ストレス
顔を引き攣らせるアデルモ。そして何故か誇らしげなジャン。
「俺が言った通りだろ、アデルモ。サーラのファイヤーボールはすげえって」
「前回の戦闘では、セーブしてたっていうのか・・・」
頭を抱えるアデルモ。
あ、ひょっとして、私やらかした?
空気読めてなかった?
胸の奥で、きゅうっと痛みを感じる。
これは・・・ストレスだ。
前世で、何度も、何度も・・・何度も味わった感触。
肝心な場面で空気を読めない私は、それで大事な選択を間違えた。
大抵は先生とか、上司に・・・。
言わなくてもいい一言を、つい言ってしまう。
それが回りまわって自分の首を絞めていく。
「サーラちゃん?どうしたの?大丈夫?ひょっとして魔力切れ?」
はっとしてロレーナを見る。
「あ、ごめんなさい。私・・・」
ロレーナは、ハッハと笑う。この人、なんか時々、男勝りだ。
「気にしなくていいのよ、サーラちゃん。アデルモはね、自分よりも遥かに強い魔法を目の当たりにして、ちょっと呆然としているだけなんだから」
やっぱり・・・私、パーティーリーダーの誇りを傷つけちゃった・・・。
「けど、サーラちゃんの魔法、凄いわね。あんなの見たこと無いわ。魔力切れ、してないのよね?大丈夫なのよね?」
「ええ、それは大丈夫なんですけど・・・」
「それなら結構!アデルモのことは放っておいて構わないわ。あの人、サーラちゃんをマスコット代わりぐらいに思っていただけなんだから。むしろ、実力を証明してくれて有難いわ。味方の戦力の把握っていうのも、重要なことよ」
アデルモをチラ見する。
大きく息を吸って吐く、を二度三度と繰り返している。
大丈夫かな・・・。アデルモに嫌われたんじゃないのかな・・・。
「サーラ!」
アデルモが急に振り向いて声を掛けてきた。
「は、はい!」
「すまん、取り乱した!悪気はなかったのだが・・・。サーラの外見に惑わされていたようだ。まさか、こんな幼気な猫耳少女が魔法を・・・あんな強力な魔法を使えるとは・・・」
「アデルモ・・・それ、かなり差別発言だって気付いてる?」
ロレーナの目に軽蔑の色が浮かんでいる。
あれ?
いいのかな?
私、大丈夫なのかな?
「サーラちゃん。これ、重要なことだから言っとくね。アデルモは、控え目にいって、獣人少女が大好きだから。気を付けなよ、決して二人きりにならないように」
え?どゆこと?
オルランドを見る。
何故か目を逸らされた。
ジャンを見る。
あ、目を合わせようとしてない。
アデルモを見る。
目が泳いでる。
ロレーナを見る。
しょうがない、という顔で頷いた。
「あの、私、本当に・・・」
つぶやいた私にオルランドが答えてくれた。
「問題ない、俺も助かったよ。マンティコアは強い魔物だからな。大方、水龍から逃れてきた一頭だろう。水龍本体は、そのマンティコアの複数体を同時に相手にして圧倒するほどの能力だということだ。よほど気を引き締めていかねばな」
ジャンが投げ捨てた鉈を拾う。
先頭に立って蔓や枝を払い、道を作る作業を再開する。
私は、もう一度メンバー全員の顔を見る。
アデルモは目が泳いだまま。
ジャンは・・・後ろ姿しか見えないか。
オルランドは装備を仕舞いアデルモの代わりに「さあ、出発だ」と声を掛けた。
その声に、アデルモがはっとする。
「アデルモ、サーラの魔法は使えるぞ。さっきのファイヤーボールに合わせて戦闘の段取りを考えてくれ」
「わ、わかった」
アデルモが強く頷いた。そこでようやく私と視線が交わった。
「サーラ、取り乱して申し訳ない。正気に戻った。もう問題ない」
「アデルモさん・・・」
「ロレーナの言う通りだった。僕はサーラのことを過小評価していた。次からも出し惜しみなしで助けて欲しい」
「・・・はい。わかりました」
ジャキン、ガサッガサッとジャンが鉈をふるう音だけが聞こえる。
私は、もう一度、気配を感じようと試みる。
思うに、これも一種の魔法なんだと思う。
耳で音を聞いているというよりも、気配、魔素の濃さ、そういったものを感じ取るスキル、みたいなものだ。
それなら帽子を被っていても被っていなくても、関係ないような気はする。
けど、帽子を被っていない方が、このスキルは使いやすい。
耳が関係しているのかな・・・。
数百メートル先、巨大な魔物の気配。
その周辺に魔素反応。
ん・・・。
「あ!まずいです」
「どうしたの?サーラちゃん?」
「向こうに気付かれました。巨大な魔物、こっちに来ます!」




