じゃない!猫耳は宝だ!」
ロレーナがアデルモの頭を叩いた。
「何言ってるんですか、この没落貴族は。気にしないで、ね?」
「え、ええ・・・」




